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第三話 見せつけるなかれ財布のカネ!

 子どもであるミミとロロを、荒くれたちはしげしげと見やり、どっと大笑いする。

「お嬢ちゃんたち、ミルクでも頼みに来たのかい?」

「ここは保育園じゃねぇんだぜ?」

 荒くれたちはエルフの血が入っていない獣人が多かった。ミミやロロのようなハーフよりも体毛が濃い。鎧を着けた者、鍛えた身体の者が多いが、ミミは父に比べたら見劣りするとしか思わなかった。


 しかしながら、ここにいるとミミはいい気分がしない。建物の中はむっとする汗とカビのにおいが立ち込めていたし、酒や粗雑な料理が並べられたテーブルは掃除が行き届いておらず不衛生極まりない。

 冒険者ギルドとはそういうものだとミミは知っていた。知ってはいたが、実際に来てみると鼻をつまみたくなる。エルフ型の人間もいるにはいたが、数は獣人のそれより少なかった。

 差別問題は以前より改善されていても、王族やそれに近しい血筋以外の獣人は中央の仕事には就けない。獣人は所得も低い傾向にあり、危険な冒険に出る者が多いのだと聞いている。


 ミミはテーブルに巾着袋をばんと置く。

 中で金貨がじゃらじゃらと音を立て、笑っていたあらくれたちは息を呑んでその袋を見つめた。

「このギルドは武器屋も兼ねていると聞く。予の持っている金貨で買える、一番強いスキルクリスタルを寄越すのだ!」

 ひゅう、と誰かが口笛を吹いた。

「お嬢ちゃん、金持ちなんだな」

「……その顔どこかで見覚えがあるぜ。顔の毛が薄い。ハーフか? 確か新しい王女様は、猫獣人のハーフだって聞いたぜ……」

 男たちの目が危険な色を帯びる。金目のものを見つけた、というにんまりした顔が数人に浮かんだ。

 

 むっ、とミミは身構える。

 ロロは目眩がしているようで、涙目で「あわわわわ」と頼りない声を出してしまう。二人とも、こうした事態は想定していなかった。

 ここは中央のような行き届いた治安の範囲外。王城で安全に過ごしていた子どもたちには理解の及ばぬ場所なのだった。

 固まっていたチンピラグループの一団が二人ににじり寄ろうとしたとき、入口の近くから大声がする。


「おい、俺に勝手で何やってんだ!」

 ミミとロロ、荒くれたちが一斉にそちらを見る。

 銀色の毛並みをした、狼の獣人だった。格闘家らしい肩当てをし、腰には短刀を携えている。

 

「俺から離れるなと言っただろう。冒険者デビューしたいからって、先にギルドに来るんじゃない! 取って食われちまうぞ」

「何だ貴様は。予は貴様など知らぬぞ」

「いいからこっちに来い!」

 狼獣人はミミとロロをギルドの外縁部に連れていく。ミミは状況がわからず戸惑っていたが、ロロはそんなミミを見て小さく頷く。大人しく彼に従うべきだ、と言っているらしい。

「ヴォールクの連れかよ……」

「ありゃあ手出しできねぇわ」

 チンピラ集団の中からそんな声が聞こえる。

 狼獣人は相当の実力者なのだな、とミミは悟った。


   ・


「……助けてくれたんですよね。ありがとうございます」

「なぬっ、ロロ。そうなのか?」

 休憩所として置かれたテラス席で、ロロは狼獣人に頭を下げる。自分のポーチからナイフを出そうとしたミミは、それを見て驚いていた。

「犬耳のぼっちゃんは少しは賢いようだな。あのままだったらお前ら、身ぐるみ剥がされて人買いに売り飛ばされてたぜ。嘘も方便だよ」

 ふぅむ、と狼獣人は顎髭を撫でる。

「お前ら、名前は?」

「ミミ・ハトゥールぞ」

「ロロ・アーバインです」

「どうやら本物の王女様みたいだな。なんの事情があるのか知らないが……無用心にも程がある」

 狼獣人は葉巻に火をつけ、煙をくゆらせて、舌で巻き込むように吸って吐く。


「俺はヴォールク・ウルフルズ。子猫ちゃんたち、駆け出しの冒険者になるつもりらしいが、この世界で生きていきたいなら迂闊に金をちらつかせないことだな」

 それに、とヴォールクは付け加える。

「変装するとか少しは考えなかったのか? もし仮にお前さんが死んだら、国中とんでもないことになるぞ」

「うぬ……」

 ミミは言葉に詰まる。が、勇気を出して言い返した。

「それでも予は強い武器が欲しいのだ。助けたい人がおる。冒険者たちは魔物とも戦えると聞く。金が必要なら出そう。努力が必要ならしよう。ここに来れば力が手に入ると思ったのだ」

「ほう……」

 ヴォールクはミミの目に強い意志を見た、らしい。ミミが半ば睨みつけるように自分を見ているのを、むしろ喜ばしそうにしていた。


「俺は冒険者だが、ギルドマスターを兼任している。一度門をまたいだならうちの客だ。ごろつきに手出しはさせない。だが子猫ちゃんも少しは世間を知るべきだな」

 ぐっ、とミミは再び押し黙った。

 きっと城の中は大騒ぎになっているだろう。しかし大臣たちが素直にミミたちを外に出してくれたとは思わない。とにかく飛び出す以外、彼女たちにできることはなかった。


「予が王女なのを信じてくれたが……おぬしは予を疑ったりしないのか?」

「あんたの目は嘘つきの目をしてない。ギルドに来るやつは大なり小なり問題や隠し事をしてる。むしろ、正直すぎる子どもは初めてだ。それに、俺の審美眼は伊達じゃない。あんたらはいい冒険者になりそうなオーラをしてる。特に犬耳のぼっちゃん」

「は、はいぃ!」

 ロロは急に話を振られて、びくっとする。

「あんたもハーフの獣人みたいだが、見込みがある。王女様の友達ってところか? 気が向いたら俺のところに来い。鍛えてやる」

「か、考えておきます!」

 ぺこりぺこりとお辞儀を繰り返すロロを、ヴォールクは微笑ましそうに見た。

「臆病者は蛮勇より百倍役に立つぜ。力がすぐにでも欲しいみたいだな。なら、とっておきのクエストがある。ちょうど掲示板に張り出すところだったんだ。上級武器の素材を探すんだぜ」

「それはどんな素材なのだ?」

 ミミが訊くと、ヴォールクはにやりと笑った。


「ロータスドラゴンの心臓だよ」

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