エピローグ 王様の耳は猫のミミ!
ミミがアディルネッガーを連れて帰国したとき、大臣たちがざわめいた。
「先代国王……!」
アディルネッガーは彼らに高らかに宣言する。
「私は国王の座に戻るつもりはない。摂政として、現国王であるミミの補佐に回る!」
ミミはふんと鼻を鳴らし、胸を張った。
大臣たちの傀儡政権はここに終幕したのだった。
「あなた……あなた!」
ミミの母、獣人の王妃がアディルネッガーに駆け寄る。夫を失ったことと娘の家出が重なったことで、彼女はげっそりと痩せていたが、アディルネッガーの太い腕が彼女を包み込んだ。
「心配かけたな。これで一家、再び勢ぞろいだ」
アディルネッガーはミミも抱え上げ、三人の笑顔が暖炉のような暖かさを放つ。
ロロはうれし涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らしていた。
「よかった……よかったですねぇ……」
彼にはそれ以外発する言葉がない。
大団円という言葉が、その場にはふさわしかった。
・
数か月後、海の向こうのナナから電報が届いた。
カニーンヒェンでは国民に装着されていた機械は全て外され、獣人の国家公務員の採用を始めたようだ。混乱を極める国内だが、利発なナナの手際により回復の兆しを見せているようだ。
オズワルドはあの事件の直後から病床に伏せり、ミミが政治を司る傍らたまに会いに行っているという。
彼は道を間違った。だが。
『誰か一人でも、あの人に優しくしたっていいでしょう?』
そうナナは文末に綴っていた。その気持ちをミミは尊重しようと思った。
休暇ができたら、彼女にまた会いたい。
ミミは父に厳しく指導を受けながら、政治について勉強し、実践していった。ミミのやることはたどたどしいが、厳格かつしっかりと教えてくれる父の傍で学ぶことで、徐々にその能力を伸ばしていった。
ある日ミミは王宮のベランダでそよ風に吹かれ、ミミはロロに髪を梳いてもらっていた。頭髪を流していく櫛が気持ちいい。
「なぁ、ロロ」
「何です、ミミさま?」
ロロは優しく返事する。ミミは遠い目をして言った。
「これから、どうなるだろうな……」
ミミの言葉は主語を欠いている。だが、ロロは彼女の意図がわかったようだ。
「うまく行きますよ、何事も……」
「そうであるといいな」
そうなるべく皆が努力するべきなのだ、とミミは思った。
目の前に広がる大海原。それはミミが挑むべき世界。
ロロの更に背後で、スーツを着たギザードとアシナスがミミを見つめている。彼女たちは正式に、国王直属の兵士として雇われたのだ。
吹き抜ける風がミミのピンクの耳を撫でた。
・
ミミは市政に携わる一巻として、アイドル活動を続けることにした。獣人を取り入れ、王族は変わろうとしている。国民との接点を作るには、それが有効な方法の一つだったからだ。
薄暗い観客席にはペンライトを持った民衆。彼らはミミが出てくるのを今か今かと待ち望んでいる。
ミミはステージに立つ。フリフリの衣装を着た彼女の姿がライトアップされ、マイクを持つ彼女は聴衆に問いかけた。
「おぬしら、元気かー?」
「元気ー!」
大勢の声のシャワー。ミミは高揚する気分を隠せない。
「合言葉! 王様の耳はー?」
「猫のミミー!」
観客が沸き上がり、ミミは歌った。
その歌声は誰も彼をも勇気づける、若さに満ちたものだった。




