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異邦人  作者: 月水
16/27

風呂なのにあまりエロくない


エロくする必要もないけれど


たまにルーミィの口癖失敗したなあと思います

書いた時はかわいいと思ってたんですが

私の部屋の隣、前に見たキッチンを抜けてさらに奥に行くと壁が広がってもう一つの部屋になっていた。

ここらへんは水を使うところとして統一してあるのね、きっと。脱衣所だと思われる場所には、洗面所も洗濯をするための水道と排水装置がついた洗濯機みたいな洗浄装置もあった。

洞窟の中だっていうのに意外と広い。それに水を使うところは白いタイル張りになっていてなかなか清潔感がある。


「ご主人様、ここで服を脱いでほしいです。後でルーミィがみんなのものと纏めて洗いますです!」


「そうなの?じゃ、よろしくお願いね。」


白いワンピースを手早く脱ぐとルーミィも隣で着替えだした。でも、時間かかりそう。

メイド服っていうのは大体簡単なものから正式な難しい着方のものまでたくさんある。ルーミィのは少し凝っていて白いエプロンの下に黒いワンピースとフリルのペチコート、ズロースとコルセット。コルセットには小さいポケットが幾つもついていて、何故かずっしりと重い。

この異様なコルセットはともかくとして、ふわふわひらひらの可愛いメイド服が似合うっていいなあ。


「いいなあ、真っ白くて綺麗な肌しててー・・・」


「ご主人様も象牙色の滑らかな肌ですよー!」


象牙色なのは黄色人種だからだけどね。とりあえずありがとうと言って風呂場の引戸をがらりと開ける。

ぶわっと顔に湯気と猛烈な涼やかな花の香りがぶつかった。

うわああああ、すっごいにおい!

思わず足を止めると後ろからルーミィにさあさあ入って下さいなとぐいぐい背中を押される。

ま、待って心の準備が・・・。


「今日はチカの花を入浴剤を混入致しましたですー!効能としてリラックス、安眠が挙げられますです!」


「そ、そふ・・・。」


うっかり口を開けると体の中に花のにおいが充満しそうになる。いやいやリラックスもいいけど、限度があるよ!?

あと少しすれば鼻が麻痺してにおわなくなるはずー・・・だと信じたい。

風呂はとにかく広かった。私が来る前は三人しか住んでいなかったはずなのに風呂の大きさは小学校のプールほどもある。

そのだだっ広い風呂の水が薄緑に染まるくらい入浴剤をいれてあるのだから、そりゃにおいもそんだけするわよ。

湯船の縁に腰掛けてそっと湯に触れてみると、温度は丁度良かった。熱過ぎず、温過ぎず、このにおいさえなければ完璧なんだけど。

あとはルーミィの説明に従って湯船の中で布を使って体を擦る。石鹸やシャンプーがないけれど、入浴剤のおかげで汚れが落ちるらしい。

今いちピンとこないけれど、まあ慣れるでしょう。

ルーミィの背中をこすり、こすられ、お喋りをしてずっと仲の良い友達のように過ごした。

話をしていてなんとなくわかったのは、ルーミィは人への気遣いが上手だということ。ちょっと変わり者で、空気を読むのはあまり上手そうではないけれど、一対一なら全然苦にならない。さすがベテランのメイドさん。

