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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

溺愛する藤井君に僕は気付かない

作者: くまだった

甘々です(当社比)


 中学の時にわずかばかりいた友達も、進学先が違ってしまえば、疎遠になってしまった。

 かといって高校でも新しい友達ができておらず、僕は誰とも喋らずに学校生活を送っていた。

 毎日、友達と話している生徒たちに混じって通学をしながら、僕は空気みたいだなと感じていた。


 いてもいなくても同じ。この中で僕という存在に気づいてる人はいるのだろうか。

 そんなことを考えながら、毎日を過ごしていた。

 寂しいという気持ちは通りすぎて、誰にも気づかれないのに、存在している自分が不思議だと感じていただけだった。

 家でも忙しい両親は夜遅くに帰ってくるため、会話をすることもなく。特に素行に問題があるわけでもない僕を、両親も気にかけることはなかった。

 

 学校で、窓際の席から、変わっていく雲の形を眺めるのが、僕の休み時間の過ごし方だった。

 このクラスは明るい生徒ばかりで、楽しそうにはしゃぐ彼らの声が聞こえてくる。

 だけど、僕にとっては意味のない言葉の羅列だった。


 最初、何が起こったのかわからなかった。

一人の男子生徒が僕の前に立って何か話していた。僕に話しかけているとは思わなかったので、彼の方を僕は見なかった。

 彼の姿は教室の風景の一つだった。

 

 「なあなあ」

 彼がぼくの肩を叩いてきた。僕はびっくりしてして彼の顔をみた。急に僕の世界に彼が入り込んできた。

 教室でも目立っている、明るい髪のカッコいい子だった。グレーのブレザーにエンジのネクタイ、黒のズボンをラフに着こなしている。なぜか彼の制服と僕の制服は同じに見えない。


 特に興味のない僕でも彼が他の生徒たちとは違う、際立って整った容姿に、恵まれた体格、いつも人の真ん中に立っていることは知っていた。

 ぼくは驚きすぎて何も言えなかった。あまりにも長い間、人と話していないため、なんて返せばいいのかわからなかった。

 まだ本当に僕に話しかけているのか、心のどこかで疑っていた。

 「なあなあ、何見てるのいつも」

 何度か同じ質問を繰り返されても、全く口を開くことができなかったため、僕は空を指差した。

 「あの建物?」

 僕は首を振った。

 「あ、あそこ歩いている先生?」

 「あの電柱?」

 「あ、あの犬?」

 何度か的外れなことを聞かれて、僕はあれだとばかりに空を思いっきり指差した。

 「あ、空あ?」

 間抜けな声をだして彼が笑うから、彼がわざと的外れなことばかり言っていたことにやっと気づいた。

 僕は、なんとなく必死になってしまった自分が恥ずかしくなった。

 「わ、赤くなった。なんかかわいいな」

 座り込んだ彼がからかうように僕を見上げて笑う。そのやんちゃな笑顔に僕は何も言えなくて、顔が熱くなってきっと赤くなっていると思った。

 彼が笑っている間、ぼくはきっとずっと赤面していた。


 彼の名前は藤井君。藤井新君。あらたって言うんだって。なんか名前までかっこいいなと思った。

 何度か話した後、あらたとかあっつーとかあだ名で呼んでいいよって言われたけど、クラスの子たちに「あらた」や「あっちんー」など言われているのを知っていたため、僕が彼をそう呼ぶのは違うと思った。恐れ多いというか、おこがましい気持ちだった。それに僕は「藤井」という響きが好きだった。なので僕は「・・・藤井君」と呼んだ。

 彼は首をかしげながら「ま、いいかー」と言った。



 それから上手く話せない僕を気にすることなく、何度も声をかけてくる藤井君とその友達と一緒にいることが多くなった。

 藤井君の友達も僕が、うまく話せなくても、返事が遅くても、笑って「いいよいいよ。照れ屋さんだね」とからかうので、僕は赤面症でもなんでもなかったのに、顔が赤くなるようになっしまった気がする。


 藤井君はいつのまにか、僕を二木と名字で呼ばず、「奏」と名前で呼ぶようになった。何故か藤井君の友達が僕を下の名前で呼ぼうとしたら、断固反対して、みんなは二木ちゃんと呼ぶことで落ち着いた。


