星原の下で
ハルカ
遥
高校に通う女の子
あまり外出は好きではないが、誘われたりしたら出る。
幸人のことが好き
ユキト
幸人
遥と同じ高校に通っている男の子
外で遊ぶことも室内で遊ぶことも好き
遥のことが好きだが、父親の海外転勤が決まり
打ち明けないつもりでいる
ミーンミンミンミンと蝉の声が外から聞こえる。
私は、外に出て遊ぶことが苦手ということもあり
家で過ごす事が多かった。
そのお陰か、夏休みに入ってからまだ2週間しか経っていないというのにほとんどの宿題が終わってしまった。
…ただ、残っている宿題の1つにとても頭を悩ませていた。
なぜならその宿題が、「夏休みで1番の思い出を書く。(文でも絵でも可)」というものだった。
遥「はぁ〜…、そんな皆がみんなどこか出かけるとか、思い出作りに励んでるとかって訳じゃないのに〜」
そんなふうに悩んでいると、ピコンっとメッセージアプリの通知音がした。
遥「ん〜?誰だろう」
開いてみると、相手は幸人からだった。
思わぬ相手からのメッセージに、私の鼓動は少しずつ早くなっていく。
幸人『今週末さ、うちの地域で流星群が見られるの知ってる?良かったら一緒に見に行かない?』
…これは夢なんじゃないか、きっとそうだ。
そう思い、冷水で顔を濡らしてみる。
しかし、メッセージは変わらず届いている。
遥「こんなの、行かない選択肢ないよ〜…!!」
私はすぐに、返信を返した。
遥『行きたい!』
すると、すぐに返信が返ってきた。
幸人『本当!?じゃあ金曜日の夜、星原丘の入口で待ち合わせしようか!』
…少し先の出来事に、私は早くも着ていく服を決めるため、クローゼットの中にある服を引っ張り出し、どれにするか悩んでいた。
…金曜日の夜。私はあれから自分の部屋でファッションショーの如く、たくさんの服を着ては脱いでを繰り返し、1番お気に入りの所々レースがあしらわれているワンピースに身をまとい、軽くメイクをして星原丘へと向かった。
…すると、流星群が見られるということもあり
入口にはたくさんの人で溢れかえっていた。
遥「幸人…どこだろう」
たくさんの人の中から見つけようとキョロキョロ
辺りを見回していると、後ろからトントンっと肩を
叩かれた。
振り返ると、いつもより大人びて見える幸人がいた。
幸人「ごめん、探すのに手間取っちゃって…」
遥「ううん!私も全然見つけられなくて、今丁度電話かけようと思ってたところだった!」
幸人「そっかそっか。じゃあ無事合流出来たし、
早速行こうか」
遥「うん!」
私と幸人はなるべく離れないように、丘へと続く
階段へと向かった。
階段を登りきると、広場が見え始める。
しかし、そこにもたくさんの人で溢れていた。
遥「どうしよう…、だいぶもう座れそうなところ
なくなってる」
そう呟くと、幸人がニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
幸人「実は、とっておきの場所があるんだ。
ただ、少し道が荒くて歩くの大変かもしれない」と。
遥「大丈夫だよ。サンダルもペッタンコのやつ
履いてきたし!」
そう言うと、幸人は優しく微笑む。
幸人「なら、行こうか。あっ、けどやっぱり
危ないから嫌じゃなかったら手、繋ごうか。
俺も転びそうで怖いからさw」
そう言い私に手を差し出す。
遥「いいの…?じゃあ、お言葉に甘えて」
私は幸人の手を握り返した。…どうか、この
うるさい鼓動が手を伝って、幸人に知られませんように…。そう思いながら。
広場から少し山道を歩くと、開けた場所に出た。
そこは静寂に包まれていて、星空もより一層綺麗に
見えた。
遥「うわ〜!!凄く綺麗!よくこんな良い場所知ってたね?」
すると、先程まで元気だった幸人が
少し、寂しそうな顔をしていた事に気がついた。
遥「…どうしたの?」
