選べなかったんだろう
「え・・・・・・。」
舞山の返しに対して、流石の少女も驚いていた。
「私は妻子を殺してしまったんだ・・・・。」
老人は後ろに手をくんだ、背筋を伸ばして立っていった。
その態度から、けっして彼はふざけていないと言うことが伺えた。
そして、彼は自信の身の上話を始めた。
「私は元々は、大学に勤める勤務医だったんだ。
深夜勤務もあり激務だったのだが、なんとか体もこわさずに続けていたんだ。」
舞山は、少女の瞳をまっすぐに身ながら、昔の事を語っている様であった。
「やっぱり、お医者さんだったんですね。」
そして彼女も、老人を見つめていた。
「仕事とアパートの往復だったんだけど、私には安らぎの場所があった。
大学とアパートの近くにある、とある喫茶店だ。
そこは私の行きつけの店だった。」
彼は軽くため息をついて、過去の思い出を回想しているようだった。
さらに続けた。
「その喫茶店は、マスターとウェイトレスの2人で営業していたんだ。
通っているうちにわかったんだが、マスターがお爺さんでウェイトレスは孫娘だった。
そして・・・・・・」
舞山が次の台詞を出そうとしたその時・・・・・。
「そのウェイトレスさんが、貴方の奥さんになったのですか?」
そう言って少女は、自分の口に手を当ててバツが悪そうな顔をした。
「ごめんなさい・・・。
話の腰を折ってしまって・・・。」
彼女は自分が話を、本来はジッと聞くべきだと思っていたようだ。
「いいよ、気にしなくても。
アンタの察しの通り、そのウェイトレスと深い仲になって、私は彼女を一緒になったんだ。
そして私たちは、一人娘を授かった。
仕事は相変わらず多忙を極めたが、体が疲れていても精神的には平気だったよ。
なんの不満もない、充実した日々だった。」
ここまで語った老人の表情が、うっすらと曇ってきた。
それに対し少女も、何かを悟っているかの様であった。
「気持ちでは、大丈夫だと思っていたんだけどな・・・・・・」
舞山は、軽く目をつむり天井を見上げた。
「ある日、私は妻と娘を乗せてクルマを運転していたんだ。
夜勤明けだった・・・。
いつものことだから、問題ないと思っていた。
しかし・・・・・・。」
老人は言葉を詰まらせが、それでもすぐに話を継続した。
「大丈夫だと思っていても、やはり私は疲れていたんだと思う・・・・。
自分が運転するクルマは、交通事故に遭ってしまった。
そして・・・・、妻と娘を死なせてしまった・・・。」
彼は過去の負い目を蒸し返してでも、少女になにか伝えたいことがあるのであろうか。
そのショックから立ち直れなかった舞山は、しばらくは放心状態から抜けられずにいた。
そして医師の免許が役立つこともあり、山小屋の管理人として務めることとなった。
結果的に彼は、隠遁生活を送ることになっていたのである。
「でも・・・・。」
山小屋に舞い込んだ少女は、老人の話を聞いて感じるモノがあるらしかった。
「貴方は故意に、奥さんと娘さんを殺めた訳では、無いではないですか。
やはり、貴方はわたしとは違います。」
彼女は、どうやら自分の罪は、舞山よりも大きなモノだと思っている。
それでも老人は、少女にあることを述べた。
「自分の思い通りにならなかった事と言う点では、アンタと私は同じ人間だよ。」
舞山こ言葉は、彼女の不遇な生い立ちを思っての事であろうか。
「あんたは、自分で好きな道を選べなかったんだろう?」