 空気だった僕が藤井君のおかげで、クラスで存在しはじめた。僕を僕と認識してくれる人ができるようになった。

 ゆっくりとクラスには馴染んでいったけど、藤井君は僕に急接近してきた。



 学校帰りには、反対方向なのに、帰りは送るからと、藤井君の家に寄ることが普通になった。

 最初はそんなに仲良くないのに、と戸惑いながらも、友達の家に誘われたことに喜ぶ僕がいた。

 藤井君の部屋はテレビはないけど、パソコンがある。画面で動画をみたり、ゲームをしたりした。どれも初めての体験で楽しくてしかたがなかった。藤井君のスマホでいっぱい写真を撮って加工したのをみたりして、笑っていた。


 好きなものは何かと聞かれて、すぐに出てこなかったけど、ちょうど猫の写真のカレンダーがあって、それを指差した。

 「猫がすきなんだ。犬は? 動物全部好き? ぼいな。似合ってるってことだよ」

 こんな風に会話は、藤井君が主に話して僕が頷いたり、ジェスチャーか、短い単語で答えると、また藤井君が話す形が多かった。

 藤井君は僕の表情から推察して、僕の気持ちがよくわかるみたいだ。

 「すごいね」と伝えたら、「奏はだだもれ」と笑われた。そんなにわかりやすいのかな。


 腕を首にかけられて寄せられながら、お気に入りの猫の動画を一緒に見ていた。最初は近すぎないかと思ったけど、A4ノートサイズのPCの画面は小さいから、体を寄せ合わないとよく見えない、と言われたためそうかと思った。

 たまにベッドにもたれて座る藤井君の足の間に、僕が座って藤井君にもたれて見ることもある。藤井君は僕のお腹に手を回して、僕の体をぎゅっとしている。

 最初は子どもみたいで、さすがに拒否をしようとしたけど、「なんで、手の置き場がないし、奏の体に手を回したらちょうどいいし」と言われたらそんなものかと思った。



 そうやって動画を見ていたら、藤井君が僕の頭に顔を突っ込んで匂いを嗅がれた。さすがに驚いて振り返ると、こめかみに藤井君の口があたった。

 え、と思っている間に、こめかみだけでなく、ほほや、額、まぶた、鼻、僕の唇の端にも、藤井君の唇があたった。

 くすぐったくて笑いながら、身を捩る。

 「藤井君」

 「嫌?」

 ふざけてるわりには、真剣な目な藤井君。

 「・・・こそばい」

 「こそばい? くすぐったいってこと? それだけ?」

 首をかしげなから頷くと

 「もう一回」

 「藤井君」

 さっきよりもゆっくりと、僕の顔を両手ではさみながら、額、まぶた、頬、鼻と唇を当ててきて、藤井君が顔をかしげたなっと思ったら、僕の口にもそっと唇を当ててきた。

 

 藤井君って言うつもりで口を開けようとしたら、何度も優しく唇に触れてきた。

 藤井君の体からの熱量に当てられて、僕の体も熱くて仕方がなかった。

 首の向きを変えようとしても、藤井くんの大きな両手でしっかりと顔を挟まれていたのでできなかった。

 藤井くん

そのうちいつの間にか、押し倒されて、大きな藤井君の体が僕の上にあった。 

 奏、そう、と優しく囁やかれ、僕はそのままキスをされ続けた。

 犬や猫のじゃれあいのように思っていたけれども、やっと僕はこれがキスだと気づいたんだ。


 「いい?」

 嫌かと言われたら、もうやめてと言うつもりだったけれども、いいと聞かれたら、藤井君の唇は気持ちいいと思っていたので、小さくうなずいてしまった。

 藤井君は、それはそれは嬉しそうな甘い笑顔で僕を見つめると

 「奏 好きだよ」

と言って僕の唇をペロっとなめてから、口の中を舐め始めた。

 「好きだ」

 えーえーえーと思った僕はちょっと待ってと藤井君の体を押しのけようと思ったけれど、当然できず、ただ藤井くんにしがみつくだけになってしまった。

 

 待って欲しい

 

 切実にそう思ったけれども、なんだかのぼせて熱くなってしまった僕はされるがままだった。

 僕にとっての藤井君は、体が大きくて重くてびくともしないものだった。藤井君は僕の顔の両側に、肘をあてて自分の体重で負荷をかけてないつもりかもしれないけど、重い!