入浴剤のにおいも慣れてきたし、ゆったりするわー・・・。ほわほわと体も温まったし、リフレッシュもできたかな。

背中に流していた髪を白いタオルみたいな布で包んで、湯船から体をおこした。ルーミィがその横でタオルで体を覆ってすたすたと風呂場から出て行く。


「ルーミィ?」


がらがらと引戸を開けるとルーミィが棚にいそいそとネグリジェをかけていた。

手渡された布で体を拭いていると、ルーミィがひらりとこちらを向く。


「ご主人様!どちらのネグリジェがよろしいですか!?ピンクもいいけれどシックに黒なんかもきれいですよー!それともセクシーにしますですか?」


「ぶはっ!」


ルーミィが嬉々として広げた透明のスケスケパジャマに思わず吹き出してしまった。

それ誰のコレクションなのよ!男二人の世帯にあるもんじゃないって。

ポイポイと棚から出てくるフリルのついたネグリジェの数にもびっくりするけどさ。


「なんか怪しいなあ・・・いいのこれ着ちゃって・・・ああでもしょうがない・・・黒にするわ。」


「黒は色っぽく大人の雰囲気!・・・ってご主人様が言ってましたです!」


「ああ、イメージを壊したくないから誰が言ったかは聞かないでおくわね。」


「はいです!こちらは上から羽織ってくださいです!」


体を拭き終わった布をルーミィに渡して、代わりに黒のネグリジェを受け取る。

ここの女の人ってこんなセクスィな服を着て寝てるのね。ちょっと尊敬するわ。

頭からすっぽりと被って服をひらひらとゆらしてみたけれどやっぱり頼りないなあ。

しかも肌触りがすっごくいい。どうする、高級品だったら・・・私って寝相良くないのに。もし傷なんかつけちゃって、あまつさえ大事なコレクションとやらを破いちゃったら・・・。