幸人は繋いでいた手を離し、座れそうな石に腰を掛けた。
そして私に手招きをして、隣をトントンと叩いた。
私はゆっくりと腰を掛け、隣に座る幸人の顔を
見つめる。
…どれぐらい経っただろう。暫くしてから、
幸人がポツポツと話し始めた。
幸人「実は俺…、夏休みが終わったら引っ越すんだ」
遥「えっ…?」突然の告白に、私は頭が真っ白になった。
遥「と、遠く?」
幸人「海外なんだ。父親の転勤で…」
海外…。そしたら、もう会えなくなるのではないか。そう不安になり、私は少し震えた声で聞いた。
遥「…じゃあ、もう会えない?」
すると、幸人は勢いよく私の方を向いた。
幸人「そんな事はない…!けど、すぐには会えない…」幸人の目は、少し潤んでいた。
…私はそっと幸人の左手と、私の右手を重ねた。
遥「幸人、上を見て」
そう言うと、夜空を見上げる幸人。
この丘の名の通り、空には星原が広がっており
そこにたくさんの流星群が降り注いでいた。
遥「確かに…、みんなと離れるのは辛いと思う。
私だって、凄く…辛い。けれど、またいつか会えるなら。絶対に会おう!それこそ、この場所で。」
そう言うと、重ねていた私の手をぎゅっと握る幸人。
幸人「そうだね…!絶対また、ここで会おう。」
その顔は、先程とは違いどこか晴れた笑顔を浮かべていた。
…その帰り道。幸人が家まで送ってくれることになり、駅のホームで2人で電車を待っていた。
すると、幸人がポツリとまた呟いた。
幸人「実はさ、もう1つ言ってなかったことがあるんだよね」
遥「ん?どうしたの?」
幸人は私と向かい合わせになり、私の手を握る。
その顔はほんのり赤くなっていた。
幸人「俺…、遥のことが好きなんだ。
さっきの言葉もらってから、もっともっと好きになって…。遠距離になるし、言わないつもりでいたけど、ここで言わないと後悔するって思って!だから、俺と付き合ってくれませんか?」
…まるで夢のようだった。いや、今日の夜の出来事さえ夢のようなことばかりだったのに。本当は夢で、目が覚めたら当たり前の日常が待っているんじゃないか…、そう思っていたのに。
幸人の手から伝わる温度はとても温かく、それが夢では無いことを証明している。
遥「私も…、幸人のこと好き。さっき、海外に行くって教えてくれた時に、諦めよう…って思ってたの。
でも、''また会おう''って言ってくれて。もしかしたら、同じ気持ちなのかな…って、期待してた」
幸人の手を握り返しながら、恥ずかしくなり
顔を俯かせながら言う。
…すると、幸人の片方の手が私の頬に伸びてくる。
顔を上げさせられ、幸人の顔を見つめる。
…だんだんと、こちらに来る電車の音が聞こえる。
その音と共に、私の鼓動は早くなっていく。
まるで、電車の音と私の恋心が共鳴し合っているみたいに…。
そして…、電車が来ると同時に2人の影が重なる。
電車の中、そして私の家までの道のりもお互い喋ることはなかった。
けれど、繋がれたお互いの手を離すことはなく、
この一時が永遠と続けばいいと…私は思っていたのだった。
…あれから数年。
幸人と私は離れ離れにはなってしまったが、
メッセージをたくさん送りあったり、
空いてる時間があればたくさん通話をした。
そのお陰もあって、ここまで順調に進んで行った今、
私はあの星原丘にいた。
あの時は夏だったが、今は冬。
自分の吐く息が白く、手袋を付けていても寒く、
手を擦り合わせていると、後ろからふわりと抱きしめられながら、あの時よりも大きくなった手で、
私の手を包み込んだ。
幸人「やっと、会えた…」
その声は通話で聞いていた時よりも優しく、
少し低く感じた。
遥「これからは、一緒にいられるね…」
今度は幸人の胸に飛び込むように、私が抱きつく。
私たちの再会を祝福するように、キラキラと
雪が降り始めた。
…まるで、宝石のように降り注ぐ雪を私と幸人は
暫く眺めていたのだった。