優しい眼差しで
老人はまだ温もりのある彼女の遺体を、そっとその場に寝かせた。
そして舞山には、その感傷にふけっている暇など無かった。
何故なら彼はせめて、最後に少女の願いを守ろうと思っていたからである。
老人は少女の言った通りに、彼女の死体をそのままにして山小屋の中に入った。
そして一日は、けっして小屋の外には出ないし、外の様子も確認しないことにした。
何事も無く、自分が過ごせることが、少女の望んでいることだと、老人は分かっていたからであった。
彼にとって、とても長い一日の時間が過ぎていった。
そしてー・・・・・・
その翌日の早朝に、老人は山小屋の玄関を開けた。
このことについて、彼は特に恐怖心など持ってはいなかった。
辺りを見回すと案の定、少女が言っていた通り、2つの死体は忽然と消えていた。
それはまるで何事もなかったかのように・・・・・
再び山小屋に入った老人は、仕方なかったとはいえ、少女の命を救えなかった事を悔やんだ。
しかし、その彼の懺悔の心は、月日が経過すると次第に穏やかになっていった。
そう、まるでこの一連の出来事は、ひょっとしたら老人の今までの人生における罪悪感が生み出した、彼の妄想の産物ではないのか・・・・。
その様に、考えてしまう位にまで、罪の意識は薄れていった。
ある意味、舞山はそう考えることで、少女の不幸に対する救いを求めていたのかも知れない。
・・・・・、実は少女は自信の事を、老人に忘れて欲しいと願っていたのかも知れない・・・・・
そして、数年後ーーーー。
その後も舞山は、変わらずに山小屋を営んでいた。
しばらくは流石の老人も情緒不安定な時期が続いていたが、今は平静を取り戻していた。
今は、この山はシーズンに入っていて、まばらながらも彼の元には登山客が訪れていた。
そして、これまでの数ある客人の中でも、おそらく強い記憶のある人物が訪れることとなるのであった。
舞山は、いつもの通りに屋内の清掃をしていた。
(ん・・・・・・)
どうやら登山者が、この山小屋に訪れたようであった。
(・・・・・・・お・・・・・・・)
老人は玄関を開けて、客人を確認した。
そしてその登山客は、この険しい山では珍しく、若い女性一人であった。
ちょうど今は他の登山客もいなく、老人は精一杯のもてなしをしようと思った。
「どうぞ、こちらへ。」
舞山は、若い女性登山者を山小屋の中に招き入れた。
すると廊下を歩き出して間もなくに、女性客は老人に話しかけた。
「お久しぶりです・・・・。」
そこで驚いた舞山は、マジマジとその女性登山者を見つめた。
「おじさん・・・・・。」
あの数年前に山小屋に舞い込んだ少女は、成長し美しい立派な女性となっていた。
「ああ・・・・。
お久しぶりです・・・・。」
しかし、あのときから少女に何があったのか、あえて彼はは聞こうとは思わなかった。
そのまま老人は、若い女性を部屋まで案内した。
「珈琲でも入れますから、ここに掛けてお待ち下さい。」
そして、二人は向かい合って椅子に座った。
舞山は、数年前のあの出来事を思い出しながらだったが、言葉が全く出てこなかった。
しばらくの間、沈黙が続いていった。
自分の孫ほどの年齢差になるにも関わらず、老人は彼女に対して極度に緊張していたのであった。
しかし、その様な微妙な雰囲気であったが、何故か若い女性は非常に、にこやかな笑顔であった。
「あの・・・・。」
そこで、若い女性の方から口を開いた。
「よろしければ私の身の上話を、聞いていただけないでしょうか?」
うら若き女性の思わぬ言葉に、舞山は一瞬は答えに窮したが、この様に切り返した。
「ええ、お嬢さんがよろしければ是非とも、その身の上話を聞かせていただけませんかね・・・。」
老人は孫を見るような優しい眼差しで、その若い女性に語りを促した・・・・。




