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第五話 急いで赴け白きヤマ!

 山に行く道中、食料を買いに市場に寄る。広い市場は獣人、エルフを問わず様々な人で賑わっていた。石畳の上に並ぶ店。新鮮な野菜を売っているもの、渡来品の皿や時計を売っているもの、蒸気機関のジャンクを売っているものと様々だ。

 抜けるような青空の下、遠くに汽笛が聞こえる。汽車の駅が近くにあり、離れた地域からわざわざこの市に来る人々もいるのだ。王家のお膝元にあり、島の中や外から様々なものが入ってくるこの市はハトゥール島でも最大規模である。


 まずミミはスチームホッパーを駐車場に停めた。この国では一般的な乗り物、蒸気で車輪代わりのファンを回し飛ぶバイクで駐車場はほぼ埋まっており、空いた場所を見つけるのに苦労した。二人はホッパーから降り、人混みのなかをかいくぐっていく。

 まずは食料。ミミはフードを目深にかぶって、顔が見えないようにしながら果物や野菜を売っている店に近づいた。ロロがその後ろからついてくる。

 店頭には真っ赤なりんごや桃、青々とした葉菜類が所狭しと並べられていた。どれもがお客に買ってもらえるよう、精一杯顔を出しているように見える。


「りんごと……あとネギもないだろうか」

「ネギなんて何に使うんですか」

「風邪をひいたときに首に巻くのだ」

「それは迷信です。普通に病院に行きましょうよ」

「注射のある病院は嫌だ」

「顔がネギ臭くなるほうが嫌だと思いますけど……」

 店の前で会話する二人に、恰幅のいい店主の獣人女性が腰に手を当て、むすっとする。

「あんたたち、結局何買うんだい? 早くしてくれないと、他のお客さんが買えないじゃないか」

「すまぬ。ネギは尻尾を切ってくれ」

 結局りんごを三日分、強引にネギも一本買った。買い物袋を持つのは当然ロロの役目。金貨を一枚渡された店主は仰天したものの、大急ぎで貨幣を数え、しっかりとお釣りを渡した。


「よーし、次に買うものは何だ?」

 お釣りでポケットをじゃらじゃらさせながらミミはずんずん歩いていく。

 ロロはため息をついてミミに従った。無計画極まりないミミは、放っておけば何を買うかわからないといった顔。

「ホッパーの燃料も買った方がいいでしょうね。あとは簡単な修理道具とか……。財布は僕が預かりますよ。落とすかもしれませんし」

「強そうな剣とかあるだろうか?」

「あるかもしれませんが、武器の見極めなんて僕できないです」


 そんな話をしていると、見慣れぬ一団が市場を練り歩いているのを見つけた。

 周りの人々もどよめいている。その一団は鎧をつけていたが、雰囲気が冒険者のものではない。殺しを生業とするエキスパート特有の殺気が、彼らの周りに満ちていた。

 ミミとロロはそれを見て、さっと物陰に隠れる。壁の裏からミミは一団を見やったが、少なくとも彼らはテロリスト等ではないようだ。店頭で消耗品等の買い物をしている。それに応対する店の人も、恐れを隠せない顔で震えていた。

「……城の人たちも僕たちが逃げたこと、知ってますよね。僕たちを探してるんでしょうか」

「いや、あれは我が国の鎧ではない。おそらくモンスターの討伐部隊……それも巨大なモンスターのだ。他国から潜入してきたのだな」


 鎧の一団が身に着けているのはマジックシューターだけでなく、大型のボウガン、巨大な肉斬り包丁のような剣と、自分より大型の敵を想定した装備だ。

「これは急がねばならぬかもしれんぞ……」

「どういう意味ですか?」

「あそこまで本格的な装備。予たちと同じくロータスドラゴンを狙っているのやもしれぬ。その心臓に強大な魔力があるのなら、密猟を狙うものがいてもおかしくなかろう。おまけにハトゥールは現在、実質的な指導者がいない状況だ。他国が強力な魔導兵器を開発したなら、その矛先が我が国に向けられるかもであろう」

 ハッとロロは息を呑む。

「……でしたら、僕たちが先にロータスドラゴンを倒さないと……」

「うむ。ホッパーに戻るのだ!」

 二人は物陰から出て、たっと駐車場まで戻る。鎧を着た一団の一人がそれに気づいたが、別段気に留める様子はなかった。


   ・


 しゃれこうべ山のふもとまでスチームホッパーで跳ねながら行くと、住宅街から離れ段々人気が少なくなり、まばらに灌木の生える平野には微かに獣臭が漂う。

 ここから先はモンスターたちのテリトリーだ。『猛獣注意』の看板を通り過ぎる。何が起こっても自己責任の領域という意味だ。

 目の前に聳え立つ山は、航空機から見ると巨大な髑髏のような形をしている。上空からの写真を見ると、遥か昔に巨人が死に、その遺骨が山となったような気分にさせられた。

 ホッパーの脚は、でこぼこの岩山も難なく登ることができる。おかげでミミたちは疲れ知らずだ。金貨四枚の価値があったのかは知らないが、ヴォールクに感謝せねばならないとミミは思った。

 獣臭が段々ときつくなる。


 岩と低木が生えている以外は白骨のように白い表面が広がっている山には、何が出現してもおかしくない雰囲気が漂っていた。

 ロロがミミの後ろでおどおどしながら周りを見ていると、上空から降下してくるものがあった。

 スケアクロウ。骸骨のような外部骨格を持った大型のカラス。ハトゥール島で恐れられる凶鳥だ。活きのいい獲物を見つけ、「きしゃっ」と鳴いて三羽がかりで襲ってきた。


「出たっ!」

 ロロが叫ぶ。だがミミはホッパーを止め、マジックシューターを構える。

「敢えて避けて通らぬぞ、ロロ。我々の力を試すときだ」

 ミミの手には炎のスキルクリスタル。がちゃりと、ミミはマジックシューターにそれを装填した。

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