神の子、人の子。
自分が一番辛いと思うあなたへ。
人のために怒れるあなたに。
ある日世界は崩壊した。建物は崩れ人は死に到底今まで人が住んでたとは思えないほど荒廃した世界となっていた。
その荒廃した光景を見ても未だ世界に何が起きたかも思い出せない僕がそこにはいた。
いつからここにいるのだろう。考えようにも殆どの記憶が思い出せない。自分がどのように暮らし、どのように生活していたのかも。
周りを見渡しても瓦礫や死体ばかりで何もない。
「こんにちわ!何してるの?どこ行くの?お名前は?」
突然目の前の少女に質問を大量に投げつけられ困惑する。
めんどくさいからどこかへ行こうそう思い方向を変えて歩き出そうとするとすかさず腕を掴まれた。
「ねぇねぇ!どこいくの?連れて行ってよ」
10を少しすぎたくらいの少女は視力を失い、体もボロボロでアザだらけだった。
「僕はどこに行くかは知らない。連れて行けないよ」
仕方なく僕は口を開く…。本当は喋りたくはなかったのだけれど…。
僕はなぜ話してしまったのだろう。目が見えないことに対する同情なんてものじゃないはず…何か少し罪悪感を覚えたという感覚だけがあった。
「じゃあどーしてここにいるの?何してたの?」
「わからないよ!思い出せないんだよ!」
何故だか僕は怒鳴り散らしてしまった。何かに腹を立ててしまったのだ、消して少女にではない…では何に?
わからない
「大丈夫?どーしたの?」
少女の無垢な質問にとても反論など出来なかった。
「君こそ何をしているの?」
少し冷静さを取り戻してきた僕は質問を質問で返す愚かな行為をした。けれどもそんなことは意にも介さない少女は答えてくれた。
「私はねーっ、人を探してるの!」
笑顔で元気に答えてくれた。少女は笑顔なのにどこか少し悲しそうな。そんな複雑な表情をしていたように見える。
「人?それより…お父さんとお母さんは?」
この質問をした時すごく嫌な…嫌な感じがした。そんな違和感のあるような感覚が頭によぎる。
「お父さんとお母さんは死んじゃった。」
淡々と両親の死を語る少女に目を丸くした。そして僕は何も言えなかった…言い出せなかった。
そして夜になった。
結局ずっと少女は僕についてきたし、質問は止まることはなかった。何歳なの?男?女?学校へは行ったことある?海って見たことある?などと永遠に聞いてきた。
その質問に1つも答えることなく壊れかけたデパートで野宿をするため、拾ったライターで布や紙を燃やして暖をとった。
「お腹すいたねー、何か食べたのー?」
と聞かれ食欲と言うものがないと言うことに気づく。
お腹が空く、腹が減る、など聞いたことはあるがどんな感じなのかわからない。そんな感じだった。
「何か食べ物持ってこよーか?食べる?」
目が見えないくせに足元の瓦礫を探りながらヨタヨタと近くの食品コーナーへと歩いていく。
「ここねー多分ね小さい頃お父さんとお母さんに連れてきてもらった事のあるデパートだと思うんだよねー」
少し離れたところから話しかけてくる。おぼつかない足取りにイラつき僕は少女のところまで歩いていき抱き抱えた。体は軽く重さと言うものをほとんど感じなかった。
「わっ!ビックリしたぁ。」
「…そう」
と僕は短い一言だけ返す。
「あなた泣いてるの?」
少女が自分の顔に触れ、自分が初めて泣いてることに気づいた。食品コーナーに着いたので少女を降ろした。
自分の涙を袖で拭った。その時にふと気づく。僕にも少女と同じようにアザがあることに、どこかにぶつけたのだろうか…否それはきっと少女と同じ理由でできたアザだろう。
少女は食料とは名ばかりなお菓子をかき集め食べていた。
「こんなことになる前じゃお菓子なんて食べれなかったから悪いことばっかりじゃないねー。」
そんな事を言っていた。両親を失い一人で誰かを探していると言っていたこの状態で悪いことばかりじゃないと言える少女に驚かされた。
そういえば彼女は誰を探しているのだろうか両親は亡くなっているのだから…親戚?
