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第11話 戦う意味は、誰かのくらしのために








窓の隙間から差し込む朝の光が、まだ薄暗い部屋の空気を淡く照らしていた。


「ん……っ」


 布団の中で、レナは静かに目を開ける。

 体が少し重いのは──きっと、寝不足のせいだ。


 昨夜の出来事が、胸の奥でまだぬくもりを持って残っている。


(……ちょっとだけ、胸がドキドキする)


 寝息。

あの静かな、穏やかな吐息。

 すぐ隣に感じていた修平の存在。

 砂嵐のときも、戦闘のあとも、彼の背中は頼もしくて──でも、優しくて。


(……砂嵐のとき、抱きしめられた腕。あったかかったなぁ……)


 頬にじわっと熱が走る。


「な、なに考えてるの私っ……! 水のこと、村のことが大事な時に……っ!」


 毛布をぎゅっと握りしめて、悶えるようにじたばた。


(でも……あの無骨な指が、スコップ握ってた手が……わたしの胸とお尻に……)


 がばっ、と勢いよく起き上がる。


「だ、だめっ! ほんとだめっ!!」


 顔から湯気が出そうな勢いで、慌てて寝床を整えていると──


「おはようございます、レナさん。起きてましたか?」


 扉越しに、昨夜案内してくれた女性の声がした。


「は、はいっ! 今起きました!」


「よかった。朝食、簡単なものですがご用意してあります。よければ、台所へどうぞ」


「ありがとうございます……すぐ行きますねっ」


 服を整え、髪を手櫛で撫でてから、レナは居間へ向かう。


 台所には、香ばしいパンの匂いと、干し果物の甘み、そして熱いお茶の湯気が立ち込めていた。


「どうぞ。簡単ですが……」


「ううん、すごく嬉しいです」


 女性の優しい微笑みに胸をなでおろしていると──


「他の村の方も、これから来られます。よければ朝ごはんを食べながら、お話しできたらと……」


「……はい!」


 レナは勢いよく頷いた。


 ふと、玄関の戸が開く音がして、数名の村人が入ってくる。

 老婆、子どもを抱えた母親、日に焼けた顔の農夫。どの顔にも、疲労と不安の色がにじんでいた。


(みんな……苦しそうな顔……)


(昨日の襲撃だけじゃない。きっと、ずっと前から耐えてきたんだ……)


 握った湯呑みの温かさが、心にじんわり染みる。


 レナの表情が引き締まる。


(……修平さん。わたし、ちゃんと戦うから。

あなたの隣で、“村を守る”ってこと──一緒にやってやるんだから!)



────



 居間には、朝の静けさと、かすかな緊張感が漂っていた。

 パンの香ばしい匂いと、干し果物の甘み。

湯気の立つお茶が入った湯呑みが、低い卓の上にいくつも並んでいる。


「さ、どうぞ。ほんとに簡単なものだけど……」


「ありがとうございます」


 昨夜案内してくれた女性が、湯呑みを差し出してくれる。

 私が一口すすったその瞬間、玄関の戸が静かに開いた。


「お邪魔します……」


「……失礼するよ」


 次々と現れる村人たち。

 老婆、子どもを抱いた母親、顔を日に焼いた農夫風の男性──皆どこか疲れていて、でもどこか希望を探すような目で、部屋を見回していた。


(……みんな……こんな顔で暮らしてるんだ……)


