第五話:奇跡の再生!? 巨デブのきんたま事情
登場人物
•夏目 圭介:巨デブ専門の飼育員(26歳)
•大井川 狸吉:同僚の飼育員(30歳)
•神田 ヘキサ:ペットショップの店長(40歳)
•巨デブ:人語を解する珍獣
ペットショップ 事務室
(巨デブ、ケージの隅でションボリと体育座りしている。目には涙の跡。)
巨デブ 「ぼくのぉ……きんたまぁ……もう……ないのぉ……ぶひぃ……」
(夏目と狸吉、目を合わせる)
大井川 狸吉 「……さすがに哀れだな」
夏目 圭介 「まぁ、いくらコイツが珍獣でも、一応、“男”だったわけだからな……」
神田 ヘキサ 「いっそ去勢済みの方が飼いやすいと思ったんだが……思った以上にダメージデカいな」
(巨デブ、ぐずぐずと鼻をすすりながらケージの端っこに丸くなる)
巨デブ 「ぶひぃ……しょくよくもぉ……でないよぉ……」
大井川 狸吉 「いやいや、それは嘘だろ」
夏目 圭介 「一時間前に大量のクリームパン食ってたしな」
(狸吉、ふと店の奥にあった図鑑に目を向ける)
大井川 狸吉 「そういや、巨デブの生態、ちゃんと調べたことなかったな」
夏目 圭介 「そういえばそうだな。こいつの種族、情報が少なすぎるし……」
神田 ヘキサ 「まぁ、そもそも研究が進んでないからな。変な生き物だし」
(狸吉、分厚い『世界の珍獣図鑑(改訂版)』を開き、巨デブのページを探す)
大井川 狸吉 「えーと……どれどれ……」
(ページをめくる音)
大井川 狸吉 「あった! “巨デブ(学名:Gyo Debus)”……」
(夏目、隣から覗き込む)
夏目 圭介 「へぇ……意外としっかり載ってんじゃん」
大井川 狸吉 「ふむふむ……“体脂肪率が高く、運動を嫌う”……そりゃそうだな。“驚くと失禁する”……知ってた。“泣きやすい”……うん……“知能は幼児並み”……まぁ、納得」
神田 ヘキサ 「それ、全部今更な情報じゃないか?」
(狸吉、さらにページをめくる)
大井川 狸吉 「お、こっからが興味深いところだ。“巨デブの生殖器官について”」
夏目 圭介 「おう、聞こうじゃないか」
大井川 狸吉 「えーっと……“巨デブの生殖器は独特の再生能力を持ち、トカゲの尻尾のように適切な環境下では再生することがある”」
(一同、沈黙)
夏目 圭介 「……え?」
神田 ヘキサ 「マジか」
大井川 狸吉 「マジっぽいっす。“十分な栄養と清潔な環境が整えば、一定の期間を経て徐々に再生する”って書いてある」
(三人、顔を見合わせる)
夏目 圭介 「つまり……こいつの栄養管理をちゃんとしてやれば……」
大井川 狸吉 「巨デブの……きんたま、蘇る!?」
(突然、ケージの隅で縮こまっていた巨デブがビクリと反応する)
巨デブ 「…………」
(ゆっくりと振り返る)
巨デブ 「ぶひ……いま……なんて……?」
神田 ヘキサ 「お前のきんたま、生えるかもしれんぞ」
巨デブ 「ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
(突然、巨デブがケージの中で暴れ出す)
巨デブ 「ほんとうぉ!? ほんとうにぃ!? ぼくのぉ! きんたまぁ!! もどってくるのぉ!? ぶひぃぃぃぃ!!!!!」
(ケージを揺らしながら、歓喜のあまり涙を流す巨デブ)
巨デブ 「ぶひっ、ぶひぃっ!! すごいよぉ! ぼくのぉ、きんたまぁ! かえってくるのぉ!! ぶひぃぃぃ!!!!」
(夏目、苦笑いしながら図鑑を見つめる)
夏目 圭介 「とはいえ、ちゃんとした栄養管理が必要らしいけどな」
大井川 狸吉 「ってことは、こいつの食事管理を徹底しないとダメってことだな」
(神田、腕を組んで考え込む)
神田 ヘキサ 「まぁ、売るためにも健康管理は重要だしな……ちょうどいい」
(巨デブ、目をキラキラさせながらケージの柵にすがりつく)
巨デブ 「ねぇ! ねぇ!! どんなごはんたべたらぁ、ぼくのぉ! きんたまぁ! かえってくるのぉ!? ぶひぃぃぃ!!」
夏目 圭介 「……まぁ、低脂肪で高タンパクなものじゃね?」
巨デブ 「ぶひぃぃ!? それってぇ……おにく……?」
大井川 狸吉 「いや、むしろ野菜とか豆とか魚とか」
(巨デブ、固まる)
巨デブ 「……やさいぃ……?」
神田 ヘキサ 「そうだ。あと甘いもの禁止な」
(巨デブ、震える)
巨デブ 「ぶひぃぃぃぃ!? そ、それはぁ……」
夏目 圭介 「まぁ、諦めろ。お前のきんたまがかかってるんだ」
巨デブ 「ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
(絶望と歓喜が入り混じり、脂汗を撒き散らしながら泣き叫ぶ巨デブ)
(かくして、巨デブのきんたま再生プロジェクトが始動するのであった――)