 下半身なんかびくともしない。わざとなの?わざと?


 藤井君!


 酸欠みたいになって、苦しくて重くて、僕の手から力が抜けていく。

 満足したのか、藤井君が舌を抜いて、チュっと僕の唇の上でリップ音をたてる。


 藤井君、そんなとこまでかっこいいんだね。


 僕はそう思いながら、気を失いそうになっていた。


 満足そうな顔から、藤井君が一気に慌てて、「奏?」

 僕の上から上半身を上げてくれた。

 それだけでも圧迫感がマシになる。

 「息して、奏」

 「鼻から、口から、吸って吐いて。深呼吸!」

 慌ててる藤井君の指示にどうしたらいいかわからなくなったけど、なんとか息を吸う。

 咳き込みながら、呼吸を繰り返して、涙目になりながら、藤井君を睨みつける。

 藤井君のせいだ。

 「そうーー!」

 なのに藤井君は感極まったみたいに僕を抱きしめて。

 「好きだ、奏、ごめんな。大事にする、好きだ」

 といいながら、ぎゅっぎゅっと抱きしめてくる。

 藤井君、藤井君、また圧迫してる。ぼくを!


 


 久しぶりに一人での学校帰り、道端の猫に小さな声で話しかけていると、それを見ていたらしい藤井君が怒ってきた。藤井君いつのまにか来たんだろ。

 「どうして、猫には話してんだよ」

 僕は戸惑ってしまって、彼を見つめてしまった。どういう意味なんだろ。


 藤井君は、僕が見つめていると、寒いからかなんとなく耳が赤くなっていた。

「猫に話すぐらいだったら、おれに話せよ」

 ブスッとして、唇を尖らしている。怒っているけど、なんとなく拗ねてるようにも感じた。

 そう言えば、こうやっていつも藤井くんが話しかけてくれるのに、僕は藤井君に話しかけたことがなかった。

 用事なんかも僕が話す前に、藤井君が察してくれるから、何も話す必要もなかったのもある。


 こんな僕に話しかけてくれる藤井君に、僕は失礼なことをしてるような気がしてきた。

「フジイクン」

 なんか不思議なイントネーションになった気がする。発音はこれでよかったのかなあ。最初はあげればよかったのかなあ、後をあげればよかったのかなあ。藤井君も目を開いて僕を見ている。僕は恥ずかしくて仕方がなかった。

 「藤井君」もう一度言ってみた。さっきよりはマシになったような気がする。でも藤井君がまだ固まっている。

 やっぱりおかしかったのかな。何て言えばわからなくなって、立ち上がって藤井君の服を掴んで見上げた。彼は僕よりだいぶ背が高いんだ。

 膝の上に載せていた猫が「ニャア」と言って走り去ってしまった。


 「あ」僕は振り返って猫を見ようとした。背中に衝撃があって、藤井君の冷たい体に抱きしめられた。はがいじめされているのかと思うぐらい、身動きがとれなかった。

 冷たかったのは服だけで、筋肉のついている藤井君の体はぼくより熱いのか、藤井君の体から、あったかさが伝わってくる。近いからか、ドクンドクンと心臓の音まで聞こえてきた気がする。

 やっぱり体を鍛えていると、心臓の鼓動もはっきりしてるんだなと思った。

 あー走り去った猫はすぐに姿が見えなくなってしまった。



 僕が、猫に話していたのは、藤井君が僕をたまにお姫様みたいに扱うのが嫌だってこと。

 後、藤井君が友達と話している時はもっと雑で乱暴で適当な口調なのに、僕には甘やかすような、優しい話しかけなのが、友達って思われていないみたいで嫌だってこと。たまに藤井君が僕にそんな口調で話しかけていると、周囲がニヤニヤしてるような気がする。僕は子ども扱いされているのかも。



