第七話 大きな陰謀と地獄ミミ!
昼食が終わると、スケアクロウの外骨格を土に埋めてミミたちは頂上へとホッパーで向かった。
しゃれこうべ山の生態系は平野とは異なり、急峻な地形に適応した生物が数多くいる。また植物の分布としては林レベルしかなく全体的に痩せた土地であるが、鉱物資源は豊富で、それを養分とする種類の生物が激しい生存競争を繰り広げていた。その結果、他の地域より強い力を持つモンスターが多くなったのである。
ホッパーで移動している最中、鉱物スライムが断層に集まっているのが見えた。鋼鉄の貝殻を持った黒いカタツムリのような見た目をしていて、人間には有毒な鉱物を取り込む生き物だ。大して強いモンスターでもないが、うっかり触れると全身からにじみ出る毒素で皮膚がただれることもあり、ミミたちはスライムを無視して先に進む。
ある程度木が繁茂しているところに着くと、傷のある木が目についた。マダラオオトカゲの縄張りである証だ。二足歩行する大型のレプタイルであるマダラオオトカゲは腕の棘で攻撃してくる。鉄をも切断するそのトカゲとは、できれば出会いたくない。ホッパーを壊されては帰る手段もなくなる。
ミミはホッパーの通行可能な道を選び、上へと進む。木々が乱立しているところも、ホッパーの小柄な体躯なら通れる場所があった。
がしょん、がしょんとホッパーが跳ねるごとに音が鳴り、それを感づかれないかだけが心配だった。
不意に頭上をいくつもの影が通り過ぎる。
スケアクロウだろうか、とミミは上を見上げたが、どうやら身体に装着する翼、オーニソプターの類らしい。鳥ではなく人間の胴体であり、目のいいミミにはそれが見えた。
「ロロ、隠れるぞ!」
後ろのロロに小さく言い、ミミは操縦桿を操作して木立の間にホッパーを隠れさせた。
上空を通る影は全部で四つ。全員が過ぎ去ったのを確認して、ミミは慎重にホッパーを移動させる。
「……今の、市場にいた鎧の人たちでしたね」
ロロが言う。エルフと犬獣人のハーフである彼の目も、ミミと遜色ないほど良かった。ミミは頷き、肯定の意志を示す。
市場で出会った、大型の狩猟器具を持った一団。高価な空飛ぶ機械を持つ彼らは、いよいよ冒険者風情の規模ではない。特殊な武装を用意できる、何らかの後ろ盾があるに違いなかった。
気づかれただろうか? しかし、しばらく待っても引き返してこないため、見落とされたかもしれない。
「我らも急ごう……上手く行けば連中とロータスドラゴンの相打ちの可能性もある。でも、それに期待してはならぬ」
再びミミはホッパーを発進させた。
先行き不安が、彼女たちの前に暗雲を立ち込めているようにも思えるのだった。
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ホッパーが山を登り始めてから二時間が経過した。足で行くよりは楽とはいえ、急な坂道を行くのだからそれなりの負担がある。そろそろ休息しなければ、乗り手の二人も持たない。
木立の間を抜けていくと、目の前に澄んだ湖があった。その畔でミミはホッパーを停止させた。
ふぅ、とミミは大きく息をつく。さすがにここまで操縦するのは疲れた。ミミは父から訓練され、基本的なあれこれはできるとはいえ、今まで安全な王室で暮らしていたのだ。最初は良かったものの、次第にスタミナが切れるのも無理はない。
「ミミさま、次は僕が操縦代わりますよ」
「いいや。ロロは前に出て戦ってもらう。スケアクロウとの戦いで、おぬしと予の役割がはっきりとわかった。おぬしが切り込み役、予がサポート役だ」
「でも、ミミさまにこれ以上ご負担をかけては……」
「要領が悪いな、おぬしは。適材適所というものがある。予はおぬしを本当に信頼しているから、温存しているのだ……。もしモンスターとの戦闘で予を置いて逃げ出したら、承知しないがな」
ごくっとロロは生唾を飲み込む。彼もまた、自分の使命を再度噛みしめているようだった。
「僕は父の代から王に仕える身……。ミミさまの命令なら、何でも聞きます」
「それでよいのだ」
ホッパーから降りたミミとロロは、湖の水をすくって飲む。底が見えるほど透明度の高い水は、おそらくこの地域一帯に広がる地下水脈が湧き出たものだ。嘘偽りない天然水。ミミにとっては城で飲む水より美味しく思えた。
しかし、横を見ると木に引っかき傷があり、緩みかけた気持ちは再び引き締まった。
「ここもマダラオオトカゲの縄張りか……あまりまごついてもいられな……」
ぎしゃあ、と叫び声が森の中から聞こえた。
ミミとロロは反射的に茂みに身を隠す。
今の声は悲鳴のようだった。モンスター同士が喧嘩したのだろうか? 妙な胸騒ぎがして、ミミはロロを見やる。ロロもまたミミと同意見らしく、お互いに頷いて、姿勢を低くしたまま悲鳴のした方へ向かった。
林の中を行くと、血のにおいがむっとする。
できるだけ音を立てずに進むミミたち。こんな時、自分たちが肉球のあるハーフ獣人でよかったとミミは思うのだった。
少し拓けた場所で、横たわっている死体とそれを取り巻く鎧の人物たちが見える。ミミたちは一旦立ち止まって目を凝らした。
大人ほどの大きさのある爬虫類、その腕には鰭状の棘がある。マダラオオトカゲが頭から血を流していた。鎧の一団は、あの市にいた者たちで間違いない。
「うちの島じゃ絶滅した生き物ですよ。こいつ生け捕りにすればよかったんじゃないですかね?」
鎧の一人がリーダー格らしい人物に訊く。
彼らは兜を被っていたが、その恵まれた体格と隙間から覗く体毛で獣人だとわかった。
「俺たちは狩りが本業だ。そんなもの、ハトゥールを征服した後に学者様がやればいいだろう」
長身のリーダーからのっぴきならない言葉が出てきて、ミミは息を呑んだ。
「ブツを手に入れたら、カニーンヒェンにとっとと帰らないとな。戦争の準備はもうできてるらしい。うかうかしてると爆撃に巻き込まれるぜ」
「あの王様じゃ、いつハトゥールに攻め込んでもおかしくないよな」
ミミは瞠目した。瞳孔が細くなり、彼女の驚きを表す。
思った以上に深刻な事態になっている。すべてを一瞬で飲み込めたわけではないが、それだけはわかっていた。