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異邦人  作者: 月水
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とりあえず着きましたけれど。

頬に冷たい感触がして、うっすらと目を開けた。

目線の先には若々しい雑草が生えていて、投げ出されたようにうつぶせに倒れていた。

体中とのどが痛い、落ちるときに叫びすぎたかもしれない。

とりあえず、状況確認。周りは深い森みたいで、かなり高い木が堂々と立ち並んでいる。

水と森の香りってこんなに清清しいんだな、なんて場違いなことを考える。自分がどれだけ空気の汚いところにいたか思い知らされるようで少し胸が痛くなった。

それにしても、ここはどこなんだろう。

どうみても街近くとか人がすんでいなさそうな感じがする。よくテレビなんかで出てくる秘境とかそんな感じ。

ああ、どうかここが日本でありますようにー!

英語の成績を考えると、日常生活すら厳しい。真面目に勉強しておけばよかったと今更後悔したって遅い。

英語圏でも怪しいのに、それ以外の言語なんて知識どころか文字すら読めない。

とりあえず校長先生が言っていた彼とやらを探さなきゃいかんね。


「誰かーいませんかー!?」


かーかーかーと空しいエコーが森の中に木霊した。日常生活では体験できない新鮮な感覚に思わず笑みがこぼれる。

これは楽しいかもしれない・・・ってそれどころじゃないっつーの!

このまま誰とも会えなかったらこの深い森の中で夜露をしのぐような生活をしなければならない。

ホームレス一直線じゃないか!校長先生曰く勝手に落とされて勝手に呼ばれているらしいから、せめて衣食住くらいは保証してほしいなと思う。

まずは人に会わないと。

森の中で迷ったときはどうするんだったかな。

頭の中の記憶を紐解いて、昔読んだ登山の心得を思い出した。

いや、登山が趣味ってわけじゃないけど知っていれば得することあるじゃん!なんて軽い気持ちで読んだだけだったんだけど、こんなところで役に立つとは思わなかったなあ。

とりあえずスニーカーの紐をきつく縛りなおして、切り株を探した。

切り株の年輪を見てー・・・って。


「年輪がない・・・。」


見つけた切り株の表面には小さな斑点がついているだけで、輪なんてどこにもなかった。

いや待って、この形状は見たことあるぞー・・・たしか小学校の理科の時間に習ったような気がする。

習ったような気がするけど正式名称は忘れてしまった。

維管束の形で植物の成り立ちがどうのこうの。日本にこんな変な木ってあったっけ・・・?

とりあえず方角を知る手段が分からなくなってしまったので、足元にあった石を拾って切株の隅っこに矢印を書いた。

これなら迷ってもどこに行ってるのかなんとなくわかるはず。

そして、周りを見渡して30センチくらいの木の枝を拾った。何かのときに役立つかもしれない。

右手に木の枝、左に小さな石。制服と肩掛け鞄。鞄の中にはろくなもんが入ってない。

RPGだったら最低ランクの装備だな、なんて思ってしまう。

頭の中に某有名RPGのテーマを流しながら、木々の間を縫うようにして歩いた。

それにしてもここって本当に日本なんだろうか。

空気が清浄すぎる気がする。それに鳥や動物が見当たらない。

中学のときの山登りで知ったのだけど、森には虫が多かった。トンボや蝶みたいな可愛らしい昆虫から、蜘蛛やムカデみたいな気持ち悪いのまでうじゃうじゃと。

でも、この森にはそれが一切見当たらない。暑くもなく寒くもない、こんな絶好の環境の中で生物がいないなんてちょっとおかしい。


「ほんとにどこなんだろうなあ、ここ」


せめて民家でもあれば、気分も楽になるんだけどな。

一人でボケて一人で突っ込みって本当に空しいね。いまならわかるRPGでのパーティの重要性。

気分が鬱々として、気分がめいってくる。歌でも歌おうかなあ。

頭の中で流れている勇ましい音楽に適当な歌詞をつけて、でたらめな歌を作って歌う。

好きな曲だから何回も聞いていたから細部までばっちりだ。

もちろん曲だけじゃなくてゲームの細部までばっちりだ。

ゲームは一にストーリー、二に音楽、三にシステムや難易度だと思っているから、ゲームをするときに音楽のチェックは絶対に欠かせないと思ってる。

クソゲーだのなんだの言う前にゲームを楽しむ術を見つければいいのにと、雑誌の批評を見るたびそんなことを思う。

お気に入りのゲームを見つけて遊び倒せばよいのです、そんな批評を読む前に。買うときは自分の感性を信じればいいのです。ただそれだけのことなのにね。

ふうとため息をついて、手に持った棒をぶんぶんと振り回した。

何かしていないと嫌なことばかり思い出してしまう。

もしここでモンスターとか出るんだったら可愛いやつかもしれない。大体物語の最初に出てくるのは弱くて経験値が稼ぎやすいのばかりだから今の私でも大丈夫かもしれない。

変な前向きだけど、そんな風に考えたら少し気分がのってきた。

よし、何にも怖くないもんね!矢でも槍でも持ってきなー!

ぶん!と手に持った棒を振り上げたときだった。




グルル・・・




今 なんか 聞こえた よ ね?


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