 卓を囲むようにして、全員が腰を下ろす。

 簡単な自己紹介が交わされたあと、少し沈黙が落ちる。


 それを破ったのは、最年長の老婆だった。


「村長のトーメじゃ……もう、あの井戸は、完全に枯れちまってね」


「井戸が……?」


 私が聞き返すと、農夫の男性が続けるように言葉を重ねた。


「ええ、もともと水位は下がり気味だったんですが……一月前、とうとう底まで干上がってしまいました。もう、ひと滴も出ません」


 母親らしき女性が不安そうに膝を抱える。


「それから急に、あの蟻たちが……。夜も昼間にも現れるようになって……」


「じゃあ、あれは水を求めて動いてるってことか……?」


 修平さんが低く、唸るように呟いた。


 それに頷くように、農夫が続ける。


「ええ。畑も荒れ放題です。根っこが食い荒らされて……もう芽も出やしない」


 その言葉に、トーメが静かに頷き、話を引き取った。


「雨水を溜めてなんとか凌いでるけど……それも、もう底が見えてる」



 修平さんが腕を組み、深く息を吐く。

 そして腰を上げ、腰袋に手をかけた。


「……だったら、話は早い」


 その声に、全員の視線が向く。


「まずは水。通してやるよ」


 静かに、けれど確かな響きで放たれた言葉に、部屋の空気が震えた。


「……!」


 私は、目を見開いたまま、思わず口を開いた。


「ニョキニョキパイプ……ですね!?」


 その勢いに、一瞬だけ修平さんの表情が引きつる。


「……まぁ、そんな感じだな」


 ぽりぽりと頭をかきながら、ふっと笑う。

 そして、いつもの決め言葉を口にした。


「よし、今日も一日──安全作業で頑張ろうってか! 水場の候補は?」


「……???」


 村人たちが、ぽかんとした顔をする。

 だがその中で、一人がぽつりと呟いた。


「……なんだか、頼もしいな」


 その言葉がきっかけになり、小さな笑いが生まれた。

 重たかった空気が、わずかにほぐれていく。


 ふと、トーメが懐から何かを取り出した。

 古びた紙束──村の地図だった。


「これが村の水場の記録図じゃ。いくつかの候補はある。……ただし」


 トーメが、震える指で地図の一点を差した。


「この井戸のあたりは……もう、誰も近づかん。最近、あそこに近づいた若い衆が……」


 言葉を濁す。

誰もが察するように、口を閉じた。


(きっと……そこが、蟻の本巣なんだ)


 部屋の空気が、再び重く沈んだ。


(……修平さん)


 私は、湯呑みをぎゅっと握りしめながら、彼の背中をじっと見つめた。




 差し出された古びた地図をひと通り確認し、修平さんは腰袋に手をかけた。


「まずは、一番便利なところを見てみよう。水を通すには、使う人間の動線を考えるのが基本だ」


 農夫の男性が頷き、案内を買って出る。

 向かったのは、村の裏手──かつて共同洗い場として使われていた小さな石組みの広場だった。


 地面は乾いていたけれど、陽当たりが良く、周囲の民家との距離もほどよい。


「ここなら……確かに、村人の皆さんが使いやすそうですね」


 私が呟くと、農夫が申し訳なさそうに言う。


「ここは、昔は洗い物や水浴びにも使っていた場所です。でも、井戸が枯れてからは──」


「問題ない。通せるよ」


 修平さんがきっぱりと断言した。


 その言葉に、農夫だけでなく周囲の村人たちも、はっとしたように顔を上げる。


 修平さんは、すでに作業姿勢に入っていた。


 腰袋から継手と短いパイプを取り出し、地面に仮設固定。


「この世界じゃ水源とか地形とか関係ねぇ。俺が通すと決めたら──どこだろうが“水場”にできる」


 そう呟いて、彼はゆっくりと右手を構えた。


「──生成。40A」


 ドン。


 音とともに、パイプが伸びる。

 銀色の管が、地面を這いながら“生える”ように伸びていく。


 ニョキ、ニョキニョキニョキ……!


