第一章 三話
「んじゃ、気をつけて帰れよ〜」
「うん!!またね!シカリプさん‼︎」
「おう、おっさんもちゃんと仕事しろよな」
そう言っておっさんは俺達を家の近くまで送ると門の方へ戻って行った
「それじゃっ、言われた通り気をつけて帰るか」
「そうだね!」
そう言って俺達はレターチの家に向かって歩き始めた。つーかホントこいつ毎日楽しそうだな。こんな退屈な村でいったい何が楽しいんだか俺にはわかんねぇな
「ラックル兄は明日も森に行くの?」
「んぁ?あー明日は森には行かねーな」
ちょっとばかし油断してて変な声出ちまった
「じゃあ、明日は何するの?」
「明日は武器の手入れだな」
ふふん、十五になればこの村を出ていくんだからそれまでに準備は完璧にしなくちゃならねぇからな
「ふーん……わたしも一瞬にやっても良い?」
「やるのはダメだ。あぶねぇからな。でもまぁ、見てるくらいなら良いけどな」
「やった!じゃあ明日見に行くからね‼︎約束だよ!」
「いや、まぁ良いっていたけど退屈だぜ?」
「いいよ、退屈でも」
相変わらず変な奴だ。きっとこの村が退屈過ぎて頭がおかしくなってしまったんだろう。可哀想に
「まっいいならいいぜ。別に見られて減るもんでもないしな」
「じゃ、決まりね‼︎明日ラックル兄の家に行くからね!!」
そんなやり取りをしているうちにレターチの家に着いた
「おう、わかったから今日はさっさと寝ろよ。武器の手入れは朝早くからやるんだからな」
「わかった‼︎それじゃあ、また明日ね!」
「はいはい、また明日な」
そう言ってレターチが家に入るのを見送ると俺は自分の家に向かって歩き始めた
しかしレターチの奴も本当に変わり者だな。俺みたいな奴に着いて回るなんて、村の連中からは白鳥姫なんて呼ばれてるが、何処がだよ?あのクソガキっぷりは鳥ってか猿だろ。白猿姫だろ。
そんなくだらないことを考えながら歩いているとあっという間に自分の家に着いた
ドアの無い玄関を通ると親父が囲炉裏の前に座り込んで何か考え事をしていたので、無視して自分の寝床に行こうとしたら後ろから親父のうるさい説教が聞こえた
「ただいまも言えないのか!!」
「うぜーよ、話し掛けんじゃねぇ」
「お前と言う奴はどうしてそうなのだ‼︎全く、大人になれば村長の座を継ぐのだから皆の模範となれるようにしろといつも言っているだろ!」
いつもこれだ。口を開けば真面目にしろだの、なんだのって、うぜーよ
「勝手に決めんな、継がねーていつも言ってんだろうが」
「まだ冒険者なんて夢を見ているのか?いい加減大人になって現実を見ろ。冒険者なんてお前じゃ無理だ。どうせすぐに命を落とすに決まってる。そんな危険な仕事に就くより村で安全に暮らせばいいじゃ無いか」
「ハッ…安全?確かに安全だろうな。その代わり死んじまうくらい退屈だがな」
「退屈でもいいじゃ無いか。平和な証拠だ。それにお前が出て行ったらレターチはどうするのだ?」
何でそこでレターチが出てくるんだ?
「許嫁のことか?そんなのお前らが勝手に決めた事だろ。俺には関係無い。レターチも俺がいなくなったら好きな奴と結婚できて喜ぶんじゃないか?」
「お前と言う奴は本当に……はぁ………いつまで経ってもガキだな」
「ハァ⁉︎許嫁の事とガキって関係ねぇじゃねぇかよ‼︎!」
「はぁ………………もうこの話は良い………所で今日は狩りに行くと言っていたが森の奥に入っていないだろうな?」
ヤベェ、このクソ親父妙に鋭いんだよな。取り敢えず誤魔化してみるか?
「……………入ってねえ」
「……………入ったんだな?森の奥に」
速攻でバレた。………開き直るか………
「ハッ‼︎確かに森の奥には行ったが別にどうって事なかったぜ。確かにいつもより魔獣は多かったが、全部小物だったしな。」
実際に魔兎しか居なかったからな
「全部小物だとか、そう言う問題では無い。魔獣が多いことが問題なんだ。外から大型の魔獣が来たから魔獣が活発になっているんだろう。西の森でそれらしき痕跡があったらしい、西の方には入るなよ」
「ふん!それならその大型の魔獣を仕留めれば良い話だろ。大体親父はビビり過ぎなんだよ。その腰の剣は飾りか?」
「…………………この剣は代々この村に受け継がれてきたものだ…そう簡単に使って良いものではない」
何だそれ?剣は使ってこそ意味があるんだろうが、使えねぇなら本当に飾りじゃねぇか
「チッ!もう良い…親父がビビリなことなんて前から知ってたしな‼︎」
「おいっ!!待て!!……はぁ…あの馬鹿息子が…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺は背後からかけられる親父の声を無視しながら寝床に倒れ込んだ
まだイライラしている。昔はあんなに尊敬していた親父が今となっては腰抜け野郎になっている事が何よりもイラつく
「でも、これも後二ヶ月の辛抱だ…」
そう、後二ヶ月だ。二ヶ月後に俺は十五になる。そうなれば村の外に出て冒険者になってあの「御伽話」の様な冒険をするんだ
俺は本棚から一冊の本を取り出した
昔に森の中で見つけた古い本、退屈な村に飽き飽きしていた俺にとってその本は人生を大きく変えたきっかけだった
一人の青年が五人の仲間を集め色々な所を旅して【暗黒の国の魔女】や【首がいくつもある蛇の怪物】、【鋼の鱗を持つ竜】に【迷宮に住まう化け物】さらには【不死身の骸骨】を主人公達が力を合わせて倒していく物語
本の内容は所々欠けているが、読み取れる所をまとめると大体こんな話だ。ただ残念なのが最後の敵、いわゆるラスボスが出て来る所までは良いんだが肝心のラスボスと戦う直前から後が全部、雨水かなんかで読めなくなっちまってんだよな
「まぁ俺が拾うまでずっと外で放置されてたんだろうし仕方ないっちゃ仕方ないか」
「………あ〜!!でもやっぱ気になるよな〜‼︎いったい最後どうなるんだよ〜!!」
あ〜ホント気になる。多分これ外の世界の本だよな?冒険の最中にでも探してみるか
村を出た後の目標がまた一つ増えたところで明日は早く起きないといけないことを思い出した
「もしアイツより遅く起きようもんなら絶対に煽られるな。うん、間違いなく馬鹿にされる」
あのクソガキに煽られるなんて俺のプライドが許さない。そう思い俺は明日に備えてさっさと寝ることにした




