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第三話 誘拐

 冒険者ギルドはいつ来ても人でごった返している。

 風呂にいつ入ったかもわからない冒険者達や、怪しい雰囲気の依頼人に、脂ぎった商人達がワラワラといてむさ苦しい事この上ないね。

 これが全員ロボ娘なら楽園なんだけど、ほとんどがヒューマンやアニマノイドだから目の保養にもなりゃしないよ。

 まぁ、自立型アンドロイドは戦闘用が多いし、軍に入るか傭兵になった方が待遇も金も良いからな。冒険者なんて半端な職に就く方が珍しいか。

 でも、もうちょっとどうにかならないもんかね。

 せめて、受付くらいはアンドロイドでもよくない?


「あれ? ステラじゃん! 久しぶりじゃん!」


 あん? いきなりヒューマンの女が満面の笑みを浮かべながら声をかけてきたぞ?

 うーん、どっかで見たような気もするんだけど、ヒューマンの女ってみんな同じような顔ばかりだから見分けがつかないんだよなぁ。元から覚える気もないけど。


「ねえ聞いたよ! また宇宙警察(ギャラポリ)に捕まったらしいじゃん。もう! 次に捕まった時は私に連絡してって言ったのに! 私が身元引受人になってあげるからさ。それで、そのまま私の家で……」


 何か訳のわからない話をしているな。何で見ず知らずの奴を身元引受人にしなくちゃいけないんだ? 意味がわからんし、気持ち悪いぞ。付き合ってられないよ。


「悪いが、俺は忙しい」


「あっ! ちょっと待ってよ! この時間だと割りの良い仕事なんか残ってないよ!」


 そこは女の言う通りだ。

 依頼が映し出された大型モニターには荷物運びや掃除の手伝いなどの雑務ばかりで、割りの良い依頼は何もない。

 条件の良い依頼なんて朝一で取り合いになってしまうから、こんな夕方に来てもまともな依頼がない事なんてわかっている。

 今日の俺のお目当てはこっちじゃなくて、あっちのモニターなんだよ。


「情報共有モニター? 何か調べたい事でもあるの?」


「まあな」

 

 情報共有モニターはその名の通り情報を冒険者達に共有するためのもので、わかりやすく言うと掲示板だ。賞金首の手配書なんかもここにはある。他にもギルドが集めたこの近辺で起きた事件の情報や冒険者から報告のあった有益性が高い情報が登録されている。

 俺が捕まえた昨日の酔っぱらいの手配書もまだあるはず……おっ、あったあった。

 ふむ、こいつらの宙賊組織はまだ識別名がないみたいだな。

 報酬金はバァさんの言った通りで5万。仲間で懸賞金がかかっているのは頭目と副頭目、それに用心棒の三人で一人20万エドル。

 なんだ? 全員合わせても65万エドルかよ。まぁ、無いよりはいいか。

 他にめぼしい情報はなし。

 じゃあ次はここ最近の事件の方を探ってみるか。

 ん? 2日前に惑星上空で個人貨物船が登録されていない船に追いかけられた、か。

 怪しいな。


「あれ? ステラはこの事件について調べてるの?」


 まだ鬱陶しくもくっ付いてきた女が上目遣いに問いかけてきた。邪魔だけど、今の口ぶりからして何か知っている風だから我慢しよう。


「何か知っているのか?」


「うん! 実はこの追いかけられた個人船の船長とは知り合いなんだ」


「ほぅ。それで?」


「船長の話だとこの船はいきなり後方から『止まれ! 止まらんと撃つぞ!』とか威嚇しながら追いかけてきたんだって。ありえなくない?」


 確かに宙賊らしくない行動だ。

 宙賊の略奪行為は時間との勝負。宇宙警察(ギャラポリ)や軍、傭兵なんかに見つかったら終わりだからな。

 パトロールや監視区域を避けて、なるべく目立たないように活動するのが定石なのに惑星上空で大声張り上げながら襲うなんて、捕まえてくれと言っているようなもんだ。

 マズードからの流れ者らしいけど、この一連の行動から考えて奴らは元々宙賊じゃ無い可能性が高い。

 そうなると冒険者ギルド(ここ)で得られる情報はもうないだろう。

 あとは情報屋に聞いてみるか。


「いい情報をありがとう」


「えっ!? そ、そんな……私はステラのためだったら何でも……」


 礼を言っただけでヒューマンの女は顔を赤らめさせ、俯きながらモジモジし始めた。トイレでも我慢していたのか? 

 俺はモジモジするだけの女を置いて、冒険者ギルドを出た。次は情報屋だけど、誰にするかだな。

 

「安い情報屋に頼むと情報が不正確だし、かと言って65万程度の事に高額な情報屋を使いたくないもんなぁ」

 

 安いやつだと1万程度で済むけど、高いやつは最低でも10万はする。自分の手取りが減るのも嫌だけど、経費はなるべくかけたくないのが、元サラリーマンの習性(さが)だ。

 とりあえずアイちゃんの店の近くで聴き取りでもしてみるか。昨日の今日だし、何か知っている人がいるかもしれない。

 俺は早速スラム街に戻って、アイちゃんの店に向かった。

 何だ? 妙にざわついているぞ?

 通り過ぎる奴らが俺の顔を見てはサッと目を逸らしていく。まるで何かに怯えているようだ。これは何かあったな。


「おい、そこの」


「うひぃ! お、俺は知らない! 知らないんだ!」


 近くにいたチンピラに声をかけるといきなり涙目になって狼狽(うろたえ)始めた。声かけただけでこの反応されるってのはちょっとショックだね。

 

「まだ何も言ってないだろ? それに何を怯えているんだ?」


「だ、だって……あ、あんな事があったなんて知ったら、あんたは……」


「あんな事? あんな事って何だ?」


「い、言えない! 言ったら俺は……」


「さっさと言え。言わないと背中側に向かってお辞儀が出来るようにするぞ?」


 下顎を持ち上げて身体を反り返らせると、チンピラは失禁しながら必死に声を張り上げた。


「うひぃ! ア、アイが攫われたんだよ! 見た事もない奴等に!」


 チンピラの言葉で俺の中の何かがキレる音がした。

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