 藤井君の部屋に連れられて、あぐらをかいている藤井君の足の上に何故か座らされて、腰には軽く腕を回されている。

 とにかく近い。顔がちゃんと見えるようにって思った僕の気持ちをくんでくれたのもわかるんだけど。

 「おれも悪かった。考えたら奏が話す前におれが話すからだよな」

 藤井君が謝ってきた。本当に優しい。

 確かにそうなんだ。僕は喋れないんじゃなくて、ただ苦手というか、あまりにも人と話してなかったからか、急に何を話せばいいのか、わからなくなっているだけなんだ。

 話す練習をしたら、高校の二次試験の面接も受かったからね。

 なんだか自分の不甲斐なさに、悲しくなってきた。


 「猫にヤキモチ焼いただけ。ほらまずは猫に話したこと言ってみ」

 にこにこと藤井君が笑ってる。猫にヤキモチ? どうしてかわからないけど、こうやって譲歩してくれる藤井君は本当に優しくて僕より大人だ。


 「あのね」

 「おう」と藤井君が笑いながら答える。

 「藤井君のこと話してた。・・相談?」

 「・・何お前、可愛いすぎるんだけど」

 藤井君が僕を抱きしめてくる。

 話すのやっぱりやめようか、と思った僕の間を感じとった藤井君が、僕を抱きしめるのをやめて、真面目な顔で促してくる。

 「それで何、猫ちゃんに話してた?」

 どこか、からかっている雰囲気を感じたけど、僕も、話さなきゃ何も変わらないと思って続ける。

 「あの、昨日僕がこけたとき」

 「体育の時な」

 「運んでくれたでしょ」

 なんて表現すればいいかわからない。

 「膝大丈夫か」

 そうだとばかりに、ぐいぐいを膝を押さえつけて見ようとする。なんともなってないから、少し擦れただけだから。

 バランスを崩しそうになって、藤井君の首を両手で捕まってなんとか倒れないようにする。

 「おっと」なんていいながら楽しそうな藤井君。藤井君優しいんだけど、そういうとこがある。


 藤井君も話が進まないことに気づいて、体勢を直しながら首にしがみついている僕を抱きしめて、僕の口元に耳を寄せてくる。

 こんなに密着しなくても話できるんだけど! 二人きりだから内緒話みたいにしなくてもいいんだけど! 僕の声が小さいから聞こえないの?


 「あの、転けたとき・・抱っこしていったでしょ・・」

 いわゆるお姫様だっこみたいに藤井君にされて、グランドから保健室まで運ばれた件。

 「抱っこ」のところで、何か興奮したのか、ぐいぐい頭を擦り付けてくる藤井君をなんとかやり過ごしながら、最後までいう。

 「あれ、嫌だった」

 頭の動きをとめる藤井君。止まるんだ。

 「え、なんで」

 「なんでって」

 抱っこされて喜ぶ男子がいるのだろうか。  

 「おれ、奏保健室まで運べてすごくなかった?」

 藤井君はすごいけども!

 「なんで、嫌なの」 

 「恥ずかしい」

 「恥ずかしいって可愛いな!」って喜んでいる藤井君。なんでかな。

 「そっか恥ずかしいのかな。でも困ったな。おれ奏が怪我したら運びたいし、助けたいし。なんでもしたい」

 「・・・」

 ありがたい申し出だけど顔が近い。恥ずかしい。

 唇が触れそうなんだけど。

 「あの、僕、転けただけだったし、まだ体育できたのに、・・・あれから授業受けれなかった」うん。僕は真面目に授業に参加する皆勤賞だけが取り柄なんだ。

 「うーん」

 なんか悩むとこあるかな。

 「おれは、奏をみんなの前で抱っこできて、その後二人きりで保健室で過ごせて楽しかった」


 実は僕も楽しかった。授業をさぼるなんて初めてで、ドキドキした。外からは生徒たちの声が聞こえてくるのに、保健室の中は静寂で、膝小僧は藤井君が慣れない手つきで消毒してくれた。保健室の先生はいなくて、いつもなら不安になるのに、藤井君がいてくれるから不安にならなかった。

 でも、「みんなの前でされて恥ずかしかった」と伝えたる。

 「恥ずかしかったんだ・・」

 仕方がないやつみたいな顔で僕を見ないでほしい。

 恥ずかしくない? 恥ずかしい僕が恥ずかしいやつなの?

