第一章 八話
第一章 八話
「おっ!やっと見つけたぜ‼︎」
「…え?あぁ、ラックルか…」
ケマッコネに言われた通り北に行くと気弱そうな奴が地面に座り込んでいた。カプパだ。弓の手入れをしてんのか?……いや違うな………弓を持ってはいるが、肝心の弓が中央から真っ二つにへし折れている。あれはもう治らねぇだろうな
「その弓…例の魔獣にやられたのか?」
「うん……襲われた時に角が当たってね……身体を守ろうとしたら、こうなっちゃってさ」
角が当たってこれか…当たり方もあるだろうが、この折れ方は相当だな
「身体の方は大丈夫なのか?」
「ちょっとだけ、腕が痺れてるかな?でも折れたりはしてないよ」
「そうか…取り敢えず良かったな。シカリプのおっさんも心配してたぜ?」
「アハハ…心配掛けちゃったね」
カプパはいつも元気があった訳じゃねぇが、今日は特にへこんでんな…
「正直さ…お前が鹿の魔獣に襲われたって聞いた時は馬鹿にしようと思ってたが、流石これを見たら出来ねぇよな…」
「うん…僕もさ、あの魔獣を見るまでは自分が仕留めてやるって、思ってたんだけど…アレは無理だよ。僕じゃ仕留めきれない」
そんなにか…カプパは気弱そうに見えるが頭も良いし度胸もある。村でも弓の腕前は相当なんだが…そのカプパがここまで言うとは思わなかったな…
「毒矢は使ったんだよな?どうだ?効いてそうだったか?」
「どうだろう?刺さりはしたけど元々兎を狩る予定だったから、そんなに強い毒は持って無かったんだよね。少なくとも僕が逃げてる最中に効いてた様子は無かったかな」
兎用じゃ多分効いて無いだろうな。魔獣は毒も効きづらいっておっさんも言ってたし…
「そうか…まぁお前が無事で良かったぜ。おっ!そうだ!俺今度、ケマッコネと飯食うんだけどよ、お前も一緒にどうだ?」
余りにもカプパの元気がねぇから、これで元気が出てくれると良いんだが…
「え?…じ、じゃあ僕も一緒に行きたいな…」
「おう!決まりだな!んじゃあ、折角だし明日あの魔獣を倒した後に祝勝会って感じで行くか!」
後でケマッコネにも伝えとくか!アイツなら喜んで了解するだろ!
「うん、そうだね……って明日!?えっ!明日魔獣狩りに行くの!?」
おっ!早速元気になって来たな!!
「おうっ!明日村の奴ら総出で狩りに行くらしいからお前も準備しとけよ?魔獣が出た場所知ってんのはお前だけなんだからな!」
まぁ場所知らなくても、コイツの実力なら絶対呼ばれるだろうけどな!
「そっそうだね…詳しい場所知ってるのは僕なんだから僕が行かなくちゃね…」
「安心しろって!次はお前だけじゃなくて俺もいるんだぜ?この村で一番強い俺がな!!あとケマッコネとシカリプのおっさんも!あの魔獣がどんだけ強くても俺らなら大丈夫だって!!」
「…うん。そうだね!僕らなら大丈夫だよね!!」
ようやくいつもの調子が出て来たな。まっ!この俺が励ましたんだから当たり前だけどな‼︎
「にしてもよ、お前も運が悪いよな?兎狩りに行ったら森の深い所に行っても無いのにあの魔獣に襲われるなんてな!」
「アハハ…本当だよ…しかも噂じゃ西の森に出たって言ってたのに『北の森』に出たんだよ〜。ほんとにツイてないよ…」
ん?今なんか…違和感があったような…?なんだ?この違和感………そうだ……アレだ…
「…おい。ちょっと待て、あの魔獣は『北の森』に出たのか?」
「うん?そうだよ?『北の森』に今日の朝、兎を狩りに行った時に襲われたんだ」
確か…レターチは、『何処』に行ったんだっけ………………?
いや!分かってるだろ俺‼︎『北の森』だ!!北の森の何処だ⁉︎………思い出せ……!
「あれ?どうしたのラックル?」
アイツは北の森に何をしに行った?……魚だ…魚を釣りに行ったんだ!!んで魚って事は川か‼︎
「かなり、不味い事になった…」
「えっ急に何!?何かあったの!?」
「レターチが北の森にいる」
「……えっ‼︎たっ大変だ‼︎今すぐ村長に知らせないと!!」
今から親父のとこに行って、ある程度数を揃えて…どれだけ時間がかかる?既にレターチが森に入ってからかなり時間が経ってる…
「……………」
「どうしたの!?早く行こうよ!!」
「……お前は親父にこの事を伝えてくれ。俺は今すぐ北の森に向かう」
「僕の話聞いてた!?あの魔獣はすごく危ないんだって‼︎そんな刀一本でどうにかできる相手じゃ無いよ‼︎」
「別に倒そうなんて思ってねぇよ。あー…いや、倒せるなら倒すが、それは置いといて。取り敢えず刀一本でも時間稼ぎくらいは出来んだろ」
「そっ…それは、そうかも知れないけど…!あっ!そうだ僕も一緒に行くよ‼︎」
「馬鹿か、お前が来たら誰が親父呼びに行くんだよ。今は時間がねぇ。恐らくレターチが行ったのは川だ。親父達に伝えてくれ。それじゃあ、行ってくる」
「ッ!……分かった!!伝えてくるよ!伝えた後は僕もそっちに向かうから‼︎‼︎」
「分かってる‼︎死なねえよ‼︎」
最後にそう返事をすると俺は全速力で北の森に向かって走った。どうか間に合ってくれと、ただひたすら考えながら………




