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第十八話 港に着いたら猛きカザン!

 カニーンヒェンの領海を示すブイを通り過ぎて、ミミたちは港へと向かった。貨物船の類が汽笛を鳴らしながら、ミミたちの脇を通り過ぎる。その黒い船体に、ミミはクジラに追い越されているような気分になった。カニーンヒェンはそれなりに大きな国で、輸出入の規模はハトゥールより大きいそうだ。

 カニーンヒェンの港は、魔導機械が自動で荷物を運ぶシステムになっており、アームを備えたロボットたちがコンテナを持って規則的な動きで働いていた。ハトゥールではまず見られない光景だ。

 人間の労働力に頼らない、魔導で整備された国。それがカニーンヒェンだ。発掘した技術でここまでやっていたのかとミミは舌を巻くばかり。バベルの塔が崩壊する前は、こんな世界が広がっていたのだろうか?

 港と海の境目にある入港ゲートは管制塔のように信号を繰り返し、陸地に向かって発信し続けている。きっとあの中にも人間はいないだろう。そうした無機質な印象がある。


「パスポートはございますか?」

 入港ゲートに入っていく船に混じって、ミミたちのスチームフィッシュたちも続く。ミミたちの順番が回ってくると、入港管理を任されているロボットが無機質な声で問いかけてきた。浮き輪でぷかぷかと浮かぶロボットは、ミミたちの目線に合わせて送られてきたらしい。どこか愛らしさを感じさせる風貌だ。

「ロロ、パスポートとは何だ?」

「外国に行くために必要な手形です。僕達は家出同然に出てきましたし、持ってません」

「予たちは父上を探しに来たのだ。用が済んだらさっさと帰る」

 ミミがロロからロボットに

「パスポートがない方は入港を許可しません」

「ええい、面倒くさいな」

 ミミは頭を掻いた。

「今から作らせる。そのパスポートとやらはどこで……」


 その時。

 港の貨物置場の奥で、どぉんと爆発が起こった。

 けたたましいサイレンが周囲に鳴り響き、働いていたロボットたちが一斉にそちらに急行する。

「何だ……?」

 ミミは怪訝に思った。それは青天の霹靂で、爆発音が聞こえてから事態を把握するのに少し時間を要した。

 次いで火の玉が、港の方から鳳仙花のように吹き出す。まるで火山が出現したかのようだ。火の玉のいくつかがこちらに飛んでくる。

「まずい、逃げるぞ、ロロ!」

 ミミはアクセルをふかし、その場を離脱する。

 浮き輪ロボットの頭上に火の玉が命中し、ぐしゃりとへしゃげた。鉄くずとなったロボットは沈没し、じゅうと海面に煙を立てる。

 スチームフィッシュは降ってくる火炎弾をジグザグに回避しつつ、全速力で港へ向かった。後部座席のロロは目を回しながらも、ミミの腰から手を離すまいと力を入れる。

 何が起こっているのか。これが父の言っていた『火の手』だろうか?

 全てを知らねばならないと、ミミの胸に確かな予感があった。


   ・


 港の中央で、火砕流が巻き起こっていた。

 溶岩に沈むコンテナ群。海外からの資源を断つ。徹底した設備の破壊に、そうした意志が見て取れた。

 煮えたぎるマグマの中央に彼女はいた。燃えるような鶏冠を持った、鶏の獣人。しかしその顔はエルフのように純血種に近い。ラフなシャツとホットパンツを身に着け、白い髪を短く刈った彼女は鋭い目つきを隠そうともせず、見るからに危険な香りを漂わせていた。


 そんな彼女の腕にあるのはマジックシューター。しかしピーキーな調整が加えられており、大型化したガントレットはまるでナパーム砲が腕から生えているようだ。

 マグマの中に、吹き飛ばされたロボットたちが半分溶けて横たわっている。警備システムではあるが、魔導の達人である彼女には的にしかならない。

 彼女は次の目標を入港ゲートに絞った。カニーンヒェンの外国との連絡口を断ち切る。それが今回の作戦の目標だ。

 まだ治安維持部隊は来ていない。奴らが来る前に任務を終わらせる必要があった。


「やめるのだ!」

 マグマに満ちた港。その中で火の海に飲まれていない部分を踏んで、ざんっと彼女の前に立ちはだかる者がいる。

 それはミミだった。ロロは剣を抜いているものの、人間相手に向けるのを躊躇っているように引け腰だった。

 ミミの姿を見た彼女は意外な顔をする。

「お前は……」

 自分に立ちはだかる少女はかつて、彼女のボスが見せた娘の写真に瓜二つだった。

「お前たちが何の目的で、こんなことをしているのか知らぬ! だが、悪しき目的であるならやめてもらおう!」

 そのはっきりとした声は、ボスのものにそっくりだ。

 『きっとあいつは、面倒なタイミングでお前たちの前に現れる』そのボスの言葉は本当だったのだ。

 ふっと彼女は笑う。


「俺はギザード・レックス。お前と戦う気はない」

 彼女は名乗った。ギザード。それは彼女自身の誇りある名前。

 それを聞いたミミは戸惑う。

「どういうことだ!」

「黙って俺に従え。世間知らずの王女サマがよ」

「おぬしは何者……」

 ひゅっ、と風を切る音。

 次の瞬間、どすっと鉄拳がミミの腹部に命中する。傍らのロロは息を呑んで見るばかりだった。

 ぐふっ、と息を全部吐き出して気絶したミミを抱え上げ、ギザードは携帯端末をポケットから取り出し、通話する。


「アシナス。作戦は中止だ。当面の目標はクリアしたが、やべぇもんを拾った。ボスのところに帰るぞ」

 ざざっと砂嵐のような音。アシナスと呼ばれた相手は、ギザードに応答した。

「おい、ガキ」

 ギザードに言われてロロはびくっと身を震わせる。

「悪いことはしねぇ。俺たちについてこい」

 ギザードは溶岩の海に沈むコンテナを飛び越え、どこかに向かった。

 ロロは、彼女の後を追ってコンテナを踏み超えていくしかなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  これまでは冒険小説的にひたすら主人公達の決定で進んできましたが、裏側で進行していたものがうっすらと透けてきてだいぶ話が動きましたね。続きも楽しみに読ませていただきます。
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