第二十二話 対峙する王とオウ!
魔法陣に入ったホッパーの全身が、黄金のオーラに包まれる。それは乗っているミミたちも同様だ。
領域内で魔法が使われたのを察知し、宮殿の前にある庭園にサイレンが響き渡った。巡回していたロボットたちがクローアームを振りかざして、タイヤになった下半身を唸らせて向かってくる。目玉となっている赤いランプが殺人鬼のように明滅した。
「うわっ、うわああああああっ!」
ロロが剣をかざすと、刀身が伸びた。それはまるで光の刃だった。
光の大剣を無我夢中で振り回す。しかし彼の動体視力は、訓練されただけあって目標を外さない。ロボットたちの群れが両断され、がらくたとなって地面に落ちた。
ロータスステッキの威力はすさまじい。魔導の力とは、それほどのものだ。もしオズワルドの野望が魔導によって成し遂げられるとしたら。全世界があの無機質な街のようになったら。ミミはぞっとする。それだけは避けねばならない。
ミミたちはロボットたちを蹴散らし、宮殿の庭園を爆走する。
しかし宮殿の入り口から、わらわらと雲霞の大群のようにロボットたちが押し寄せてきた。
「こいつらを足止めするぞ!」
ミミはホッパーのハンドルを唸らせる。
父たちが本懐を遂げてくれる。そう信じていた。あの最強の父が、悪しき国王に負けるはずがない。
王対王。その土台を支えるのがミミの役目だった。
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ミミたちが突入したとき、あたりの空気が変わった。
「宮殿がざわつき始めた。始めよう」
アディルネッガーは告げる。アディルネッガー、ギザード、アシナスは戦車に乗り込んでおり、運転席のギザードがエンジンをかけた。
宮殿の裏は沼地になっている。樹木に似せた迷彩を纏い汚泥をかき分け、鉄ガニ戦車は進撃した。
鉄の足ががしゃがしゃと動き、宮殿裏の断崖絶壁を目指す。
「アシナス、ジャミングは任せた」
「はいよー」
鉄ガニ戦車のキャノピーを開いて、アシナスは自分のマジックシューターを空にかざした。
彼女のマジックシューターは、アンテナのような形状をしている。そこから目に見えない何かが発せられ、沼地を巡回していたロボットたちが動きを止める。
アシナスは魔導機器の調子を狂わせることができる。彼女の体質が奇跡的にそうした能力を得て、マジックシューターにセットされた電気系のクリスタルから力を引き出して、電波を放出することができた。
しかし効果範囲は狭く、港を襲撃した時もセキュリティを麻痺させるのが精々だった。宮殿全域をジャックするには至らず、ミミたちの出現は誤算だったが、結果として時間稼ぎには効果的だったと言える。
ロータスドラゴンと相対したときの、アディルネッガーに対するあの懐疑の視線は今でも覚えている。しかしアディルネッガーが対話を望むと、彼は警戒心を解いた。
山地の開発に関する話をつけに行ったのだが、彼としてはそんなことに関心はなかったようだ。その代わり暇つぶしに付き合わされた。だが、彼の話は含蓄に富み、聞く者を飽きさせない。
ミミも彼と出会っただろうか。であれば、きっと彼と話が合ったに違いない。
あのロータスドラゴンの鱗を持つくらいなのだ。それでこそ我が娘だ、とアディルネッガーは誇りに思った。
「しかし、いいんですか? 我々だけで事を済ませるはずだったのに、幼い娘さんまで巻き込んで」
「あいつらが暴れれば、内部の警備が手薄になる。使えるものは何でも使う。それに、あいつは十四歳だ。半分は子どもだが、半分は大人だ。子ども扱いなどできない」
そうですか、とアシナスはそっけなく言う。
大人の会話には余計な温情は必要ない。しかし信頼があるといい。アディルネッガーが彼女らと知り合ったのは偶然だが、良い仲間と巡り合えたと思った。
「主砲、宮殿に向け発射!」
「ラジャー!」
ギザードがアディルネッガーに呼応し、ハンドルの先にあるボタンを押す。
鉄ガニ戦車は発射体勢に移り、足を湖底に固定して、その砲塔を宮殿に向けた。
どぉん、と大気を揺るがす轟音。
鉄ガニ戦車は反動にひっくり返ることはなかったが、全身から蒸気を噴き出した。
発射された砲弾は魔導エンジンで作られた光弾だ。稲妻を身にまとう光弾は、宮殿の外壁を破壊した。
爆発が起こって宮殿の真下にある断崖絶壁が崩落し、上りやすい形状になる。
鉄ガニ戦車は即座に歩行モードに変形し、なだらかな坂を上っていった。
鉄ガニが砕かれた宮殿の外壁にたどり着き、アディルネッガーたちはハッチから外に出て、空いた穴から宮殿内部に侵入した。
サイレンがけたたましく鳴る中、アディルネッガーは宮殿の最深部を目指し、ギザードとアシナスもそれに続く。アディルネッガーの、一兵士だった頃の血が騒いだ。
アシナスのジャミングをかいくぐったロボットたちが反応し、襲い来るも戦闘のプロである彼らには敵わなかった。
アディルネッガーは「しゅっ」と息をつき、その瞬間に相手に飛び蹴りを入れる。腕にあるマジックシューターを使うまでもない。
その威力や凄まじく、鉄製のロボットもひしゃげ、機能停止するほどだった。
ギザードのマジックシューターから火炎が、アシナスのマジックシューターから電撃が発せられ、ロボットたちは瞬く間に鉄くずになる。
アディルネッガーたちは奥へと急いだ。宮殿の構造はアディルネッガー自身が知っている。他人に心を開かないオズワルドなら、一番奥にいるはずだ。
規則的な動きしかしないロボットは、言い換えれば行動が読みやすい。一行は宮殿内の警備ロボットを倒しつつ、最深部へ向かう。
そして、分厚い鉄の扉をギザードのナパームで壊した先に、蒸気コンピュータに囲まれたオズワルドはいた。
「オズワルド……!」
アディルネッガーの視線は、敵意ではなく、かつての友に向ける複雑な感情を湛えている。
マジックシューターを向けるアディルネッガーに、オズワルドは老いた顔でにやりと笑った。
「出番だよ、ナナ」
配線で繋がれた、オズワルドの娘がぴくっと反応した。




