第2話
あれは、私が九歳になる年の初雪だった。
病室の窓から外を眺めれば、降り積もる雪で、すっかり白くなった世界。公園を駆け回る子供たちの姿も見える。
雪だるまを作ったり、雪玉を投げ合ったり、本当に楽しそうだ。窓ガラスで遮られているのに、彼らの歓声が聞こえる気もするほどだった。
「そろそろ行こうか、早苗ちゃん」
「はい……」
看護師のお姉さんに促されて、私は窓から視線を戻す。
ベッドごと移動するので、起き上がる必要はなかった。ただ「心の準備は出来たかな?」と確認されただけだ。
改めて現実に目を向ければ、病室には、私の大好きな家族が来ていた。お父さんとお母さん、そして三つ年上のお兄ちゃんだ。
お父さんは唇を強く噛み締めて、気持ちを顔に出さないよう努力していた。お母さんはあからさまに悲しそうで、そんなお母さんの手を、お兄ちゃんがギュッと握っている。
「三人とも大袈裟だなあ。そんな態度やめてよ……」
私は笑ってみせるが、自分でも無理しているのはわかっていたし、それは家族にも伝わっていただろう。
私の病気は重度の内臓疾患であり、あと五年も生きられないと宣告されていた。現代医学では治療できない難病だそうで、唯一の可能性として提示されたのが、もっと医療が発達するであろう未来に賭けること。
コールドスリープだった。