「うわっ……!」


「な、なんじゃこりゃ……」


 村人たちが一斉にどよめいた。

 金属製の管が、まるで意志を持っているかのように、次々と地表に展開していく。


「わ、わ、動いてる……!? 勝手に!?」


「え、なんだ?魔法か……?」


「……ううん、修平さんの“技術”だよ」


 私は小さく呟いた。


 そう──これは、誰にも真似できない、“修平さんだけの道具の力”。


 水を通す。

 それだけで世界を変える力。


(……かっこいい……)


 修平さんは、パイプの位置と傾斜を確認しながら、小さく頷いた。


「これで──通る」


 そう言って、腰袋からもう一本の継手を取り出し、軽く手をかざした。


 その瞬間。


 ゴボッ……という低い音とともに、パイプの先から水が溢れ出した。


 ぴちゃっ、ぴちゃぴちゃぴちゃ──

 透明な水が地面に流れ、乾いた土を濡らしていく。


「……! 水が……!」


「ほんとに……出た……!」


 村人たちの瞳が、みるみるうちに輝きを取り戻していく。


「これが、“水を通す”ってことだ」


 そう言って、修平さんは手を払うようにして立ち上がる。


「こいつを引き込み、奴らの巣に一気に流し込む。やり過ぎなくらいがちょうどいい」


「うわぁ……“やりすぎ”の予感しかしない……!」


 私が思わず口元を押さえると、修平さんはふっと笑って、


「よし──今日も一日、安全作業で頑張ろうってか!」


 村人たちの間に、小さな笑いが起きる。


 その場の空気が、確かに変わっていた。


 誰もが、“あの人がいれば大丈夫”と、そう思ったのだ。




 村の広場に、ざわ……と人が集まり始めていた。


 太陽が昇り、強い陽射しに染まる土の地面。

 風はほとんどなく、むわりとした熱気が空気に溶けている。


 家々の前に立つ修平の横には、レナの姿。


 広場の中心では、老若男女の村人たちがぽつぽつと立ち止まり、何が始まるのかと不安げな目を向けていた。


  修平はゆっくりと、腰の袋に手をかけ──前へ出る。


「──静かにしてくれ。今日は、ひとつ、大事な話がある」


 低く、よく通る声が、じりじりとした広場に響いた。


 


「さっき、あんたたちから聞いた話を整理した」


「水が干上がった。蟻が襲ってくる。外とは連絡もとれない──つまり、この村はもう限界に近い」


 その言葉に、誰かが息をのむ。


 レナが一歩前に出て、周囲を見渡す。


「でもね──」


 少女らしい声が、はっきりと届いた。


「ここには“わたしたち”がいる。あきらめないって決めた人たちが、こんなにいる」


 その一言が、少しだけ空気を変えた。


 


 修平が、ポケットから図面のような紙を取り出す。

村人が提供した地形メモだった。


「俺は──“水を通す”。それが俺のやり方だ」


「だが、蟻の巣を叩き潰すには、水だけじゃ足りない」


「逃げ出したやつらを、叩き潰す力が、こっちにも必要なんだ」


 


 静まりかえる広場。


 その中で──


「……俺、やるよ」


 最初に手を挙げたのは、土まみれの顔をした少年だった。


 先日の蟻の襲撃から、真っ先に逃げたと噂されていた少年だ。


「今度は逃げねぇ。農具でも何でも持つ」


 その隣で、農夫風の男性がぼそりと呟いた。


「俺もだ。鍬なら持てる……」


 続いて、一人、また一人──村人たちが名乗りを上げ始める。


 


「私もやります!罠なら、作れる!」


「うちも! もう大人なんだから!」


「わしだって、昔は槍を持ってたんじゃぞ……!」


 いつしか、村の広場は、熱気を帯びていた。


 諦めの空気が、少しずつ変わっていく。


 


 その中心で、レナが凛とした顔で言った。


「わたしも、剣を取って戦います。だって──この村を、守りたいから!」


 風が、少女の髪をなびかせる。


 どこか神聖で、熱い光景だった。


 それはきっと、あのとき守れなかった故郷──リュエル村への想いも重なっていた。


 


 修平は、腰のパイプ袋に手を当て、静かに頷いた。


「……よし」


「なら、次は──どう落とすかだ」


 


 広場が、さらにざわめく。


 “戦う”と決めた者たちの顔に、決意と緊張が走る。


 その背中を見つめながら、レナはふっと、小さく笑った。


(……これが、“一緒に戦う”ってことなんだ)


