第十四話 落ちてきた伝書バト!
ミミたちはスチームホッパーで下山して、街に進路を向ける。途中で翼のようなオーニソプターを広げ、飛び去っていく四人の影が彼女たちを追い越す。あの鎧たちは任務を断念して帰っていったということだ。
彼らが死んでいなかったことに安堵しつつ、ミミはホッパーを移動させていった。
帰りはモンスターに襲われることがなかった。ミミの持っているロータスドラゴンの鱗が、独特のにおいを発しているためかもしれない。誰も山の主に関わりたくないというわけだ。
楽々と荒野を抜け、元来た道を引き返す。ミミが「こっちではなかったか?」と方向音痴を発揮するので一々ロロが「こっちでしたよ!」と訂正するのだった。行きは山が聳え立っていたのでミミでも道がわかったが、街はふもとからは見つけづらい。ロロは奔放にホッパーを駆るミミをハラハラしながら見守っていた。放っておけば彼女は明後日の方角に舵を切るだろう。
がしょん、がしょんとホッパーが跳ね、土から街のゲートを超え石畳に着地する。街の様子はどこかおかしかった。
がやがやと騒ぎ声がする。噴水のある街の中央に人だかりができている。何か事件があったらしい。誰もがひそひそと噂話をし、ぴりぴりとした空気が漂っていた。
「おお、戻ってきたか」
ミミたちを出迎えたのはヴォールクであった。人混みの中からホッパーの足音を聞いて出てきたらしい。彼の言葉には、ミミたちが山から戻ってくるはずだという信頼が感じ取れた。それがミミには嬉しかった。
「一体何があったのだ?」
「それがな……」
ヴォールクは言いづらそうに続ける。ミミに言わないでおくべきか一瞬迷ったらしい。が、意を決してミミに伝えることにしたのだった。
「この街の子どもが鳩をパチンコで撃ち落とした。それが伝書鳩だったらしい。脚に手紙が巻かれていた。それが……」
少し言葉につかえても、ヴォールクはその先を言わざるを得なかった。
「お前の親父、先代国王の密書だった」
ミミは瞠目する。瞳孔が細まり、気分が昂った猫の目をする。
「それは本当か? 嘘の手紙ではないだろうな?」
「わざわざ鳩に、誰が偽の手紙を巻くんだよ……待ってろ。今現物を持って来てやる」
ヴォールクは群衆の中に戻っていき、しばらくしたらまたミミたちのところに来た。
「見ろ。これがその手紙だ」
ミミはヴォールクの差し出したしわくちゃの文書を見て、瞳孔を細めた。
それは紛れもなく父の筆跡だった。そこにはこう書いてあった。
『三日後にカニーンヒェンで火の手が上がる。しかし我が国が動く必要はない。すべてこちらで処理する』
どういうことだろうか、とミミは眉を顰める。
父は何かしようとしているのだろうか。助けを待っているのではなく、海を挟んだ隣国で活動しているのだろうか。であれば、何のために?
ロータスドラゴンが言っていたことを思い出す。隣国の王は魔導文明を自分のものにしたいのだと。
自分が誅殺されそうになれば、父も動かざるを得ないのかもしれない。そしてそれは、ハトゥールの現国王である自分も見て見ぬふりはできないのだ。
ミミはロータスドラゴンの鱗をかざし、ヴォールクに見せた。鱗は陽光を反射してきらりと光った。
「ここにロータスドラゴンの鱗がある。これを使って、武器屋に何か作れと言え。予は急いでカニーンヒェンに行かねばならぬ! そのための武器が欲しいのだ!」
「それは……!」
ミミの持つ鱗に、ヴォールクはただならぬものを感じたらしい。偽物ではない、本物のロータスドラゴンの鱗。それは紛い物では発しえぬ雰囲気を纏っている。どす黒い魔力のオーラだ。
ロロはミミの後ろで、ヴォールクの顔色を窺っている。彼は何があっても、ミミに従うつもりでいる。
ヴォールクはふっと笑った。ミミたちの覚悟。それが彼にはわかった。
「あぁ……。これと、金貨を二枚貰えれば、それなりのものはできるはずだぜ。どんな武器が欲しい?」
「何でもいい! とにかく強いやつをくれ! 予は父上に会わないといけないのだ!」
「まぁ落ち着けって。ちょっと失礼」
ヴォールクがミミたちの近くに寄る。
「このマジックシューターには、装着者のレベル……まぁ、熟練度を測る機能もある。お前たちの今のレベルを見てやろう」
ヴォールクはミミたちの腕にあるマジックシューターのボタンを操作する。ミミのマジックシューターからホログラムが飛び出て、空中に文字を表示した。そこにはレベル10と書かれていた。続いてロロのマジックシューターに表示されたのも、同じ文字だった。
「これだと、お嬢ちゃんたちは駆け出しの冒険者って感じだな……それだと、やっぱり強い武器を持っても扱いきれないと思う。それぐらいはわかってくれるよな?」
「でも、鱗は手に入れたぞ! それに予には時間がないのだ!」
「わかってる、わかってる。できるだけ使いやすい武器を見繕うつもりだ……。犬耳のぼっちゃんは、俺が寄越した短剣を持ってるよな?」
「はっ、はい!」
ロロは短剣の鞘を握りしめる。
「なら、この鱗は身軽に戦えるものとして活用しよう。待ってな。ここの職人は融通が利くからよ」
そう言ってヴォールクはギルドに行った。ミミたちはホッパーを、彼の後ろについていかせた。




