第二話 賞金首
「もう揉め事は起こすなよ」
夕方になって俺はやっと宇宙警察から解放された。何が過剰防衛だよ! ロボ娘に手を出すなんて重罪だろ?
極刑でもいいくらいなのにボコボコの再起不能で済ませてやったんだから、十分手加減してるっての!
「あーあ! つまんない事で朝から夕方までの時間を損したわ」
「自業自得じゃ。お前はいつも面倒を起こしては捕まりおって。儂の身にもれ」
身元引受人として迎えに来た毛むくじゃらのアニマノイドじじいが憐れみと侮蔑の視線を向けてきた。
視線の主はバァラダ・バラクーダ。
異世界にやって来た俺を保護してくれた命の恩人だが、いくら何でもこんな眼で見られたら殺意が頭を過っても仕方ないと思うぞ。
ちなみにバァさんってのはあだ名で歴とした雄。
「仕方ないだろ。酔っぱらいがアイちゃんに絡んでいたんだから。ロボ助けだよ、ロボ助け」
「またお主の偏愛が原因か。お前は容姿だけは整っておるんじゃし、黙っていればヒューマンやアニマノイドにモテるじゃろ? それが何故にアンドロイドにばかりに気を向けるんじゃ?」
おいおい、バァさん。
本当に国立研究機関にいた科学者か? わかっていないにも程があるぞ。
「そっちこそ何でロボ娘の魅力がわからないんだ? あの均整のとれたボディにメタリックの上品な肌、そして溢れ出す無限のエロ! 科学者のくせにその良さがわからないなんてどうかしてるんじゃないか?」
「わかるかっ! どうかしとるのはお前の頭の方じゃ! お主の偏愛は最早病気の域に達しとるわい!」
ふっ、確かにこれを恋の病と言うのであれば俺は病に侵されていると言えよう。
産まれ落ちて30年。俺はロボ娘しか愛せない病に侵され、この病の薬はロボ娘にしか作れない。
そう、彼女達の愛だけが俺を癒してくれるのだ。
だから今日も俺はアンドロイドキャバクラに繰り出さねばならんのだ!
さぁて、今日はどこに行こうかなぁ〜?
「貴様の偏愛なんぞどうでもええわ! それより昨日の酔っぱらい。あやつ、賞金首だったらしいぞ?」
「あぁ、らしいな。そのおかげで俺も罪にはならなかったんだし。でも、あいつこの辺じゃ見かけない奴だったぞ。流れ者か?」
「御名答じゃ。手配元を調べてみたらマズード星系じゃったわ」
あいつ、マズード星系人かよ。道理で品が無いわけだ。あそこは紛争地帯だらけの危ない星系で、犯罪者か犯罪者を狩る傭兵しかいないとまで言われているおっかないだもん。
「アース星系に来た理由はわかってるのか?」
「それはわからん。じゃが、お主を知らんかったところを見ると来たのは最近じゃろう。知っていればお主に喧嘩を売ろうなんて馬鹿な真似はせんからのぅ」
「おいおい、俺はただのヒューマンだぜ?」
「そう。じゃが、ただのではない。お前は他の種族に比べて身体機能が劣るヒューマンの身でありながら、強化装甲を貫ける腕力、100メートルを5秒で走る脚力とそれを1時間以上持続できる体力を持ち、記憶力と動体視力と反射神経が異常発達した宇宙的に見ても超珍しい突然変異ヒューマンじゃ。おまけに異世界からの転生者という超超稀有な存在。まったく、儂の研究対象に相応しい」
老犬がニタリと擬音が聞こえそうな笑顔を見せる姿は妖怪にしか見えん。
怖気がする。
でも、この世界に来る前の俺は別に鍛えていたわけでもないし、歴とした普通の人間だったんだけどな。
正直、強さなんてどうでも良いけど、突然変異のおかげでバァさんに面倒見てもらえるようになって、野垂れ死ぬ危険がなくなったんだから感謝はしておこう。
ありがとう! 突然変異の神様! いるかどうか知らんけど。
「脱線したな。話を戻すが、宇宙警察のデータバンクにアクセスしてわかったんじゃが、奴は構成員20人ほどの宙賊組織の一員らしいんじゃ?」
おうおう、国家権力のサーバーにまで不法アクセスする胆力と能力は流石だな。
それにしてもあいつが宙賊だったのか、そんな風には見えなかったけどな。
どっちかと言えば街のチンピラって感じだってけどね。
「それで? 要するにあいつの仲間が仕返しにやってくるかもしれないから気をつけろって言いたいのか? 心配なんてあんたらしく……」
「奴の仲間全員ぶちのめして懸賞金をガッポリいただくんじゃ! 昨日の奴でも5万エドルが付いておったんじゃぞ? 全員分で100万! 頭目であれば更に高額の懸賞金が付いとるかもしれん! ゴミ掃除ついでに一攫千金じゃ! くかかかかっ!」
がめつい! なんて金にがめつい爺ぃなんだ。碌な死に方しないぞ。
でも、100万エドルは悪くない。
なんせ昨日の店でも派手に使っちゃったから懐がかなり寒いんだよなぁ。
このままじゃ来週のシラヒメちゃんの生誕祭にも行けなくなってしまう。
ここはがめつく稼がせてもらうとするか。
「仲間の居場所はわかっているのか?」
「それはわからん。宇宙警察もそこまでのデータは持っておらんかった。じゃが、マズード星系から最近来たばかりと考えると、まだアジトは無いじゃろう。地上で捜し中か、宇宙で待機しておるか」
「うーん、宇宙だと今は手段がないから厄介だな。とりあえず地上を探してみる。冒険者ギルドなら何か情報があるかもしれないし」
「よかろう。儂も独自のルートで探ってみるわぃ。何かわかればウィンドウ回線で連絡してこい。あっ! 言っておくが分け前は折半じゃからな! じゃあの」
それだけ言い残してバァさんは去って行った。それにしても情報だけで折半とは本当に金にがめついな。だけど、あれの完成のためには仕方ないか。
「早いとこ完成させてもらわないと俺も困るからなぁ。俺も行くか」
俺はスラム街のはずれにある冒険者ギルドへと向かった。