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異邦人  作者: 月水
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神様たち



【先日は非礼を働いたようで真にすまなかった】


【申し訳ない】


暗闇の中に凛と響く高い声とを響きのある低い声がこだました。

寝起きの半起き状態。よく金縛りになるといわれる半覚醒の状態。どちらかというと眠っている方が多いような感じだ。

頭の中でいえいえ、こちらこそ怒鳴ってごめんなさいと謝ると向こうが安堵したように息をついた。

この声は初日の夢の中に出てきた人たちだ。誰?名前を聞くのは失礼かな。


【名前か。ラサティと呼んでくれ】


【・・・適当でいい。】


これはこれは、ご丁寧に。

高い声の方がラサティさん。低い声の方がテキトーさん。

そうかと納得しかけた途端、ラサティさんが吹き出した。引きつった声が聞こえるけれど、どうやら声がでないくらい笑っているらしい。

なんじゃいな、ラスティさんとテキトーさんで合ってるでしょ。


【・・・っ、レ、レイ。私とテキトーさんは呼び捨てでかまわない。】


【・・・ふん。】


やたらテキトーと名前を強調して笑っている高い声に低い声が不満そうに鼻をならした。

男の人と女の人?というか人の夢の中に入ってきているけどどちらさまですか。


【ああ、そうだ。私が女、あっちが男だ。なあ、テキトー?】


【うるさい。どちらにしろ名前がないのだから訂正しようがない。】


【私とこれは先代の神だ・・・と言えばわかってもらえるか?】


あの世界を作った人と邪気を倒した人。

でも神話の話だから物語のなかの人たち。


【物語というよりは記録といった方がいい。】


【ラサティ、簡単に纏められた方を読んだらしい。そういえば正確な記録は緑峰に置いてあったな。】


緑峰に行ったら記録よりも独裁者の人に会わなくちゃいけないなあ・・・。

たくさん聞かなきゃいけないことがある、それから戦争やめてって言う。


【言うだけでいいのか。】


【言葉だけで伝わったなら戦も殺戮もなくここまでこれたものを】


何を暢気なことを言うのだと言わんばかりの呆れた声がちょっと腹立つ。

まずは話し合いありきでしょう。話し合いをしてから決めなければ、フェアとは言えない。


【相手がフェアだとは限らない。】


【こちらの手数によっては先手を取らなければ死者を出す事態に陥ることもある。】


だって


【今日が良い例だ。】


【お前はあの男を死なせたと後悔していた。先手を打っていれば後悔せずに済んだものを】


・・・。


【あの女は油断していた。あの街の傭兵の倍以上の兵を事前に用意し、完全制圧できると信じて疑っていなかったからな。】


【愚かしい女だ。邪気にあてられた哀れな女だ。】


邪気?


【よもや邪気まで物語だと思っていたのか。それこそがお前が呼ばれた理由だというのに】


心のどこかで邪気というのは比喩のことだと思っていた。

だから話を聞いたときピンとこなかったんだ。


【・・・異界の人間と言うのは理解力が乏しいらしいな】


【力は強い。それに清清しいほどの博愛主義だ】


ため息交じりの言葉にさらに苛々。

そういうこと本人の前で言う?