「もうちょっと安物でいいのよ・・・その・・・こんな上等なものでなくてもさ・・・。」


「いえいえ!ご主人様とってもお似合いです。それにご主人様が是非にとも仰っておりましてー!」


「是非にってどうなの是非にって。そりゃ人の性癖っていろいろあるけどさ・・・いや、やめとこ。着替えを借りといてうだうだ言うのも失礼な話ね。」


それに是非と言われているのなら、断るのも悪い気がする。

お世話になっていることだし、サービスってことで。

濡れた髪をぐしゃぐしゃと適当に拭いて、タオルを無造作に被った。


「ルーミィ、とってもいいお湯でした。ありがとう。」


「いいえ、もったいない御言葉です。ルーミィはご主人様が喜んでくださるだけで幸せなのです、ルーミィはステキなご主人様に巡り合えた幸せ者なのです!」


深く頭を下げたルーミィにこちらも慌てて頭を下げる。

そ、そうなんだ・・・お風呂に入れてもらって感謝しなければいけないのはこちらなのに。


「一人分増えて大変かもしれないけれど、これからよろしくね。」


「はい、どうぞルーミィにおまかせ下さいです!」


私が差し出した右手にルーミィが両手でそっと触れた。

その手はさっきよりも温かくて、ちょとだけ濡れていたけれどそれは私も同じ。

いつもの笑顔と少しだけ違う優しい笑顔でルーミィが頷いた。


「今日はゆっくりおやすみなさいませ。何か御用時のときはこのお部屋の扉をノックしてくださいです。」


「わかったわ。おやすみなさい」


手を振ってルーミィとさよならのあいさつをして脱衣所を出た。

去り際に物足りなさそうな顔をしていたような気がするけれど、何も言わなかったからそのまま出てきちゃった。明日ちゃんと聞いておこう。

すっかり火も落ちて薄暗くなったキッチンを通り抜けて、リビングに続く扉に手をかけた。

扉の隙間からふわりとこぼれだす灯。二人ともまだ起きてたんだ。

音をたてないようにそろりと扉を開けると、二人して本と地図を囲んだままあれこれと白熱した話し合いを展開していた。


「ですが、お師匠様。ウォールズがいくら寛容な国でも人間が王宮に入ることを認める者がいるでしょうか?」


「そこはヴィルヘルム様によくよくお頼み申し上げた上で秘密裏に行う方が良いでしょう。特に今の時期、慎重に事を運ばなければ・・・」


「僕が王宮まで運ぶこともできますよ。」


「それは賢明な案ではありませんね。とにかく貴方は目立つ、民衆に気取られ騒がれるのがオチです。」


ため息をついたおじいちゃんにクォーツががっくりと肩を落とす。

そりゃ、クォーツが空飛んでたらキラキラして綺麗だろうけどお忍びには向かないわねえ。

すり足で音をたてずにそろそろと二人に近づいていたら、クォーツがはたと顔を上げた。

視線があったなと思った瞬間、その顔がぼっと紅葉のように赤くなった。

いい加減に慣れればいいのに。

ニヤニヤ半分、呆れ半分で苦笑うとおじいちゃんがクォーツの視線に気付いて後ろを振り返った。


「ああ、レイですか。よく似合っていますよ、化粧をすればもっと美人になりそうですね。」


「そ、そんなことないよ。」


だいたいそういう人って地がいいから化粧が映えるんだと思うよ。

二人のとなりの椅子に座わり、二人が広げている地図をこちらに寄せた。

さっきの大陸地図とは違う、何分の一かに拡大された国の地図だった。国境が曖昧だからこれはウォールズかな。

地図の中央部には赤い線が引かれ、同じく象形文字のような字で走り書きがある。


「誰か助けるの?」


おじいちゃんが笑って、こちらから出向く方ですよと言った。

さっきの人間がどうのこうの言ってたのは私のことか。

フリーズしているクォーツの頬をぺちぺちしてやり、地図を机の中央に戻す。


「あああ、ご、ごめ、その、レイ、あの、うぇ、で。」


「うんうん。お風呂に入りたいのなら今空いてるわよ。」


途端に赤かったはずのクォーツの顔から音がする勢いで血の気が無くなった。

おお、赤から青ってなかなか見ごたえがあるわ。

それにしてもそんなに風呂が嫌いか・・・なんとなく分からないでもないけれど。明日、ルーミィに入浴剤について相談してみよう。

別の意味でフリーズしたクォーツの顔を一瞥して、地図に向き直った。


「気にせず続けて。邪魔しにきたんじゃないから。」


おじいちゃんがそうですよねえとクォーツをやんわりと視線でたしなめる。

それに伴いフリーズしていた体がぎぎぎと証明を向いた。


「レイ、近いうちに秘密裏に王宮に入りたいと思います。何か良い案はありませんか?」


「あ、そ、そうなんだ。変装するって手もあったんだけど、髪や目の色で姿で人間だって分かるだろ?どうしようかと思って」


王宮がどういうところかは知らないけれど、戦争が始まる今は人間を入れたくないらしい。

スパイや諜報員を防ぐためだというけれど、敵国である人間を城に入れることは国民の心証が悪いのだとおじいちゃんが説明してくれた。

それなら王にきちんと説明をして謁見を申し上げるべきではと問いかけると、下々の者が王と謁見するには一年近く待たなければならないらしい。

しかもこの不安定な情勢のことだから予定が延びに延びて謁見などいつになるかわからない。

クォーツの背中に乗っていくのも目立つからダメ。荷物に紛れていくにも荷物検査があるからダメ。塀を乗り越えていくなんてとんでもない。変装も難しい。

地図を眺めて二人でうんうんと頭を抱えていると、おじいちゃんがふうと一つため息をついた。


「とりあえず、保留にしましょう。日がたてば良い案が浮かぶかもしれません。二人とも今日はしっかり休んで下さいね。」


ああ、確かに寝たら頭もすっきりするかもしれない。そういえばなんで王宮にいくのかも聞いてないなあ。また後で聞こう。

広げてあった地図を片付けて、本も元の棚に戻す。


「おやすみなさい。また明日ね。」


「うん、おやすみー。」


「おやすみなさい。良い夢を。」


三者三様にお互い礼を交わして、それぞれのドアへと入った。

淡く橙の灯が揺らめいている部屋で、私は大きく息をついた。

これからうまくやれるのかな、不安の種は尽きないけれどやると言ったからにはやらないと。

誰かのために、私のために、世界のために、生きるために。

ベットに腰掛けて、椅子にかけた制服をそろりと撫でた。

もう戻れないかもしれない、私の学校。もう会えないかもしれない私の友達。

今はさようなら、今だけさようなら。黙って出てきてしまってごめんね、もう戻れないかもしれないけれど、ずっとずっと友達だよ。

ずっと溜めていた感情がほろほろと涙になって頬を伝う。

夜はダメだなあ、日本にいたときもそうだったけどどうにも嫌なことばかり思い出してしょうがない。

おかげで声を出さない泣き方を覚えたけど、それが良いことだなんて思わないよ。

もっと大人になったら泣かずにすむんだろうか、泣きたいことなんて無視して寝られるようになるかな。

ここに来てから、私はずっと泣いている。


「・・・寝るんだ。寝よう。明日・・・は・・・泣かないようにする。」


薄い青色の掛け布団を頭まで被って、ぎゅっと枕を抱きしめた。

明日はクォーツが買い物に連れて行ってくれる。きっと楽しいよ、沢山の嬉しいことだって見つかるよ、だから明日はきっとそんなに不安になる事だってなくなるはず。

深呼吸を二回。

目を閉じて羊を数える。

一匹、二匹、三匹、四匹、五匹、六匹・・・。

いつもより少しだけ多い数を数えて、私は眠りについた。



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