(信じるだけじゃなくて、共に進む。……修平さんがくれた、この機会を、絶対に守り抜く)




 陽がさらに高く昇り、村の中心にある広場には、ざわめきが集まり始めていた。


 農作業用の古びた机と、あちこち継ぎ接ぎされた木のベンチ。

 そこに座っているのは──


「……俺たちで、戦うってのか……」


 ごつごつした手で鍬を握る男。

 日焼けした顔に皺の刻まれた老婆。

 怯えた表情のまま、それでも目を逸らさない若者。

 子を守るように座る母親──


 村の誰もが、これまでと違う空気を肌で感じていた。


 その中心に、修平が立つ。


「そうだ。戦ってもらう。……だけど、“今のまま”じゃない」


 腰袋を軽く叩きながら、修平は村人たちをぐるりと見渡す。


「俺が、蟻の巣に水を流し込む。“超”のつく量だ」


 その言葉に、ざわっ……とどよめきが走る。


「み、水責めってことか?」


「ああ」


 修平は頷いた。


「でも……そんな大量の水、どっから……?」


「巣の深さだってわからない。どうせすぐ、干上がっちまうだけじゃ──」


「水場は直ったんだろ? なら、桶を使ってみんなで……」


「だけどよ……奴らの巣は、ほんとに深ぇんだ。地中の奥底まで、何層にも分かれてるって話だ」


 疑念、不安、諦め──あちこちからこぼれる声が、また空気を重くしていく。


 だが、修平はふっと、笑った。


「じゃあ──実演といこうか」


 そう言って、修平はゆっくりと腰袋から手を抜いた。


右手には、小さな継手──

それを握ったまま、無言で一歩前に出る。


そして、


正面に突き出したその手を、そっと地面へ──



「生成」


 ドンッ!!


 鈍い音とともに、地面からパイプが生えた。


 直径は40A、だが見た目にはそれすら異様に見える“異質”の鉄の塊。


 その先端を、グッと握り締め、


「通水、2.0Mpa」


 ……その一言と同時に──


 シュオォォォオオオッ!!!


 圧倒的な勢いで、水柱が吹き上がった。


 空気を裂く音とともに、パイプの先から噴き出した水は──


 十数メートル、いや二十メートル以上も上空へと、真っ直ぐ打ち上がる!


「うわっ!?」


「な、なんだこの水圧は……っ!?」


「まるで、空に穴を開けそうな……!!」


 村人たちは唖然とし、反射的に数歩後ずさる。


 だがそれでも、水の落下音が地面を叩き、しぶきが霧のように彼らの頬を濡らした。


「……明日は、これの三十倍だ」


 修平の声が、静かに、けれど深く響く。


 水柱の霧の向こうで──レナが、目を見開いていた。


(こんなの……見たことない……っ)


 たしかに、水は通る。

 けれど、この水量。この圧。この“力”──

まるで、人の手で起こした自然災害のようだった。


「なに、これ……っ、すごい……!!」


 レナが、息を詰めながら呟く。


 村人たちも、一人、また一人と、呆然とした表情から変化していく。


 その瞳に宿ったのは──


 畏れを越えた、熱と希望。


「……勝てるんじゃねぇか……?」


「この人と一緒なら……!」


「やれるぞ……! やれる……!!」


 


 空気が、確かに変わった。


 怯えは、完全に消えたわけではない。


 だがその奥にあった“誇り”と“覚悟”に、火が灯ったのだ。


 


 修平が、再び村人たちを見渡し、言った。


「おれが用意するのは、“戦える足場”と“逃げ道”だ。だが、こいつらを殲滅できるかどうかは──お前たちの勇気次第だ」


 ごくり、と誰かが唾を飲む音。


 沈黙を破ったのは、若者だった。


「──任せてくれ。俺ら、やるよ!!」


 その声が合図となり、次々と叫びが重なる。


「畑を、家族を、守りてぇ!」


「逃げてばっかじゃ、悔しいじゃねぇか!」


「農具、錆びついちまってたけど──今こそ、使いどきだろ!」


 拳が握られ、視線が上がる。


 希望と怒りと、誇りが混ざり合った──

戦士たちの顔が、そこにはあった。


 


