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第一章 月光花 トラブル


 高原都市・ハイリア。


 小高い山の中腹にあるのにもかかわらず、水平な土地に広がる草原地帯。その中心にある石造りの家々、そしてあらゆる店が連なる、一見のどかな田舎町にも見えそうだが、実はたいそうな繁華街である。


 草原の中心にあるハイリアには、二つの出入り口がある。

 一つは、山頂へとまっすぐ続く道。

 そしてもう一つは、その道と正反対側、下山する方向の道だ。

 どちらもまっすぐに伸びていて、延長すると一直線に繋がる仕組みになっているのだ。

 街を出れば、腰ほどにもなる草が構成する道を抜け、森に入る。どちらもそのようなルートだ。


 デヴィルとブラッドは、森を抜けた草原地帯の中央、そこから延びる一本道を通って街に入る。

 いや――入ろうとした。

 

「おいおい、ふざけ腐れよこのバカ牛!」


 ブラッドは怒鳴っっていた。

 二人の青年が乗るジープは、四人乗り仕様となっている。その運転席の後ろ、後部座席のドアが、へこんでいた。どうやら、森から街への道中でぶつかって来たらしい。

 仕方なく、二人は街中までジープを押し、そこにある自動車修理工場にたくした。

 今現在、彼らは、都市内を両断する大通り沿いの喫茶店にいた。道路とはガラス一枚で仕切られた窓側席に座り、二人ともコーヒーを飲んでいる。


「まあまあ、いいじゃないか、ブラッド。どうせ、しばらくはこの街に居座るわけだし。のんびりと待ってようぜ」

「おいおいおいおい、そんな悠長なこと言ってる場合かよ? もし仕事が終わっても、この街に釘付けだぞ?」

「箱詰めだろ」

「箱妻だぞ?」

「それは溺愛できあいしすぎだ」


 バカップルか、などと突っ込むデヴィル。

 箱入り妻とでも言いたかったのだろうか。

 しかしそれをスルーして、ブラッドは続けた。


「それよりも、なんにしても、だ。どうするんだよ? この状況。いくら大草原の真ん中にちょこんとある都市部だからって、結構広いぜ? この街」


 ブラッドの言う通り。この都市部分は、草原の面積から見ても、面に対する点のようなものでしかない。

 しかし、それはあくまでも草原地帯から見た相対的な、感覚。

 錯覚と言って差し支えないものだ。

 こうして街の中に入ってみると、対称的な位置にある出入り口をつなぐ大路を歩く、それだけでも息が切れてしまいそうな程の肉体労働だ。


「いくらいる期間が延長したって、これじゃあ結構きついぜ?」

「そうかな。僕は、それはそれでいいとも思うんだけどな」

「お、おいおい勘弁してくれよ……」

「いや、そういう意味じゃない。いくら僕でも、運動不足の老いぼれに運動をいろうとか、そんな事は考えちゃないよ」

「おい。それはお年寄りの尊厳をあまりにも深く傷つける発言じゃぞ。……じゃねえだろ! 誰が老いぼれだ、誰が!」

「ノリ突っ込みできたか。ノリ方がいまいちだったけど」

「黙らっしゃい!」


 はぁ、と、一息落ち着いて、デヴィルは本題に戻った。

 それにしても、本人たちに自覚があるのかは置いておいて、よくもまあここまで路線変更の多い会話が出来る人間たちだ。


ごうっては郷に従え」

「ん? なんだ? デヴィル。そりゃあ」

「……知らないならいい。とにかく、この街には、この街のやり方があるってことさ」


 そう言うと、デヴィルは立ち上がり、店を出た。呆気に取られながら固まっているブラッドは、一瞬その場で思案したが、すぐさま立ち上がってレジへ急いだ。


 デヴィルは店を出たその足で、少し離れた、大通り沿いの馬貸しを目の前に立っていた。

 その黒い、カラーの世界なのに一人だけシルエットのような彼を、ブラッドは見つけた。

 少々荒く踏みしめてデヴィルへと寄ってきた。


「やいやいデヴィル。お前、自分の分の勘定くらい払って出ろや!」

「まあこれ見ろって。お前もこれなら、この街での生活も、楽に楽しく過ごせるんじゃないか?」

