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第十話 壊すべきは魔法のカベ!

 四人の鎧たちはフォーメーションを組み、ロータスドラゴンを包囲する。

 ロータスドラゴンは凄まじい形相で男たちを睨んでいた。目は血走り、牙を剥き出しにしている。ミミは彼の近くにいるだけで殺気を感じ、冷や汗が噴き出した。

 穢れた大人。彼の口ぶりからして、それが大嫌いなことは想像に難くない。大人たちが彼の聖域に踏み込むのは、まさに逆鱗に触れるがごとくだったろう。


 ロータスドラゴンは荷電粒子砲を発射しようと花弁を開き、粒子を集める。が、大砲のようなものを持った一人が上空に弾を放つ。

 弾は空中で弾け、チャフのようなものが撒かれた。それと同時にロータスドラゴンの光が消えていく。

 攻撃が不発に終わり、ロータスドラゴンは口を閉じた。


「お前の特徴は知っている。空気中の水素から荷電粒子を生成し、発射する。だが水素を中和する物質を撒けば、それは阻害される」

 大砲を持った鎧が言う。その対策の完璧さにミミは唖然とした。

 敵は用意周到なプロ集団。討伐対象の生態を熟知し、何が最も効率的かを考えた上で行動に移している。単に強化魔法陣を敷くことしか頭になかったミミは、自分の考えがいかに甘かったかを痛感する。


 ロータスドラゴンはすぐさま格闘体勢に移り、鎧たちを踏み潰そうとした。ずしん、ずしんと怒りを込めて踏みしだく足音が響く。

 しかしマジックシューターを両腕に持った鎧が、ロータスドラゴンの周りの地面に魔法陣を描く。

 魔法陣は輝いて、内側と外側を隔てる大きなドーム状の壁を出現させる。ロータスドラゴンは弾かれ、魔法陣の内部に閉じ込められた。

 魔法陣はちょうど、ミミとロロの間に壁を作った。ミミとロロは隔てられ、叩き出されるように互いに離れる。

 地面にしたたかに打ち付けられたミミはすぐに起き上がり、どうにか気を失わないように耐えながら、何をすればいいかを考えていた。


「そいつは中と外から同じ威力の攻撃をぶつけない限り消えない。エネルギーが対消滅する瞬間に生じる力場でしか、穴は空かないのさ。お前一人じゃ出るのは無理ってこった。はい、生け捕り完了〜」

 けらけらと、魔法陣を敷いた鎧が嗤う。

 ロータスドラゴンは咆哮し、魔法陣に体当りした。空気を揺るがす衝撃が起こる。だが魔法の壁は、損傷した箇所からみるみる回復していった。その速度が早すぎるため、何度も体当たりしようが無駄だった。外側が無事である限り、何度体当たりしても再生する。

 ロータスドラゴンは悔しそうに唸り声を上げ、鎧たちを射殺さんばかりに睨んだ。


「これなら生きたまま空輸もできたんじゃないか?」

 大砲の鎧が魔法陣を敷いた鎧に言う。その言葉にけらけらと返事が返ってきた。

「さすがにそれは俺様を買いかぶりすぎっしょ。この壁は魔法陣を敷いた土地でしか使えないんだ」

「なるほど。なら予定通り、後はゆっくりと始末すればいいわけだな」

 

 抱え上げられた大砲がロータスドラゴンの上空に向けられる。そして再び何かが発射された。空中で砲丸が弾けて、また粉のようなものが空中に散布される。

「酸素と中和する素材だ。密閉された空間に充満すれば生き物は動けなくなる。また、魔法陣の壁をすり抜ける物質でもある」

 粉が透明なドームの屋根を覆い、そこで化学反応が起きた。透明な壁の中に赤黒い霧が浸透し、内部に広がる。

 ミミは早くも息苦しさを覚えた。ミミがあえいでいる中、ロータスドラゴンは既に状況を悟り、無駄な動きはしない。

 このまま粉の成分が満ちれば、ミミたちは一巻の終わりだ。


「俺の剣は出番なしか」

 隊長が巨大な肉切り包丁のような剣を抜き、言う。その剣は血を求めているようにぎらぎらと光った。

「ドラゴンの血の一滴も無駄にしないと考えれば、効率的に進んだでしょう。戦いたかったんです?」

 大砲の鎧が言う。

「ああ。大型のモンスターを生身の人間が相手する機会はもはや限られてるからな。国は隠密でなければ鉄ガニ戦車を持ち出すから、俺みたいな大剣使いは仕事上がったりだ」

「でも、隊長は腕っぷしだけじゃなくて頭もいい。ハンティングが仕事の我々がなんとか食っていけるのは、隊長がしっかり指示してくれるからですよ」

「それは有難いな」

 鎧たちは互いにガハハと笑った。

 何を笑っているのだ、とミミは叫ぼうとしたが、次第に体が動かなくなる。


 ロロがよろよろと立ち上がり、額から血を流しながらも壁を隔てたミミを見ていた。

 魔法陣の内側と外側。ミミとロロは合わせ鏡のようにそこに立っている。エネルギーの対消滅を狙えるのは自分たちしかいない。ロータスドラゴンは強力でも、このままではいずれ衰弱するだろう。

 その前に。

「ミミさま……」

 ロロは心配げな顔で見る。

 阿吽の呼吸とはこういうものだろうか。ミミはロロの考えていることが手に取るようにわかった。

「鎧の連中にドラゴンの心臓を奪われるくらいなら、いっそ誰の手にも渡らないほうがよいのだ」

 ミミは言い切る。


 ミミのマジックシューターの発射口と、ロロのそれが向かい合う。

 こうする以外に、壁を破壊する方法はない。

「いくぞっ!」

 ミミの合図で同時に弾が放たれた。

 炎と氷。相反する属性の、同じ威力の弾がぶつかる。その境界を隔てる魔法の壁は、両面からじりじりと削られていった。

 そして壁に亀裂ができ、びしっと天井まで行き渡る。壁をすりつぶした弾同士が、ばしゅんとぶつかって消えた。

 その箇所に穴ができ、ガラスを壊すように魔法陣の壁は崩壊していった。

 鎧たちが気づいたのも時すでに遅し。ロータスドラゴンは地獄の底から聞こえてくるような唸り声を発した。

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