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第二十話 押し寄せる怒涛のナミ!

 ミミが目覚めた時、みすぼらしい小部屋に安置されている自分に気が付いた。

「目、覚めましたか。ミミさま」

 ロロが傍らで覗き込んでいる。ミミはむくりと上体を起こし、問うた。殴られた腹部の痛みは残っていない。

「ここはどこだ?」

「それが、説明することがいささか多くてですね……」

「私を見るのが一番早いだろう」

 話に割って入って小部屋に入ってきた大柄な人物。その声はミミのよく知っている声で、彼の姿を見たミミは目を丸くした。


「父上……」

 先代国王、アディルネッガーその人だった。彼は黒い革ジャンの下に迷彩服を着こんで、筋骨隆々の肉体は王というよりワンマンアーミーと言った風貌だった。兵士であった頃の彼の姿を彷彿とさせる。


「父上! いったい今までどこに行っていたのだ!」

「……お前にはあまり知られたくなかった。できれば、お前がもっと大きくなるまで、こんな世界に飛び込んできてもらいたくはなかった。が、ここまで来た、その行動力は認めよう。そして、私のもとまで来たからには、お前にも甘いことは言えない。できるだけ手短に話そう」

 アディルネッガーは一息ついて、続けた。


「飛行船の事故で私は死んだと思われている。が、海面に落ち折れた竜骨をいかだにして運よく生き延びた私は、国に帰るより私自身が『あの男』と話をつけるべきだと思った」

「『あの男』とは?」

「カニーンヒェンを治める獣人の王、オズワルドだ。奴と私は戦友だったが、奴は少々……いや、かなり特殊な考えを持っている。今回私が自らカニーンヒェンに赴いたのは、あらぬ方向に突っ走っている奴と話すべきだと思ったからだ。だが奴は、工作員を送り込んで私の飛行船を爆破した。とにかく、奴は偏った思想を持っていて、正常じゃない。だが、国を巻き込んだ大騒動にすれば、魔導文明を発掘し無人かつ強力な兵力を持つカニーンヒェンには苦戦を強いられるだろう。そうすれば死者も膨大になる。だから私は、隣国に渡ってゲリラ活動をすることにした」


 アディルネッガーがそこまで話すと、続いて二人の女性が入ってくる。

 一人は港を燃やした鶏の獣人、もう一人は背の高い、デニムを履いた、長い茶髪とロバの耳をした獣人だった。

「紹介しよう。私の仲間たちだ。彼女らは傭兵。現地で雇った。思想などなく、金のためなら何でもする連中だ」

「俺はギザード。名乗るのは二回目だな」

「あたしはアシナス・ドートレス。ロバの女だ」

 んー? とアシナスはミミに鼻を近づける。長身の彼女に覗き込まれ、ミミはびくっとした。

「あんたら、ボスの娘さんとそのお友達だね? あたしらと合わせれば、ブレーメンの音楽隊結成じゃないか」

「何だ、そのブレーメンとやらは」

 ギザードが訊く。アシナスは飄々と答えた。

「バベルの塔崩壊以前にあった昔話さ。それに出てくる動物たちが、あたしらの外見と一致するってわけ」

「くだらねぇ話は時間の無駄だ。行くぞ」

 ギザードはぷいと出ていく。アシナスは苦笑した。

「あいつ、ピリピリしてる性格なんだよ。でも根はいい奴だからさ、嫌いにならんでくれよ。友達のあたしが言うんだからさ」

 アシナスはミミたちにそう言うと、自分も外に出ていく。


「今からオズワルドの宮殿に殴り込みをかける。港の騒ぎに兵力が割かれ、あちらは手薄になっているだろう。今が好機だ」

 アディルネッガーは言った。ごくりとミミたちは息を呑んでそれを聞く。

「そして、お前たちも協力してもらう。来い」


 小屋の外は深い森だった。プレハブ板を重ねた簡素な小屋は木々に隠れ、確かに敵に見つけられづらいものだった。

 アディルネッガーは少し歩いた先にある、シートで覆われた大きなものに向かう。ミミたちもそれに続いた。

 鉄ガニ戦車。蒸気駆動で動き、魔導ビーム砲を備えた、カニーンヒェンの主力兵器。水陸両用で、力強い脚はどんな悪路も乗り越える。

 ミミは立て続けに出てくる物事に、思考が追いつかない。


「これは……」

「先日、兵器工場から鹵獲したものだ。この戦車を使って、私たちは宮殿を攻撃する。お前たちはその前に、宮殿の正面で暴れてもらい、陽動を任せる。ミミ……お前の持っている武器は、ロータスドラゴンの鱗から作ったものだろう?」

「なぜそれを……」

「あいつと私は旧知の仲だ。武器が発しているオーラから、あいつの匂いがした」

 そうだったのか、とミミは思う。アディルネッガーは次にロロに顔を向けた。


「ロロ、剣を持っているが……鍛錬は続けているだろうな?」

「はっ、はい!」

 厳格な声で問いかけられ、ロロは背筋をぴんと伸ばして答える。

「ミミさまの魔法と連携して、強くなりました! ……と、思います」

 自信なさげな語尾のロロに、アディルネッガーはあくまで固い顔で言う。

「君は私の娘の片腕となるべき男だ。王家の執事であるなら、生半可な覚悟は許さない」

「はっ、はい! 常々肝に銘じております!」

 ロロは怖い気持ちを押さえて、精一杯返事した。

「よろしい。お前たちの乗ってきたスチームホッパーは、アシナスが小屋の脇に運んできた。あれを使って、好きなように宮殿の前で暴れろ。地図はホッパーにインストールしてある。それに従って向かえ」

 ミミはごくっと喉を鳴らした。

 思った以上に複雑な事態になっている。だが、ここで引くことは許されない。

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