表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/26

読書好きな彼女の気持ち

歴史の授業は好き。昔の人の物語が聞けるのは楽しいし、実質小説を読んでいるようなものだから。なにより、小説のネタを仕入れていると考えれば勉強にも身が入るってものだし。


私の席は教室の一番右後ろ。出入口の真ん前。そこから先生が黒板に書いた黒板の内容を見るのは正直すこしキツイ。その点は困ったものだけど、良い事も沢山ある。


まず、人に囲まれない事。凄く安心する。自分の席がもし真ん中辺りだったら、前後左右斜めに人が配置される。凄く息苦しい。あまり人と関わりたくない私にとっては胃が痛くなる問題なのだ。


あと、こっそり小説が書ける。これはとても重要。前に人が居るから手元が隠せるし、距離が離れてるから尚更先生から私の位置は見えにくい。左隣の人はいつも授業中寝てるから問題ない。そのかわり、この人が先生に目をつけられると飛び火しそうなのが困りもの。


私は黒板の内容をノートに書き留めつつ、ちらりと教室の時計に視線を反らした。……もう少しで授業が終わる。


 早く図書室行きたいなぁ。


本日最後の授業もあと数分で終わりを告げる。そうなれば後は図書室に直行してお楽しみの雑談タイム。同じ趣味を持つ仲間と一緒に過ごしながら穏やかな時間を楽しめる。


どうせ先生も今は授業とは関係ない雑談に花を咲かせている。このまま授業も終わるだろうし、この後の事を考えよう。


 今日はなんの話しをしようかな? 最近、本屋で見つけたお気に入りの本についてかな。それとも、テレビに出てた作家の本についてかな。内容も語君好みだし。


 私はいつも図書室で会う彼を思い浮かべる。物部語君。私の数少ない友達と呼べる人。いわゆるボッチの一歩手前に私は居る。自分の教室に限るなら私は完全なボッチだ。仲の良い女友達なんて居ないし、男の子なんて居るはずもない。なにより、私は欲していない。


 中学生の頃に味わった経験が、私を一人で居る事を強いた。そうしないと心が軋んでしまいそうだったから。そのために私は壁を作った。本を手に持ち、視線を本に定めて人との関わりを拒絶した。そうこうしていたら本の世界にのめり込むようになった。そして、それが切っ掛けで彼と友達になった。


 私が彼と初めて友達になった時の事を思い起こしているとチャイムが成って、授業が終わった。

日直の号令で挨拶が終わり、帰りのホームルームがもうじき始まる。


 さぁ、これが終われば語君と図書室で……。


私は昨日の図書室で起きた事を思い出した。語君が悪戯で図書室の電気を消して、それから私が盛大にコケて、慌てた語君が私の体に手を回して思いっきり引き寄せて、それで……。


 顔に向かってズズズと一気に血が集まる感覚がした。頬に手を添えるといつもよりほんのりと暖かい。私はそれを誤魔化すべく机に突っ伏して寝たふりをした。そうしていたら事の続きを思い出す。二人で倒れて私が彼の上に被さり、私の上半身が彼の胸板に……。


私の顔は更に熱を発し始めた。私にとって昨日の出来事はあまりに刺激が強すぎた。なんせ、彼に家まで送って貰い、別れた後に何度となく思い浮かべてから幾度もベッドの上で悶え転がり回った程だから。


ゴツゴツと固くて骨太な、それでいて暖かい感触。彼は部活動などしていない筈なのに、体格が良く制服の下は確かに鍛えられた筋肉が存在する。そして、私を抱き寄せたあの腕も私の腕とは全く違う。太くて逞しい男の人の腕だった。


あの時は彼も必死で私を助けようとしてくれていたのだろう。普段の穏やかな表情とはうって変わり、見開かれた目はとても力強かった。倒れた後も彼は少しの間私を力強く抱き寄せていたため、私の頬は彼の胸板に押し付けられていた。


正直、もう少しあのままでも良かったなぁ……。


語君はあまり女性慣れしていないのだろう、私が彼に密着している状態を理解すると慌てふためいていた。勿論、私も同じだった。


でも、あまりに幸せだったから少しでもそんな時間が続いて欲しくて私は無意識にあの状態に甘んじていた。真面目な彼には酷だったかもしれないけど。


「よーし、みんな席についてるな? ホームルーム始めるぞー」


 そんな私の回想は担任の先生の鶴の一声によって現実に引き戻された。私は机にうつ伏せるのを辞めて体を起こす。


……まだ少し顔が火照ってるかな。


教卓の先生の方を向くときに男子と目があった。慌てて目を反らされたあたり、ちょっと変な顔をしてるのかもしれない。


でも大丈夫、図書室に行くまでの間に火照りも収まる。今日も彼と話したい事は沢山あるから時間を潰すような時間なんて無い。


早く図書室に行きたいな。


私の思いとは裏腹に、帰りのホームルームは遅々と進んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