 レナは、瞳を潤ませながらそれを見つめていた。


(これが……村の力)


 そして、そっと呟いた。


(“水”だけじゃない……

 この人は、“想い”まで通してくれるんだ──)


 


 こうして、《ベルキア村・蟻の巣水責め作戦》は、正式に発動された





──────





陽が傾き始め、空の端がじんわりと橙に染まり出す。

 まだ日は高いが、空気には確かに“夕方”の気配が混じり始めていた。


「じゃあ、場所の確認だ。案内してくれ」


 修平の一声に、数人の村人たちが頷いて立ち上がる。

 向かう先は、広場の端にある井戸。


 そこは、かつての主水源──

 今は干上がり、忌避されていた場所だった。


 

「……ここか」


 修平は、井戸の縁に近づき、ふと立ち止まる。


 鼻を突く、湿った土と腐臭の混ざったような空気。

 井戸の奥からは、何かが蠢くような気配すら感じられた。


 ──そしてその瞬間。


 ピリッ……と、空気が震えるような感覚が、修平の手のひらを走った。


 眉をひそめ、井戸の縁に片手を添える。



 修平はさらに、井戸の奥へと目を凝らした。


「この感覚……魔石に近い。けど、それよりもずっと不安定で、動いてる……」


 井戸の奥に潜む“何か”を察知しながら、

 修平の目が鋭く光る。


「やっぱり……この下か。気配がある」


 

低く呟く声に、レナが眉を動かす。



  修平はゆっくりとしゃがみこむと、井戸の縁の地面に正面から手を伸ばす。


 まるで何かを感じ取るかのように、指先で土の質感や地形の傾斜を確認し──

 腰袋へと手を戻し、すうっと深く息を吸い込んだ。


「じゃあ、“段取り”すっか」


 静かな独り言とともに、修平はパイプを生成した。


 ゴウン──ッ!

 地鳴りのような音を立てて、“6インチ(200A)”の極太パイプが、石の裂け目から地面を割って突き出す。


 その異様なサイズに、案内していた村人たちは思わず後ずさった。


「な、なんだよこれ……!?」


「まるで……井戸の大蛇みてぇだ……!」


 パイプは、まるで熟練の職人が下見をし、緻密に設計したかのような角度で井戸内部へと吸い込まれていく。


 “通すべき場所”を完璧に把握しているかのように──

 井戸の内壁に沿って、銀の輝きを残しながら、真下へと沈み込むその姿は、もはや工芸品のようですらあった。


 その長さは、ついに視界の外へと消えていく。


 修平は立ち上がりながら、ふっと笑い──小さく呟いた。


「……よし、上手くいったな」


 それは単なる“一本の生成”ではなかった。

 今までのように地表に立ち上げるだけではない。

 “井戸の奥へ向けて、構造をもった配管として生成”する──

 異世界で初めて成功した、“施工込みのパイプ生成”だった。


 レナが、ぽつりと呟く。


「修平さんの……本気……」


 修平は、制御バルブの接続部を軽く叩き、作業着の裾をパンッと払う。


「これで準備は完了。あとは……」


 立ち上がり、くるりと周囲を見渡した。


「──明日、ブチ込むだけだ」


 朱に染まった空の下、村人たちはその背中をじっと見つめる。

 その姿には、震えるような興奮と、どこか神聖な畏怖すら滲んでいた。


 まるで、それは“村を救うために現場へ入った、異界の職人”。


 ──ただの水ではない。

 ──ただの道具ではない。


 これは、異世界に降り立った一人の配管工が、“希望”を流すための、施工だった。







読んでくださりありがとうございます。楽しんでいただけたら嬉しいです。

ブクマ・★・感想が本当に励みになります。

誤字や読みにくい箇所があれば教えてください。

次回もコツコツ更新していきます。

引き続きよろしくお願いします。

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