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すみれの花笑む春  作者: ぱんねる
2/20

にほ

翌日は夕方。


すみれ「ただいまー」


るる「おかえり」


すみれ「ずっとテレビ観てたんですか?」


るる「まあな」


すみれ「着替えて来ますね」


るる「いちいち報告すんなうっとうしい」


菫が私服に着替えてリビングに戻ると、テーブルの上には起動したポケットゲームが置かれていた。


るる「お前、スーツなんか着て堅苦しい仕事しよんか?」


すみれ「ううん。サンドイッチの食べ放題のお店です」


るる「頭おかしなるわ。聞いた私が馬鹿やった」


ほっけ「頭おかしいのは初めからじゃろう」


テーブルの上にいつの間にやら菫のアバターが現れていた。

ふわっとした長い白髪が揺れた。

るるは彼女を一瞥して大きく舌打ちする。


るる「出たな魚の開き」


ほっけ「妙な呼び方するな」


るる「何で、ほっけて名前にしたん?」


すみれ「ほっけが大好物だからですよ!」


るる「やっぱ、あほの子やないか」


すみれ「それよりもそれよりもそれよりもですよ」


るる「ち、うるさい。あと寄るな離れろ」


すみれ「ふふふ、遊びましたね」


るる「クソゲーやったわ」


すみれ「そんなこと言ってー中盤まで進んでるじゃないですかー」


るる「あんま調子乗ったらボコるぞ。馴れ馴れしくすんな」


すみれ「ごめんなさい……」


ほっけ「こんな奴に謝る必要ない」


るる「次いらんこと喋ったらポケットゲーム叩き壊すからな」


すみれ「それだけはやめてー!」


ほっけ「く……卑怯者め」


るる「このカバ野郎の倒し方教えろ」


すみれ「あー中盤の難所ですね」


るる「ゾウさんぶつけても負けたわ」


すみれ「あー。ゾウさんは草食だからお肉料理は苦手なんです」


るる「それが何やねん。カバ野郎もそうやろ」


すみれ「カバさんは雑食なんだよ」


るる「ほーん。そんで?」


すみれ「お肉料理が得意な動物を闘わせればいいんですよ。カバさんより食べられる量が少なくても、時間経過でカバさんの食べるペースが落ちてくるから勝ち目はあります。例えばトラさんでもいけるし、クマさんがいれば確実ですね」


るる「トラさんやったらおるわ。めんどいけど育てるか」


すみれ「るるさんは説明書を読まないタイプなんですね」


るる「そんなもんないからな」


すみれ「あそっか。ごめんなさい」


るる「ネットも規制されてるから見れんし詰みや。辞めたろうか思ったわ」


すみれ「すぐ説明書を探して持ってきます」


るる「よし十秒で戻ってこい」


すみれ「それは無理です!」


るるが説明書を読んでいる間に菫がトラさんのレベルを上げることになった。

ほっけさんは二人の様子を警戒しながらも見守る。


るる「肉食は食べるスピード速いけど入る量が少ない。草食は食べるスピード遅いけど入る量が多い。で、雑食がバランスタイプな」


すみれ「それを覚えておくと、意外と簡単にクリア出来ますよ」


るる「おもんな」


るるは説明書を投げ捨てた。


すみれ「そんな……!」


ショックを受ける菫を見て、ほっけさんはもどかしそうにクシャクシャと髪をかきむしった。


すみれ「うー楽しいのに……」


るる「貸せ」


すみれ「やるの?」


るる「文句あんのか?」


すみれ「いいえ」


るる「いま六時前か。七時まで飯作って」


すみれ「分かりました。何がいい?」


るる「何でもええ。せや、せっかくやからそいつの前でホッケ食うか」


ほっけ「小娘ー!」


すみれ「賛成!」


ほっけ「菫ー?」


すみれ「ち、違うよ!勘違いしないで!ホッケは食べたいけどほっけさんを食べたいわけじゃないから!」


るる「はっはっはっ!わけわからん!」


ほっけ「ふん。好きにせい」


ほっけさんはそっぽ向いて消えてしまった。

機嫌を損ねてしまった様子に菫は項垂れる。


すみれ「あう……」


るる「どんまい」


結局ホッケは焼かなかった。

代わりに手を抜いて刺身を乗せただけの海鮮丼にした。

それがいけなかったのか、るるは不満そうな顔をしている。


すみれ「ごめんなさい。ホッケが……良かったですか?」


るる「ちゃうねん。生魚が臭くてあかんねん」


すみれ「あー苦手ってことですか?」


るる「そういうことや」


すみれ「あ!」


るる「何?」


すみれ「心配ご無用。食べてみてください」


るる「嫌。しばくぞ」


すみれ「うう……」


るる「泣きそうな顔すんな。ほんまにしばいたりせんわ」


すみれ「理由があるから……」


るる「何やねん。聞くだけ聞いたるわ」


すみれ「たぶん、原因はお刺身だけじゃなくて刺身醤油にもあると思うんです」


るる「何で?」


すみれ「刺身醤油って不思議と生臭いみたいで、生魚が苦手な親戚の叔父さんがそれに気付いたんです」


るる「それで親戚の叔父さんは醤油付けんと生魚食えるようなったんか?」


すみれ「まあまあ食べられるようになりましたよ」


るる「でも、これかかってもうてるやん」


すみれ「それ出汁醤油です。私も実は、苦手とかじゃないけど刺身醤油はかけない派なんですよ。家では出汁醤油とポン酢とめんつゆで使い分けています」


るる「あーそう……」


菫「食べてみてください。生臭さが控えめな白身しかありませんので美味しく食べられるはずです」


るる「こいつか。いただきます」


るるは眉も目も八の字にして白身魚の刺身をもぐもぐする。


すみれ「どうですか?」


るる「まあまあうまいやん」


すみれ「良かったー。関西は山が多くて、山から海へ流れる栄養が豊富なので白身魚が特に美味しいんですよ」


るる「うるさい」


すみれ「あう」


るる「刺身醤油ってバグちゃうか」


すみれ「あははーそれはないと思いますけど」


るる「ま、食えるやつだけ食うわ」


すみれ「はい!召し上がれ!」


るる「こんな味やったんやな」


すみれ「良ければ、これからも色んな味を紹介してあげますよ」


るる「いらん。ありがた迷惑」


すみれ「そんなあ……」

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