表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

第12話 修平、夜を越えて──村の夜と、ふたりの秘密






夜の帳が降りる頃──

私はまた、あの二人を自分の家に迎えていた。


決起の集会が終わったあと、修平さんとレナさんは「少し仮眠を取ってから明日に備えたい」と言ってくれて、今夜も泊まってくれることになったのだ。


私は、戦うことはできない。

けれど、だからこそ。


(せめて……せめて、力の出るご飯を作ってあげたい)


トカゲ肉──きっと強い個体だった。

がっしりした骨と、厚みのある肉を、火で炙りながらじっくり煮込む。

そこに村でとっておきの、あの木の実をたっぷり入れて。


「よいしょ……! “米青(べいせい)の実”、ね。これなら……きっと、力がつくはず」


米青の実は、うちの村の誇りだ。

ごつごつした皮を剥いて、しっかり火を通すと──

甘みと香ばしさが広がって、ほんのりとした苦みも、体に効く感じがする。


水不足で収穫も危ぶまれていたけど……

修平さんのおかげで、水場が復活した。


なら、今日は贅沢してもいいよね。


そう思って鍋を煮込んでいると、表戸のほうから、パタパタと足音が。


「あっ、リーナ! お邪魔しまーす!」


扉を開けた瞬間、姉の元気な声が飛び込んできた。


「昨日は妹を救っていただき、本当にありがとうございました!」


ぺこりと深々頭を下げた姉に、修平さんがいつものあの渋い声で応じる。


「いやいや、構わないよ。でも礼は……」


そう言って、にやっと笑う。


「しっかり受け取ったよ」


「そーですよっ!」と、レナさんが明るく口を挟んだ。


「私たちも、食事と寝床を提供していただきましたし、持ちつ持たれつです!」


この人たち、強くて、優しくて、爽やかで──

そして芯がある。

なんというか、ちゃんと“信じてついていける背中”をしてる。


(レナさんとは……もう、そういう関係なのかな。だって、ずっと一緒に旅してるんだもんね)


そんな私の横で、姉の旦那さん──義理の兄が、大きな笑い声を上げた。


「はーっはっはっはっ!! 俺からも言わせてください! リーナちゃんを助けてくれてありがとうございます!明日は俺も戦いますからね!」


がっしりした体格と、笑い声のデカさ。

修平さんとはまったくタイプが違うけど、この人もまた、頼れる背中だった。


(この人たち……どっちもカッコいいよね……。あぁ、羨ましいなぁ)


そして、義理兄さんの鼻が、ふと鍋の香りに反応した。


「おっ!? リーナちゃん!? これは……米青の実の煮込みじゃないか!!」


鍋を覗き込んだ目が、一気にキラキラと輝く。


「男はこれを食べると、力が漲るってな! 肉もたっぷりで美味そうだ! はーっはっはっは!」


みんなで囲んだ卓の上に、香ばしい香りが広がっていく。


そう──今日は、大盤振る舞い。


明日は戦い。生死がかかる日。


だからこそ、私は全力で作ったんだ。


「こう見えて俺はね、この村でも“力持ち”って言われてましてね」


そう言って、義理兄さんは上腕をドンと叩く。


「明日は力の限り、あの蟻どもをぶっ飛ばしてやりますよ! あーっはっはっはっ!」


「もう、また始まった……」


姉が苦笑しながらも、ちゃんと微笑んでいる。


「でも、怪我は心配……私も精一杯支えるから。帰ったら、大木槌の手入れは私がやるからねっ」


そんなふたりを見ながら、私もふっと笑ってしまう。


(ほんと、いい夫婦だなぁ……)


レナさんは、義理兄の豪快さに目を丸くしていたけれど、すぐににっこり笑ってくれた。




食卓は温かくて、明るくて、でもどこか少し切なくて。


この時間が、ずっと続けばいいのにって──

そう、思ってしまうくらいに。




食後の余韻が漂う食卓で、姉の旦那さん──義理兄がぐいっと椅子を引いた。


「ご馳走様! リーナちゃん、最高だったぞ! 青米もたっぷり食べたし……今夜も、前祝いに一発がんばるぞぉ!」


そして──隣に座っていた姉の肩を、ぐっと引き寄せた。


「きゃっ……もう、やだぁ♡」


姉が赤くなりながらも身を預ける。

ふたりの空気が、甘くて、少しだけ眩しい。


「お前が作った大木槌、柄がすり減るくらい振り回してやるからな! そのあとは……俺の槌も、存分に──」


「はいはいっ♡ ちゃんと磨いておいてあげるから♡」


「孕ったら……修平さんかレナちゃんの名前をもらうのもいいな! “シュウ”と“レナ”! あーっはっはっはっ!」


「……バカ♡」


──はぁぁぁあぁっ……!


