ある夢
三題噺もどき―にひゃくじゅういち。
ある日。
ある夢を見た。
「……」
目の前に広がるのは、目を疑う程の満天の星空。
こんな空が現実にあればと願う程。美しさと恐ろしさが存在している、夜空。
「……」
星は各々自由に輝き。
目に痛いほどの光を放っている。
それでも目を離したくないと思ってしまう程。
目をつぶしてしまってでも。この目に、この記憶に、焼き付けておきたいと思う程に。
美しい、星空。
「……」
そんな美しい景色が広がる中。
一人ぼうっと立ち尽くしていた。
ここはどこだろうとか、何なのだろうとか。そんなことも考えられずに。
ただぼうっと突っ立っていた。
「……」
ただ、茫然と。
目の前に広がる美しい星空を眺めていた。
「……」
ただそうしているだけなのに。
やけに心が満たされたような。
もう、このまま死んでしまっていいと思って。
しまって。
「……」
そう思った瞬間に。
身体がぐらりと崖から落ちた。
そのまま静かに落下した。
視界に広がる星空を眺めたままに。
ある日。
ある夢をみた。
「……」
巨大な木の根元に立っていた。
それ以外は、真っ青な草原が広がる。
背の低い草が、風も吹いていないのにあちらこちらへと倒れながら揺れていた。
「……」
ただ、その草原が広がるだけで、それ以外はこの大きな木のみ。
見上げてみれば、どこまで続いているのか。てっぺんがまるで見えない。
青々とした。生き生きとした。美しい緑の葉をその枝いっぱいにつけていた。
「……」
しかしやけに視線が低い。
よくよくその姿勢を確認してみれば、木の根元に立っているのではなく。
しゃがみ込んでいた。
「……」
どうやら、何かを掘ろうとしていたらしい。
手には小さなスコップの感触がある。
ならばと考えるよりも早く、手が動いた。
「……」
まるでそこにしか用はないのだとという程に。
根元の一部をザクザクと掘り続ける。
執拗に。入念に。うざったいぐらいに。
ザクザクと。
「……」
そのうち、コツンと何かに当たる。
それを次に手探りで引っ張り出してみると、それは小さな箱だった。
この景色に見覚えはないが、この箱には覚えがあった。
「……」
いつだったか。
幼い頃にどこかに埋めたタイムカプセルだ。
年上の子供たちがやっていたのを羨ましがって。1人で埋めた。
「……」
ためらうことなく、がぱりと、そのタイムカプセルを開ける。
中には、何を入れていたか。
おかしか。手紙か。おもちゃか。
「……」
しかしそこに広がったのは、あの日。あの夢で見た。
「……」
星空だった。
「……」
目を奪われ。
目をつぶしてでも焼き付けたいと思い。
このまま死んでしまいたいと思い。
「……」
足元が急に崩れて。
視界を覆うように、箱を目もとに持ったまま。
ある日。
ある夢を見た。
「……」
そこは、木々がうっそうと生い茂る森の中で。
その中を、なぜか1人で走っていた。
何かから逃げるように。目を背けるように。
後ろめたい気持ちに襲われながら、走っていた。
「……」
しかし途中で息が切れ。膝が笑い。動けなくなる。
膝に手をつき、俯く。
そこでふと、腹のあたりにぶら下がった何かに気づく。
「……」
それは、幼い頃に使っていた気に入りの水筒だった。
大人気キャラクターが大きく描かれた、コップ付きのタイプ。今じゃ使いづらくてこのタイプはあまり見ない。
「……」
それに気づいた瞬間。
喉の渇きに襲われた。
いや、もともと喉は乾いていたのだろう。水筒。つまり水分があると自覚した途端、喉が渇いて仕方ない。
早くそれを飲めと言わんばかりに。
「……」
しかしなぜだか。
それはしてはいけない事の気がして。
今までなら考えるより先に、手が。思考が回っていたから。
こんなことはなかった。
反射的に手が止まったのだ。
「……」
水筒に伸びた手を止め。
ここはどこだろう。何が起きているんだろう。
そう思う。
これが夢であることは分かっている。
けれど。
なぜか。
やけに。
のどが。
かわいて。
「―――」
思考が何かに一瞬襲われて。
手は止まりきれずに水筒に伸びる。
そこからなれた動きで。
コップに水を注ぎ、口に運ぶ。
「―――」
そこからは止めようがなかった。
口を閉じ、かたくなに飲まんとしたときには。
口内には水分が広がり。満たされ。
喉は待ち望んだ水分をこくりと飲み干した。
「―――」
甘い。
何かよくわからないその液体は。
毒薬のようだった。
舌先が痺れ。手が痺れ。足が痺れ。
後ろに倒れる。
「―――」
全身の自由が利かない中。
仰向けに倒れた視界に。
あの星空が広がった。
「―――」
身体が痺れようと。
眼球はぎょろりと動いた。
「―――」
その星を。瞬きを。
1つ1つを。
目に。脳に。焼き付けんと。
「―――」
なすすべもなく、
脱力した視界に広がる美しい星空。
どこか現実離れしすぎていて。恐ろしささえある。
「―――」
各々自由に輝く星々。
赤に黄色に紫に緑。
目に痛いほどの光を落とし、その存在を主張する。
「……」
ぼうっと眺めていた星空に。
やっぱり目がひかれて。魅せられて。
「……」
不思議な幸福感と。
心が満たされて。
しまって。
「……」
あぁ、この幸せな気持ちのまま。
死んでしまいたいと思って。
しまって。
「……」
突然地面が揺れて。
罅が入って。
寝転んでしまっていた場所は、ぽかりと穴が開いて。
「……」
そのまま。
地面の割れ目に落ちて行って。
「……」
あぁ、もしかしたら。
きっと。こうして。
最後に。
そう思いながら。
「……」
星空を。
瞳に写したまま。
お題:タイムカプセル・毒薬・星