長老の洞窟
ハクはテルに連れられ、浜辺で拾ったボロ布を羽織り集落までやって来た。
村は賑わっており、彼らの周りには幼い子供達が集まってきた。
「テルゥ〜おかえり〜」「この子だあれ」「変なお耳ー」
テルは子供らを軽くいなした。とても微笑ましい光景だ。ハクにしてみれば、初めて見る人種が珍しい。
「テルっ!」
大きな声で怒鳴られた。声の主は筋骨隆々の大柄な男だ。改めて周りを見渡すと大人、特に男は皆同じような体格だ。この子達も大人になったらこうなるのかと思うとなんとも形容しがたい気持ちになる。
「え。何、お父さん?」
「どこへ行ってたんだ? マサもカイも手伝ってるんだ。お前も手伝え。」
テルは忘れて居たことを思い出した。
「あっ!今日は慰霊祭の準備をするんだっけ。道理であいつら来ないと思ったんだ。すぐ行くよ。」
テルの父親は、すぐ来いよ。と言ってその場を去ってった。
「ちょっと行ってくる。」
そう言っててるは駆けて行った。
遊ぶ子供を眺める。誘われても決して首を縦に振らない。一緒遊べばいろいろと壊してしまうかもしれない。
そうやって特にすることもなければ、手伝えとも言われない。まあこの体格なら仕方がないだろう。
しばらく、このちびっ子集団に混ざっていよう。
そう思っていた。
「おや、君。誰だね。...その耳。人間かの?」
背後から話しかけられ、さらに嫌なオーラを感じ、飛び退いた。そこに居たのは杖を突いた老人だった。
「長老様〜 」と子供等は老人の周りに集まって行った。
「その小童はどうしたんじゃ?」
「テルがつれてきたの。でもねぜんぜん遊んでくれないの。」
「ほう。そうかそうか。ならば少し借りていくぞ。」
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抵抗はしなかった。手伝わされるのが嫌ではないといえば嘘だが、特に断る理由もなかった。あのジジイはこんな幼子に何をさせる気だ。いや、もう決まっている。俺は人間と呼ばれた。危険な仕事は他人に任せたいのだ。そう思っていたから混乱している。
「儀式に使うあの太刀を取って来てくれ。300年前に鬼神が持って来たという聖剣だ。」
「素手で良いのか。」
「良いぞ。」
獣人達が仕事をする脇を抜けて、人気のない場所まで来たかと思えば、山を登らされ、終には一人で洞窟に入らされた。内部は鋭利な岩が多く存在し危険だ。
そこには角の生えた頭蓋骨を持つ骨が座って居た。ただし、よく見ると岩の形がそう見えるだけで、その手に見える部分に鞘に収まった太刀があった。周りはカビや蜘蛛の巣で汚れているが、それはまるで後光が射したように輝いていた。儀式に使われると言われれば納得できる。
柄に手をかけた。握った瞬間太刀は光だし、一面が白く染まった。
「貴様一体何者だ。」
気がつくと白い空間に居た。この空間にあるのはハクと太刀のみ。女の声がする。
「人間…ではないようだね。」
「……誰?」
「この私に向かってその口の聞き方はなんだ!」
「……何故?」
「三文字以上喋れよこの餓鬼が。」
「……まな板。」
「うるっせぇー!私も餓鬼だって言いたいのか。」
「当たった? 俺が見えるのはここに落ちている剣だけだが。」
「…あーもう! 私を侮辱したければ、私より強いと証明してみせろ。これでも喰らえぇ!」
刀身が鈍く光り、左目に刺さった。周りは岩の壁に戻っていた。
「このまま精気を吸い取って…あれっ。」
「不意打ちとは卑怯だな。痛いじゃないか。」
「なんで…」
彼女は絶句した。至近距離でギョロっとした不気味な右目に見つめられ続ける。
「強いって証明。君を壊せばイイ?」
黙り込んでしまったようだ。精気を吸い取る気で斬りつけたため、残り少ないエネルギーを使い果たしたようだ。勿論、屍に精気など無い。
たくさん喋って疲れたハクは剣を抜いて横になった。
洞窟の外から誰かが歩いてくる。
「くっくっく。愚かじゃ。人間は本当に愚かじゃ。50年前にも人間が来たが、あの時もこの太刀の供物にしてやったわ。」
「ふーんそうなんだ。」
ハクはのっそりと立ち上がる。
「ば、バケモノっ。」
顔をしかめた後、青ざめて身を見開き恐怖に支配された。
そのままバランスを崩し、鋭く尖った岩に倒れ、絶命した。獣人も老いには勝てないようだ。
「僕のせいじゃないよな。うん。僕のせいじゃない。こいつが勝手に倒れて死んだ。よし!」
剣を死体に刺したが、彼女は目覚めない。
「精気って、死んだら直ぐになくなっちゃうのか?」
とりあえず鞘に収めて、洞窟を出ることにした。入り口付近まで来ると外の音が聞こえる。何やら騒がしい。
洞窟の入り口は山の中腹にあるため、外に出ると村を一望できた。
煙が上がり、人々が混乱していた。
何者かによる、襲撃だ。