「ふぅーお腹いっぱい」
辺りには大量のお菓子の袋が転がっていた。
僕はため息をつきながらデパートの2階にある寝具コーナーのベットで横になった。
ほんの少しだが落ち着ける。やはりベットは偉大だ。
「ねぇねぇここで寝るの?」
仕方がないから彼女も2階に連れてきたが図々しくもベットの中にまで入ってきたのだった。
「久しぶりに人と寝るよー…」
と言いながら彼女は眠りについた。
「…」
僕は考えるのもめんどくさいのでそのまま寝た。
目を覚ますと崩れたデパートの隙間から太陽の光が僕に向けて差し込む。
少女はまだぐっすりと寝ているようだった。
このままどっかに行ってしまおうか…。
そんなことも考えたが結局出来ずに目を覚ますまで付きっ切りになってしまった。
「おはよー」
彼女が目を覚ました。何故なのだろうか気がついたら彼女をまるで保護するかのようなそんなようなことばかりしているような。
「おトイレ行きたい」
トイレ…尿や便と呼ばれるものを処理する場所のことだろう。
けれどやはり食事を必要としない僕は当然尿意や便意もないのだからどうゆうものなのかわからないが仕方なくトイレに連れて行ってやった。
「ありがとー」
と壁をつたいながら個室のトイレに入って行った。
「どこにも行かないでねー」
個室の向こうから声が聞こえる。もう逃げようとする気もないのだが…。
待っている間トイレに設置してあった鏡をみた。それを見た僕はやっと気づく。
僕は人じゃないと言うことに、さほど驚きはしないが化け物というわけでもない。
頭の上には光るリングがあった。
思い出した。思い出した。思い出した。
僕は神の子供なんだと。
さらに色々と思い出す。
両親を殺して、ここ下界に逃げてきた事。
僕は神である両親に英才教育とは名ばかりな虐待を受けていた。
間違えた事をすれば過剰に暴力を振るわれ。
勉強ができなければ狭い部屋に閉じ込められた。
幸い神の子供なので食事を必要としないので食事抜きなどなかったが、下界でもあるような虐待はだいたい受けてきた。
泣き叫び、殴られた箇所は痛み、暗い部屋に閉じ込められ自分が一番世界で不幸なのだと…そう思っていた。
そして逃げてきた下界で家族とは両親とはなんなのかそれが知りたくて一つの家を窓から覗いた。
けれどそこには自分が今までされてきた以上の虐待を受けている少女の姿があった。
どんなに殴られようとも笑顔を絶やさず、涙を流さず、耐える幼い少女。
それを見た僕は何処の世も変わらないと気づき、神である両親を殺して受け継いだ力を存分に使い下界を滅ぼした。そのせいで死にはしなかったが彼女は視力も失った。
それを全て今思い出した。怒りに任せ力を使い。その衝撃で僕は記憶を失い、彼女を傷つけ、下界を滅ぼしてしまっていたことに。
なんとなく頭の片隅では覚えていたのかもしれない。だから罪悪感を感じていたのかも知れない。
それとも思い出そうとしなかっただけなのかも知れない。
「終わったよー」
と言って彼女はトイレの壁をつたいながら出てくる。
僕は耐えられず鏡に額を叩きつけた。
鏡の割れる音がトイレの中に響き渡る。
「どーしたの?」
目の見えていない少女は僕を心配したが何度も何度も叩きつけた。
不思議だ、神の子にも血が流れているんだと血を見るたびに思う。
「大丈夫だよ行こう。」
そう言って僕は彼女の手を引いてデパートから出た。
僕は決めた、彼女が死ぬその日までその手を引くと。
「そういえば探している人って誰だったの?」
と聞き忘れていたので改めて聞いた。
「うーんとね。最後におうちの窓から見えた、頭の上にリングがあって悲しそうな顔してた人。」
それを聞き彼女の手を引き歩いて行った。
彼女の命が尽きるその日まで。
どうも唄郎です。
自分と同じ境遇でさらに自分より辛い人を見ると心が痛んで怒ってしまいます。
あっ…別に虐待されてませんよ。
楽しいことばかりだといいんですけどね。
眠いので寝ましょ。
おやすみ。