頭悪いとか人格疑うとかひどすぎるよ。


【本人の前で言わずどこで言うのだ。】


【博愛主義でなければ困る】


何がひどいんだといわんばかりの不思議そうな声の二人。

ラスティの方には色々言いたいこともあるけれど、突っ込んでいると話が進まない。

今いち邪気がどうのこうのという話がわからないのだけれど、教えていただけますか先輩さんたち。


【なにやら含みのある言葉だが、まあいい。邪神のことは聞いたな】


確か神様が腐って溶けて悪い神様が生まれましたーってやつ。

邪気と邪神・・・。邪気?悪霊退散ってやるのかな。


【今この地にいるのは邪神ではなく、その欠片といった方がいい。気配はしているが、姿を見ることはできない。】


【簡単に言うと陰のようなものだ。】


【だがそのままにしておくのは忍びない】


【現に少しずつ影響が出始めている】


【あれは人間の欲を刺激する】


【誰よりも優れていたい。誰よりも豊かに、誰よりも素晴らしい人間でいたいという欲求を刺激する。】


畳み掛けるように二人の声が重なり合う。

きんきんと頭の中に響く騒々しい声に耳を塞ごうとするが腕が動かない。

人生初の金縛りー!なんて喜んでいる場合じゃない。


【力は弱いが憑けている人間の性質が悪い。あれは迷いが無い、いい意味でも、悪い意味でも。】


【良い意味などない。長い間眠りすぎて頭が腐ったか】


【ラスティ、考えて発言をしろ。あれは純粋なのだ。自身の願いと周囲の願いに振り回されているだけの子供でしかない。】


子供。

頭の中に四歳くらいの男の子がアレが欲しいコレが欲しいの駄々をこねている姿が浮かんだが、いくらなんでもあんまりだ。


【そうだ、それで合っている。】


【ラスティ、レイ、邪な考えはそれだけで悪意を呼ぶということを覚えておくが良い。】


【手塩をかけたものは何をしていても庇いたくなるらしいな、テキトーと名づけられた創世神よ。その名に相応しい曖昧さ加減で腹が煮えくり返る】


怒気を含んだ声がびりびりと空気を奮わせる。

もう一つの声はだからどうしたといわんばかりにため息なんかついている。

手塩にかけたって、神様が人間に与えた仕事は確か文明の発展だったと思うけど。


【そうだ。これは人間に自分が住んでいた環境と同じものを作らせるために人間に知識を与えた。いわばエゴのために人間を作ったと言うわけだ。】


【私の故郷には豊かな緑があった。そして生き物が幸せに暮らす国家と森があった。もう一度再現したいのだ、あの幸福に包まれた唯一無二の世界を。】


夢見心地で語るテキトーにラスティがは!と軽蔑しきったように笑った。


【そんなに理想郷を作ることが大事か。今生きている者のことを見ずによくそんなことが言えるものだ。私があの時人間を滅ぼしていればこのように異国から娘を招かずとも済んだものを!】


・・・今すっごい物騒な言葉が聞こえたんですけど。

二番目の神様は国を救った英雄・・・だったはずでは?

あの時って言葉も気になるんですけど。


【どうやらそのように伝えられているようだが・・・まあいい。私から話すことでもあるまい、知りたければ緑峰の記録を読め。あの記録は私の日記のようなものだ。】


【今生きているものを滅ぼすなど、到底賛成できない考えだ。完璧なものなどこの世にはない、人間の歪みもまたあってしかるべきもの。】


そうよ、うまくいかないから殺すなんて残酷なことがよく言えるわね。


【さすがは博愛に満ちた創世神と慈母神様だ。なら二人で偽善と苦悩を背負い、懺悔と悔恨に塗れて人間と共に生きるが良い。・・・といいたいところだが。レイ、お前はここに来て日も浅い。もし私の考えに賛同するのならいつでも呼び出せ。喜んで力を貸そう。】


あんたに賛成することなんかぜーったいあり得ないから。

腕も顔も動かないから心の中でべーっと舌を出すと、ラスティはしょうがないなといわんばかりの呆れた空気をかもしだしてどこかに消えてしまった。

邪神というならあの人こそ邪神じゃないの、本当にもう。


【あれも自身の考えに従って行動しているだけだ。さて、私もそろそろ去らねばならない。ラスティも私もお前の行く末を共に見守っている。お前はただ自分が信じるまま、感じるままに動けば良い。】


いつもいつでもそれができればいいんだけどね。

困ったように笑うと、テキトーがふむと考え込むように動いた。


【それほど、難しいことではない。・・・と、思うが。】


【行くぞ、長居してはレイに負担がかかる。】


溶けるようにして二人の気配が消える。

そりゃ貴方たちは知識も経験もあるからさ・・・。

ため息をつくのと同時に体が軽くなり、意識が光へと浮上していく。

難しい言葉が多かったけれど、最後の言葉だけはしっかりと胸に刻んでおこう。

自分が信じるまま、感じるまま動くということ。

溶けるように闇の世界から光の世界へ移り変わった。



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