漂着
受験生の現実逃避が生んだ代物です。
波音で目を覚ました。目の前には砂の地面。仰向けの体勢になると強い陽射しが真っ白な小柄な裸体を照らした。しばらくは何も感じなかったが、口腔内にざらつく塩辛い砂。腰あたりまで押し寄せる波。今自分がどうなっているのか知りたくなった。砂を吐き出し、のっそりと立ち上がった。身体には海藻がこびり付いているが気にしない。
目の前に広がっていたのは碧く澄んだ海。
思案はただ一つ。
「……ココ。…ドコ?」
<><><>
1人の半獣人の少年が砂浜を歩いている。片手の籠には漂着物が入っている。
「何か面白いモンでも落ちてねーかなー。」
海岸には島の外から知らないものが流れてくる。透明な筒や軽くて丈夫な紐。それを拾って来るのが毎日の日課だ。
波打ち際を歩いていると自分と同じくらいの大きさの足跡を見つけた。まだ新しい。
「先に誰かきてたのか。でもあいつらは今日は来れないって言ってたし。」
他の誰かがいるのかもしれないと辿っていく。
足跡はしばらく海岸線を歩いた後、紐を引きずった痕とともに林の方へ向かった。ある一本の木に辿り着いたところで、足跡が消えて居た。
「この木に登ったのか。」
特に降りたような痕跡もない。まだ上にいるようだ。上を見上げると木漏れ日に混じり、紐で首を吊った人影が見えた。
「げっ。」
驚くもつかの間、木によじ登り紐を解いた。
人影はドサッと音を立てて落ちた。その後ひょいと飛び降り、落としたモノを見た。
「げっ。しまった。」
頭から落ちたのか、首があらぬ方向に曲がってしまっていた。一応真っ直ぐに戻して見たが何か違和感がある。それもそうだ、身体がうつ伏せだが頭が上を向いて居たのだ。
「プッハッハハハハ。」
腹を抱えて笑い転げた。
「何がおかしい。」
後ろから聞こえたその声は背筋を凍りつかせるのに十分な不気味さを持って居た。恐る恐る振り返ると首がこっちを向いて居て、大きく見開かれた瞳と目が合った。
恐怖から立ち上がり、すぐそばの木まで後ずさった。
「ったっく。人が気持ちよく死んでる時に…。」
ソレは首を元の位置に戻しながら立ち上がり、距離をあっという間に詰め、目の前に立った。その身体はテルと比べても頭数個分小さい。幼子そのものだ。
「俺はハク。僵尸だ。」
「キヨウシ?」
ハクは一歩下がった。
「そうだ。俺は屍と魄であり、生者ではない。妖怪みたいなものらしい。安心しろ。俺は、幸せに暮らす奴のことをとって食ったりはしないから。」
水平線を見つめるその瞳には何か寂しさがあった。そのせいか先程までの恐怖はいつの間にか消えて無くなっていた。
「オレはテルだ。よろしくな!」
ハクはこっちを見て驚いた顔をしたが、そのあと笑顔を見せた。
「……ああ。」