第六話 いただきましょう鳥のニク!
炎のクリスタルをはめた瞬間、マジックシューターは熱を帯びる。
ミミがシューターの発射口をスケアクロウに向けトリガーを引いた時、ごうっと炎の弾が吐き出された。
空中に陽炎の軌跡を描いて飛ぶ炎の弾は一直線に飛んでいく。スケアクロウのうち、ミミたちの一番近くにいた一匹がその火炎弾を胴体に食らって地に落ちた。
「やったぞ! 一匹仕留めた!」
ミミは顔に喜色を湛える。が、他の二羽は動じた様子もない。仲間が負傷してもおかまいなし、といった冷酷な性格が伺えた。
火炎弾を食らった個体も地面の上で体勢を立て直し、ぴょんぴょんと何度か跳ねたのちに羽をばさばさと動かし、また飛び立った。相手は大型のコンドルほどの全長だ。その身体に、大したダメージを与えていない証拠だった。
「まずい、一旦退くぞ!」
ミミはホッパーのエンジンを入れ、びよんと跳ばせる。手頃な岩陰の裏に逃げると、ミミとロロはホッパーから降りて張り詰めた表情でそれぞれの武器を取る。
ミミはマジックシューター、ロロはそれに加えてヴォールクから貰った短剣がある。スキルクリスタルは城の兵士が使っているもの。低級モンスター相手に役不足ということはないはずだった。
「み、ミミさま……!」
ロロが震え声で言う。短剣の先がぷるぷる震え、彼の幼い顔は涙でくしゃっとしていた。
「ぼ、僕が戦います……! 僕はこの剣もある、これにマジックシューターでオーラを被せれば、より強い攻撃が……」
「ロロ。無理するな。立っているのもやっとであろう? 辛いなら辛いと言え」
ミミが諫めると、ロロは押し黙ってしまう。ミミは力づけるように彼に言った。
「予も王城を出てきた以上、戦わねばならぬことはわかっている。おぬしは戦いも全部自分一人で背負うつもりだろうが、予も戦力として考えてくれ。できることはするつもりだ」
「ミミさま、それではミミさまの御身に危険が……」
「元より構わぬ! 予が傷つくのを恐れる女に思えるか!」
ミミはマジックシューターに氷のクリスタルを装填する。
「だが、予は試してみたいことがある。道連れとして連れてきたおぬしも巻き添えだ。どうせ何もしなければあの鳥どもに喰われて死ぬのだ! ならば策の一つ試す価値はある!」
「な……何を?」
「魔法陣を敷いて、おぬしを強化するのだ!」
「そんなことができるのですか?」
「ヴォールクが言っていただろう! マジックシューターはオーラを剣や拳に纏わせることができると。予も魔導のやり方は多少教わっている」
魔導を研究する隣国と交流を続けていた父からな、という言葉をミミは飲み込む。
「魔法陣を敷けば、その中にいる者が強化されるのだ。氷のオーラをおぬしの剣に纏わせる。予自らが剣を振るって戦えないのが口惜しいがな。しかし剣技ならロロのほうが上手であろう?」
「そんな、めっそうもない!」
「それは謙遜か? それとも責任逃れか? 辛いとは言ってもいい。それくらい予も聞こう。だが、今更自信がないとは言わせぬぞ。予に従うと決めたなら拒否権はない。戦うのだ!」
そのミミの言葉には得も言われぬ凄みがあった。
ロロは目の前がぐるぐるしているように視線を彷徨わせたが、やがて芯の定まった目つきになる。覚悟を決めたようだ。というより、危険の差し迫った状況下では、少しでも勝機のある道を選ぶしかない。それは彼もわかっている。
「……わかりました、ミミさま。僕はやります」
「うむ、それで良い!」
ミミは満足げに頷く。
「予がおぬしの手前に陣を敷く!おぬしはそれが完成したら中に飛び込むのだ!」
「はい! 僕は……やります!」
ミミはマジックシューターを岩の前の地面に向ける。
シューターから発射された弾が地面にぶつかったとき、地面の下から輝く気が立ち上った。クリスタルの成分が穿った地面から上空に昇っているのだ。
そのままミミはシューターを地面に向けて、数発弾を放つ。弾は円陣の形に地面に痕をつけ、地面から青いオーラが湧き上がった。
そのオーラの中にロロは潜り込む。青いオーラを一身に受けたロロは、彼の持つ剣に力をためた。それと同時に青い気が刀身に移行していく。
ロロは考えるより先に走っていた。
上空にいる三羽のスケアクロウ。それらが再び「きしゃあっ」と襲ってくる。
ロロは氷の剣を一振りした。彼の目の前の空間が凍りつき、氷の棘がいくつも出現して、襲い来るスケアクロウに矢のように放たれた。
釘のような氷の棘がいくつもスケアクロウの翼に、頭蓋骨のような額に刺さる。
バランスを崩してスケアクロウたちは墜落していった。落ちてくるその身体を、ロロは見極め叩き斬っていく。
真っ二つに断ち切れたスケアクロウの死体が三つ、地に転がった。
「よいぞ、昼食は鶏肉だ!」
岩陰から出てきたミミが嬉しそうに言う。
ロロは肩で息をしつつ、自分が仕留めた敵に振り返った。
血を流し横たわるスケアクロウの遺骸を、ロロは信じられない目で見ていた。
「どうした? スケアクロウは外骨格に臭みの元となる成分が移動しているから、下処理が必要ない。こいつらは表面の骨を剥いだら丸焼きで食えるぞ。身がさっきの攻撃で凍っているから、火が通るのに時間はかかるがな」
だが、石を打ち付け火を起こすミミを、ロロは固まったまま見つめるしかなかった。
「……僕、こんなに大きな生き物を殺したの、初めてですよ」
「何か言ったか?」
「……いいえ」
ロロは昼食を食べるとき、いただきますと手を合わせた。