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異邦人  作者: 月水
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神話期から戦乱期へ

  これは神話期から戦乱期の橋渡しをした一人の異邦人の話。



 異世界から来た一人の神がいた。

神は新しい世界を作ろうと別の世界から来た異邦人だった。

異邦人の神をラサといった。

神は平坦で何も無いまっさらの大地に降り立ち、その土から一本の杖を作った。

地から作られた飾り無き薄汚れた杖は、神の手の中で淡い光を放つ力の礎となった。

神はその杖を振り、まず三つの種族を作った。

エルフ、人間、獣。

神はそれぞれに仕事を与えた。

神のいた世界に少しでも近づけるように、事細かく指示をした。

エルフはこの平坦な地に木と水を増やす事。

人間は優れた文明を築く事。

獣は新たな種を作る事。

神はその三つの種族に出来ない、大気の管理を引き受けた。

三つの種族を地上に放ち、神は天へと飛んだ。

身を置く場所を探して、ようやく見つけた世界で一番高い山の頂に質素な小屋を建て

そこで暮らすようになった。


 ---------------------やがて。

地上に木と水が一杯になり、色々な獣の声や機械の音で地上が騒がしくなった頃。

神は想像通りに成長したこの世界と自分の功績に満足したのか、

誰にも見取られる事なく質素な小屋で息を引き取った。

誰にも気付かれる事も無く、埋葬される事もないたった一つ小屋に残された体はやがて空気に触れて腐敗し、

酸化して悪臭を放ち、一部は液体となって小屋にただ一つ残された杖に触れた。

幾年たっても衰えない杖の力は、腐り果てた体に新たなる命を与えた。

新たなる命は生まれたときから穢れた存在である事、そして独りであることを知った。


しばらくして。


腐った肉は杖を使いしだいに仲間を増やしていった。

腐臭もまた杖の力で神の姿を取り、地上に降りて三つの種族たちに争いを教えた。

ところが信じたのは人間だけだった。

エルフは創造の際一番初めに生まれ、杖の力を強く受け継いでいる。

杖と同じ波動のする生物を神ではないと判断する事が出来た。

獣は最後に生まれたため、杖の力は弱いがその代わりとして

神は特化した五感を与えていた。

体から漏れ出す腐臭に神である筈がないと、逆に襲い掛かるものまでいた程だった。

だが、杖の力にも感じるための五感にも優れていない人間には分からなかった。

常に神を思い、神に従ってきた人間はその残酷な腐臭の提案を受け入れた。

生活を便利にするためではなく、争うためだけに道具を作り出した。

手当たり次第・・・と言っても過言ではない程、無差別に獣を狩りたて、エルフを殺して。

神の住む山から下りてきた肉達も争いの糧でしかなかった。

数が少なくなり、狩る為の種族が少なくなる頃にはもう腐臭の言葉は必要ではなくなっていた。

人間は殺す楽しみを知り、富むことの素晴らしさを知った。



 支配者を知った。



エルフは木や水を特化させた戦う術を身につけた。

獣は戦闘のために次々と力のある種を生み出しつづけた。

人間は戦うための道具を作りつづけた。

幾百もの町ができ、興亡を繰り返した。

腐臭は満足だった。

自分と同じ香りが世界を満たし、包んでいる。

腐臭は邪神となり、自らをラサの息子だと名乗った。


 そして、その数年後。

邪神は一人の人間によって消滅した。

人間によって始められた争いは、人間によって終止符を打たれた。

その人間の名は、ラサと言った。

ラサは天に駆け、前世で暮らしていた小屋に帰ると邪悪な肉を消し去り

残された杖をつかんで空へと投げた。

杖は霧となり、人々の荒んだ心を洗い流した。

黄泉の国から舞い戻った神は、ようやく眠りについた。

もう二度とこんな事がおきないようにと、神はその身を地中深くうずめて大陸と同化した。


神の血は流れる水に。

神の熱は燃ゆる火に。

神の吐息は吹く風に。

神の結髪は茂る木々に。

神の瞳の輝きは世界を照らす光球に。

神の思考は光なき闇に。

神の夢は天にうつろう二つの月に。


 それぞれ神の一部を与えられた世界は、やがて自らを精霊と名乗るようになった。

そしてそれは、神が完全に消滅した瞬間でもあった。

人々は神を伝承として伝え、そして現世を統治する新たなる神として精霊を祀った。

・・・その頃から,だったろうか。

邪神も神も消滅したと言うのに、また世界に戦火が広がった。

何処から起こったのか、何が原因なのか分からないその争いは、文明の進歩もあってか

一気に飛び火して世界中に広がっていった。

国や町がいくつも消え、精霊たちを弱め、長い争いの中で文明をも弱めた。

それでも残った者は勝利に酔いしれて、無駄な争いを続けている。


-----------------------神が目覚める気配は、未だない。




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