「ん?」


 石造りの建物が並ぶ中でひときわ目立つ木造の馬貸し、その店内には、都市周辺の大草原を十分に駆け回れると思われる程に屈強な馬たちが繋がれていた。

 並んで、繋がれていた。

 繋がれて、並んでいた。


「おー。スゲースゲー。こりゃ随分と強そうなやつばっかだな」


 ブラッドは言った。

 時折顔を振りながらも、ガタイのいいものから引き取られていきながらも、その馬たちは、行儀良く並んでいた。

 使われるために育ち、役立つために連れて行かれる。

 何日かしたら、駄賃と共に、返される。

 無用になったから。

 不要に、なったから。

 用が――なくなったから。


「…………」


 沈黙の黒。


「ん? デヴィル? おい、どうした」

「……なんでもない」


 馬貸しの中に入った。

 バーカウンタにも見間違えそうな木製のテーブルの奥に、店主と思われる男は立っていた。

 恰幅かっぷくのいいなりに、肩口で破いたような袖から出す毛の濃い腕、髭ヅラの店主は、鋭いというよりは単に悪いだけの目つきで二人を睨んだ。

 まるで値踏みでもするように、客を睨んでいた。

 そんな店主を相手に、ブラッドも睨みを利かせていた。文字通り。字面通り。

 睨み合う二人の様子を横から見ているデヴィル。

 ……はあ。

 バカみたいな画だった。

 子供の初対面でも、もっと愛想いいぞ。


「なんだよ、クソジジイ」


 喧嘩を吹っ掛けたのは、不運にもデヴィルの相棒だった。

 どこまでもガキくさい。

 初対面の相手に、今後のやりとりも考えずに顧客としての立場も考えずに、なんてストレートな蔑称べっしょうを投げるんだ、こいつは。

 頭の悪い不良みたいだ。しかも、酷く前時代の。


「うーん……」


 髭面の店主は、まだ睨んでいた。いや、半分は悩んでいるようだ。

 一体何を悩んでいるのか、相手取る二人はつゆほどもわからないが。

 それから、悩み終えた店主は大袈裟に手を広げ、笑顔を作った。


「ようこそ! さあ、なんでも選んでってくんな!」

「…………」

「…………」


 デヴィルにもブラッドにも、ここまでわだかまりが生まれたことは、おそらくは初めてのことだった。


「いやあ。最近、馬を貸しても戻さないで持ち去っちまう野郎どもがいてな。主に山賊とか、盗賊なんだが。警察に被害届を出しても、やつらの悪徳ぶりには目を見張るものがあってな」

「見張ってる場合じゃないと、思うんですがね」


 むしろ目の上のたんこぶだ、とデヴィル。そして続ける。


「それで、怪しいやつじゃないかどうか、見極めてた、というところですか?」

「ああ。悪かったな、お二方。さあ、信用することにしたあんたたちには特別サービスだ。どれでも選んでくれ。その価格を3割引きにしてやるから!」

「お、マジかオヤジ! そりゃ助かるぜ。なあ、デヴィル」

「いいんですか?」

「構わねえよ。二人とも初めて見るにしちゃあ随分と男前だ。二人の情報を聞きにここへ美女が立ち寄る、なんてこともあるかも知れんからな。美女で賑わう店、こんなコピーでもつきゃ、商売繁盛間違いなしだぜ!」

「…………」


 商売上手な店主だった。

 ある意味、賭博にも近い商売の仕方をしている。

 今後の店主、実は山賊になり下がったりはしないだろうか、と密かに心配するデヴィルだった。





 NOTEです。

 寅年だけに、トラブル。

 みたいなバカなことを、今さっき思いつきました。

 はい。

 バカです。


 さて、このお話で、起承転結で言うところの『承』が終わった、もしかしたら『承』が始まったくらいなのかもしれません。

 ここからは一気に、畳み掛けるように第一章が収束、終結していくと思われますので、今後の更新を見逃さないようにお願いいたします。


 意見、評価、レビュー、意見、訂正などなど、様々なお話を頂けたらありがたいと思います。


 では。



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