 「なんで恥ずかしかったの?」

 「だから、みんなの前で、抱っこされて恥ずかしかったの!」

 なぜかぎゅぎゅっと抱きしめてくる。なんなの無限ループなの?

 満足したのか、藤井君が「わかった気をつける」って言ってくれた。


 「他は?」

 まだ、言っていいのかな。

 「話し方」

 「ん?」

 「だから、話し方、どうして松木君とかと話す時と、僕と話す時の話し方違うの?」

 松木君って僕が言っただけで、藤井君の片眉がぴくっとした。

 仲良さそうだと思ったけど、違うのかな。


 「僕じゃないときは、何? とか、わかった、とか短くない? 返事。後、早くしろとか、邪魔すんなとか」その松木君たちへの雑な感じが仲良さを現しててうらやましい。

 「ん? 何? もっとあいつらにも丁寧に話せってこと?」

 「違うくて、僕も藤井君の友達でしょ。僕だけに話し方違うから、僕も同じように接してほしい。僕のこと子どもみたいに扱ってない?」

 「そんなに違うかな」んーとなぜか少し照れたような藤井君。

 「でも、無理だ」

 え、友達と思ってたのに違うの?

 じゃあどうして、一緒に帰ろうとか勘違いすることするの?

 友達の定義が藤井君と僕では違い過ぎるの?


 僕が呆然としていると、「あのさあ、奏はおれにとって特別なの」

 「だから無理」

 「でも、友達・・」

 「あのさあ、奏は友達にチュウとかするの?」

 「・・しない」

 しないし、僕は藤井君に僕からチュウしたことはない。

 それを伝えたら、藤井君はこわばったような顔で、「嫌かってきいたら、首降らなかっただろ。だからあれも奏の同意のもとに行ったものだから、奏もおれにチュウしたことになる」

 なんだかわからなくなってきた。あの時、嫌かとはきかれなかった。いい?って聞かれて、頷いたのは僕だ。

 「チュウをするのは、特別な関係だ」

 奏は、誰にでもするのか? クラスのやつらにでもするのか?

 そんなわけはないので首を振る。

 「だろ、チュウをするおれたちは特別だ。・・・だけど言ってなかったおれも悪かった。おれたちは特別な関係、恋人だ。付き合っている」


 いつのまにか付き合ってたんだ。僕は付き合うのは、女の子だと思ってたし、告白したりされたりしてから付き合うものだと思ってたから、ショックを受けてしまった。

 確かにどうしてあんなことするんだろうとモヤモヤしてた。だけど友達ができたことに浮かれてしまっていた。


 「好きって・・」

 「好きっていった。何度も」

 「何回も言ったけど。奏は聞いてなかった? 聞こえてなかった?」


 なんだか責められてる。

 聞いた。確かに聞いたけど、なんだかぎゅうぎゅう抱きしめられていたり、酸欠で頭がぼーとしてたときだったし、なんだか猫や犬を見て可愛いー好きーってのりかと思っていたと伝えた。


 藤井君が怒ったように「おれは誰にでもそんなこと言わない」といい切った。

 その後、頭を片手で抑えながらため息をついた。

 「わかった。悪かった。何にも伝わってなかったんだな」と悲しそうに言うので、僕は罪悪感で胸が痛くなった。

 「ぼく・・」

 「奏・・」

 藤井君はなんだか改まって

 「おれは、二木奏君が好きです。入学式で見た時から。クラスが一緒になって嬉しかったし、こうやって話せるようになって嬉しい。今も胸がどきどきしてる。好きだ。付き合ってください」

