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 ――・・フローリア・・フローリア・・いかないで・・私の大切な・・



 どれだけ願っても願っても届かない。




 貴方を守りたくて必死に頑張ったのに・・


 皆で生きるために尽くしたのに・・


 何故私だけが生かされるの・・


 何故貴女が犠牲にならなければならないの・・


 

 少女の願いは暗闇の中に消えていく――。




 ***






 ――朝早く、サグラント王国の国境の森を警備する男2人は、森の中をいつものように異変がないか確認しながら歩みを進めていた。



 コルレア王国との国境は比較的平和ではあったが、それでも7年前にコルレアがサグラントへ奇襲をかけたことがあり、未だに警備は常時行われている。


 朝の警備担当になった警備隊20名は2人1組で行うが、シェインはいつもオーレンとペアを組んでいる。


 「7年前に奇襲をかけられたって言っても、今じゃこんな平和なんだし、問題なんかおこりそうもないのになー」


 「――それは日ごろの警備あっての今なのでは?」


 「・・・わかっているよ・・・まぁ俺らはこれで稼いでるわけだし、やることはちゃんとやるけどな!」


 ――――!!!!


 「――シェイン様気を付けてください!何かいます!!」


 咄嗟にシェインと並び歩いていたオーレンは叫び警戒を促した。

 静かに近寄ると、木の下で1人の薄汚れた服を着た少女が倒れているのが見えた。



 「――これは密入国者でしょうか・・」


 「・・この感じだとそのようだな・・至る所に傷もあるし、服もボロボロだ・・逃げてきたっていう感じだな」



 じっと見つめるが、小柄な少女は10代前半だろうか。何も持っている様子はなく、無我夢中で逃げて、ここで行倒れたということが推測できる程、少女は明らかに衰弱していた。



 「――しょうがないな・・・連れて帰るか」


 「シェイン様?!おやめください!!・・・危険人物の可能性も――」


 「――だとしても、こんな衰弱した状態で警備隊に連れて行くのも俺は嫌なんだよ!

 家に連れて行くから、俺が早退したって伝えておいてくれるか?」


 「・・・・・承知しました・・」






 ***




 


 優しい光を感じ、瞼をうっすら開けると心地よい風を感じ、清潔感のある室内に自分がいるのだと気づく。

 眠りながら泣いていたのだろうか、目にはまだ涙が溜まり、枕元は涙で濡れているようだ。



 「・・・ここは・・・」


 何度か瞬きをしながら天井を見つめると、自分が死に物狂いで森の中を走っていたことを思い出した。





 ――!!!!!





 「――っここはどこ?!・・・私は一体――」


 飛び起きて布団の上で、きょろきょろ見回しながらも胸の鼓動がどくどくと早鐘を打ち、嫌な予感に身を震わせる。



 ――きぃぃいい・・


 「お?起きたんだな!食事用意したんだけど食べれそう?」


 ドアが開き、スタスタ歩いて入ってきた男は、どうやら食事を持ってきてくれたらしい。




 ―――誰?!・・なんで?!