私は思わず、湯呑みを口元に当てたままうつむく。


(こ、こっちが恥ずかしくなるわ……っ)


顔が熱い。耳まで真っ赤なのが、自分でもわかる。


それでも、胸の奥はほんのりと温かくて。

ああ、いいなって思った。

明日を、笑って迎える準備をしてる、ふたりの姿が。


「お先に失礼しますね~! レナちゃん、修平さん、明日もよろしくお願いします!」


「任せてください! 朝イチから気合い入れてきますよー!」


「ああ。ゆっくり休んでくれ。……大切な人のためにもな」


修平さんのその一言に、姉の顔がぽっと赤くなって。

義理兄は、真っ赤な顔のまま大声で笑っていた。


「そういうの! 照れるじゃないですかぁああ!」


「もう、ほんとバカ……♡」


肩を並べて歩いていく二人の背中を見送りながら、私はふぅ、と静かに息を吐いた。


そして──片付けの手を、そっと動かし始める。


湯呑みを重ね、鍋を布で拭き、食器を丁寧に洗って。

何かに集中していないと、落ち着かないような気がして。


(……怖くない、って言ったらウソだ)


でも、誰かの背中に隠れて震えるだけなんて──

もう、したくなかった。


あの時、私を背に戦ってくれた修平さん。

自分の身を張って、あの蟻を引きつけてくれたレナさん。


あの人たちは、ただ戦うんじゃない。


“誰かの暮らし”のために戦う。


(……だから、私も。せめて、祈るよ)


誰も死なないでほしい。

誰も傷つかないでほしい。


でも──もし、何かを賭けるとしたら。

私は、あの人たちの勝利に、希望を預ける。


勝ってほしい。

みんな、帰ってきて。

誰かの名前を呼びながら、笑って──また、ご飯を食べよう。


そう願いながら、私は最後の布巾を手に取った。


明日の朝が、少しでもあたたかい光で包まれますように。

この村に、もう一度、平穏な水の流れが戻ってきますように。




──────




夜の静けさが、村を包んでいた。


修平とレナは、一つの部屋で、別々の布団にくるまっていた。

背を向け合い、互いの気配を感じながらも──言葉は交わしていない。


ごとん、と壁の木材がわずかに軋む音。

夜風が、どこかの隙間を通ってすすり泣くような音を立てた。


「……ぐっ、なんだこれ……?」


不意に、布団の中からくぐもった声が聞こえる。

低く、抑えたような独り言。けれど妙に生々しく、レナの耳に届いた。


(修平さん……?)


レナはまどろみの中、ぼんやりと目を細めた。

脳裏に浮かぶのは、昼間の修平の姿──

“頼れる男の人”として、皆の前に立ち、誰よりも堂々と振る舞っていたその背中。


(……でも、今はなんだか……子供みたい)


布団の向こうの気配は落ち着きなく、小さく動いていた。

ごそごそと、何かを探すような音。

落ち着きのない寝返り。時折、吐息のような呻き。


「ダ、ダメだ……もう我慢ならん……」


再び聞こえたその声に、レナはぴくりと肩を揺らした。


──そして、


「レナ? 起きてるか?」


背中越しに、問いかけられた。


その瞬間、レナの意識ははっきりと覚醒した。

けれど──返事はしなかった。


(起きてる……けど……)


鼓動が、ひとつ跳ねた。

彼の声音はどこか切羽詰まっていて、いつもの無骨で頼りがいのあるそれではなかった。


(……なんか、面白いかも)


あえて黙ったまま、レナは目を閉じたふりを続ける。

胸の奥がくすぐったくて、でも少しだけ──

妙な期待感が混ざっていた。


静かな寝室のなか、夜はまだ、終わらない。






※この夜の修平とレナの「続き」は、なろう系列の別サイトにて執筆しています。

本編(R15)だけでも物語の流れは追えるようにしてありますので、未読でも支障はありません。

もし興味がありましたら、系列サイト内で「玉葱緑」と検索していただければ幸いです。


* * *


読んでくださりありがとうございます。楽しんでいただけたら嬉しいです。

ブクマ・★・感想が本当に励みになります。

誤字や読みにくい箇所があれば教えてください。

次回もコツコツ更新していきます。

引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