 至近距離で、見つめながら伝えられる。


 「一緒に帰ろうって言ったのは?」

 「好きだから」

 「部屋で遊ぶのは?」

 「好きだから、そばにいたいから」

 「・・キスは」

 「好きだから、特別だから、そばにいたい。ずっと一緒にいたいから」

 「もし・・」

 「もし、断られたらもう話さない、一緒に帰らない」

 言い切られて、ショックを受ける。

 胸が苦しくて、泣きたくなってくる。半分泣いている。藤井君は優しいけど、たまに強引できっぱりして男らしい。

 きっと僕が付き合わないと言ったら、もう二度と一緒に帰らないし、遊ぶこともない。

 藤井君は無表情でおれを見ている。いつもの甘い優しい微笑みがない。


 「・・抱きしめるのは?」

 「なし」

 藤井君が苦笑している。当然だろう。

 「好きだ。奏。奏は?」

 「僕も、好き。好きだけど、藤井君の好きとは違う気がする」

 喜びかけた藤井君がぐっと堪える。気を取り直したのか甘く聞いてくる。

 「これは嫌?」

 軽く抱きしめてくる藤井君。首を振ると、色々試してくる。

 「これは?」「これは?」頭を撫ぜたり、耳を触ったり。

 僕は首を振り続ける。

 じゃあと、藤井君が首を傾げる。唇が後少しで触れるところで止まる。


 「どうする?」と聞いてくる。

 ずるい、どうしてこれだけそんな聞き方?

 「・・苦しいのは、嫌だ」

 「しないよ」

 「・・・痛いの嫌だ」

 「何が痛いの」

 「べろを、ちゅうちゅうするの」

 「べろ・・ちゅうちゅう・・」

 なんだか藤井君が細かく震えている。

 「・・教えて。どういう風にしたらいいのか、教えて」囁くようにいってくる。


 僕は考えて、藤井君が最初にしてくれたように、藤井君の唇に唇でそっと触れた。

 藤井君の体がびくって震える。だけどそれ以上動かないから、もう一度触れてみた。

 柔らかいんだ。なんか気持ちいい。藤井君の気持ちがわかるような気がしてきた。

 はむはむしてみる。やっぱり柔らかい。藤井君の体が細かく震えてるのに気づいてはっとやめる。僕何をしてたんだろう。恥ずかしくて両腕で顔を隠す。

 藤井君も何でか身を捩って悶えている。二人ではあはあしながら、しばらくして落ち着いてから、「奏はあーいうチュウが、好きなんだな」なんて言うから、思いっきり背中を叩いてしまった。


 「いて、そーう」長い腕で僕を囲いこむ。

 「で、なんで奏はおれにキスしたの」って聞いてくる。

 「藤井君がしろって」

 「教えてっていったんだけど? 奏的には付き合ってる二人がするもんなんだろ」

 「なんでしたの? しろって言われたら。誰にでもするの?」

 僕は首を振る。一生懸命考えてみる。

 「ぼく、ぼく。・・藤井君ならキスしてもいいと思った」

 「好き? 嫌?」

 好きかと言われて頷き、嫌かと言われて首をふった。

 いい子と藤井君に頭をなぜられる。

 「藤井君に話しかけられて、嬉しかった。一緒にいられて楽しい」辿々しくなったけど、一生懸命にいう。

 「藤井君とキスするのも、されるのも、・・嫌じゃない。・・」

 「奏とおれは恋人?」

 僕はゆっくり頷く。

 「僕、付き合うとかわからないけど・・」

 「いいよ。そんなこと関係ない。」

 「奏はおれにとって特別だけど。奏にとっておれは?」

 藤井君の話を頷いて聞いていた僕は藤井君の正解を言うように

 「特別」

 と答えた。

 藤井君は、僕を抱きしめていい子、いい子と頭を撫ぜてくる。子ども扱いされていると思ったけど、これは嫌じゃない。僕、甘えたになったのかな。いいのかな。


 そう藤井君は、僕にとって特別だ。空気みたいだった僕を藤井君が声をかけてくれたことで、存在できるようになった。一緒にいられて嬉しかったんだ。


 「好きだ」

 藤井君は僕のことを好きでたまらないって目で見てくる。

 僕は恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなかったけど、藤井君を見つめ返した。藤井君の目の中の僕はどんな顔をしてるのかな。


 見ているうちに、いつのまにか触れ合うようにキスをしていた。


 僕は体がとろけたようになって、頭もふわふわしてきて、藤井君にもたれてかかった。


 「もっと色んなこと二人でしようね。色んなところに行こうね」

 僕は甘い藤井君の言葉に頷いた。

 

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少しだけ、本文を、削除して、元の文章をムーンライトの同名小説に載せてます。 不器用な二木君が俺は愛しくて仕方がない https://novel18.syosetu.com/n2985hk/ がムーンライトに二木君視点であります。
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