 警戒心むき出しで震える姿は、いたいけな子供のようにさえ見える。




 「お嬢ちゃん、安心して良いよ。さっき国境の森で倒れていた君を拾ってきたんだけど、警備隊に連れていくつもりはないから」


 男はにこりと微笑んでテーブルに食事を置くと、ベッドサイドの椅子に腰かけた。




 「・・・何故助けて下さったのでしょうか・・」


 「え?・・・気まぐれ・・かな?」


 「――私が敵国のスパイならどうするのですか・・」



 力なく震えながら質問を繰り返していく少女は、希望を失い生きる事すら諦めたかのような表情をしていた。




 「そんな憔悴しきったお嬢ちゃんがもしスパイだったとしても、どうとでもできるくらい俺は強いから気にしないでいいよ♪」


 にっこり笑って男は答えた。




 「・・・助けていただいたのに・・お礼が遅くなり申し訳ございません。

 救っていただいて・・ありがとうございます・・」


 「気にしなくていいさ!だけど、多分栄養失調になっているみたいなんだ。だから、後2日は嫌かもしれないけどここで安静にして休むこと!いいかい?」


 「――・・・いいのですか?」


 「あぁ!むしろいてくれないと俺も勝手に連れてきちゃったからさ・・責任もあるから元気になったら事情を話してくれればいいよ」


 「・・・ありがとうございます」




 終始元気のない少女だったが、最後にほんの少し微笑んでくれたような気がした。






 ***






 少女の名前はデイジー、最初倒れているのを見た時は、12,3歳に見えたのだが、彼女は17歳で来年成人を迎えるレディだったらしい。


 コルレア王国から分け合って逃げてきたようだが、決してスパイではないと繰り返し主張はしていた。

 身一つで来てしまったため、お金もなくお礼が出来なくて申し訳ないと何度も謝罪されたが、その様子からしても、彼女が良い家のご令嬢であったこと、スパイなどが出来そうな人物ではないことはわかった。


 しかし、デイジーの瞳には光が宿っておらず、全てに疲れ、罪悪感に押しつぶされそうな危うい雰囲気を感じ取れる。



 ――何か後悔するようなことがあったんだろうか・・



 男は少女の諦めきった瞳が気になって仕方なかった。



 ピンク色の柔らかいフワフワしたロングヘア、飴玉のように潤んだ蜂蜜色の大きな瞳、日焼けなど無縁そうなきめ細やかな肌、血色の良い薄い唇、栄養が不足していた為か、やつれて貧弱そうには見えるものの、よく見るとしっかりと出る所は出る曲線美を服の下に隠しているようだ。


 3日経つ頃には部屋の中を一人で歩けるようになり、外に出ることも問題はなさそうだ。






 ***






 「シェインさん・・3日間本当にありがとうございました。何も持っていない私を介抱して下さって本当に助かりました。」


 「気にしないでくれよ。俺も自分が生きたいように気ままに生きているだけだったから、デイジーと一緒に居られて癒されたんだ。」


 


 

 シェインは本当に優しくて暖かい男性だ。体躯はよく、およそ180cmは軽く超えているように感じる。すらっとした細見のように見えて、時折シャツから見える胸板は、筋肉がついてたくましいとわかる。

 それなのにお顔は中性的な美しさで、褐色の肌に艶のある黒髪は野性的だが、真っ赤なルビーのような瞳はなんでも見通してしまいそうな鋭い美しさの中にも気品を感じる。左目尻の黒子は色香を纏い、美丈夫であることは誰の目で見ても明らかだろう。

 いつも笑顔で話しかけてくれて、恐らくどんな人とでも仲良くなれる人なんだろうと感じられた。




 「ありがとうございます。このご恩は決して忘れません。お金が稼げるようになりましたら、必ず返しにまいります。」


 「それなんだけどさ?お金ないのにどこで働くつもり?」


 「――・・・それは・・・どこか雇っていただけるところをこれから探そうかと・・」


 「身元が不明確なのに?雇ってくれるところなんてほぼないと思うよ?ましてや隣国の人だってわかるしね・・そんな綺麗なピンク色の髪の毛こっちじゃ誰もいないから」


 「――そうなんですか?!・・・どうしましょう・・」



 デイジーは何も持たずに逃げてしまい、身分証もなにも持っていないのだ。

 そんな人間を、確かにいきなり雇ってくれるわけがない。

 しかもこっそり入国したことがばれたら送り返されることが容易に想像できる。

 困り果て俯きどうすべきかデイジーは逡巡した。





 「――だからさ、俺とここで暮らしながら俺の仕事手伝ってくれたらよいよ!」


 「え?」




 シェインはにっこり微笑んでここで暮らしていきながら、自分にお金を返すように提案してくれたのだった。









自分の好みとはちょっと離れますが、純愛が書きたくなって執筆始めました。

途中残酷描写が入るかもしれません。


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