表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/26

襲い来る『死』

さて、ようやく目的地に到着した。西部公園の周辺は数年前に災害のせいで大規模な被害を受けている。そのため、一部の場所は立ち入り禁止に指定されているのだ。


この周辺はまだ被害が少ない方だ。まだ先に進むと建物が倒壊してしまっていたり、道が陥没してしまっていたりもする。


未だにこの辺りは復旧が進んでおらず、立ち入り禁止区域も規制線が張られるだけにとどめられている。


そんな状況な為、この辺りは人影も殆ど見ることはない。現在に関しては一人っ子一人も見かけない有り様だ。


 それにしても、さっき電話で話してから二十分は経過しているのに、万丈さんは姿を表さない。


出来るだけ急いで来ると言っていたから、てっきり僕より早く来ているだろうと思っていたが、忙しいのだろうか?


でも、僕にこんなとんでも話しをしてくるような人だ。まともな仕事には就いていないように思える。


……最悪の事態だが、犯罪者の可能性すらあるレベルだ。そんな人が時間に縛られるような事態に陥るのだろうか?


僕は失礼にも、そんな事を考えながら万丈さんを待っていた。


その時だった。


ヴォォォォ……!


「ん? 遠吠え?」


遠くから犬の遠吠えのような音が聞こえて来た。だが、犬の遠吠えにしては違和感を感じる。


遠吠えの音が低いと言うのか、重いと言うのか。やたら野性味がある雰囲気のように感じた。


もしかしたら、シベリアンハスキーでも逃げ出しているのだろうか?


そんな馬鹿な事を考えていたらポケットの中のスマホが鳴り始めた。もしかして、母さんが目を覚ましたのかもしれない。


僕は慌ててスマホを取り出して、画面を確認した。画面には『万丈タケル』の文字。


なんだ、あの人か。恐らく時間に遅れる事についての連絡といったところだろう。


僕は、やれやれと思いつつ電話に出た。


「はい、物部で……」


「おいっ! 今すぐソコから逃げろ!!」


「え?」


電話に出るなり、僕の声を遮るように万丈さんがそう言ってきた。突然の発言に全く頭が追い付かない。


「あの、万丈さん? 意味が分から……」


「んな事はどうでもいい!! 早いところ近くの建物の中にでも入れ!! 俺は足止めを食らってるせいで直ぐには行けないぞ!」


「え!? いや、何から逃げるって言うんですか?」


僕が訳も分からず万丈さんに聞き返していた時だった。


ヴオオオオオオ!!


「!」


「マズイ! 走れ! 近くの建物の中に逃げろ!」


万丈さんの危機を知らせる言葉すらも掻き消す空気の痺れ。足をすくませられるような、殺意の響き。


思わず頭の中が真っ白になったまま、僕は後ろを振り向いた。


まだ、姿がハッキリ見えるわけではない。でも、明らかに危険な何かが僕に目掛けて真っ直ぐに疾走してくるのが見て取れた。


シベリアンハスキーなんて話ではない。狼だ。


僕はその姿を見た瞬間、背筋に今まで感じたことのない寒気を覚えた。手に持っているスマホをかなぐり捨てて、ゴムが弾けるように走りだした。


立ち入り禁止の規制線を飛び越えて全力疾走で風を切る。


だが、僕の体は変になってしまったようだ。足がまともに動いている気がしない。足の軸が左右にブレてしまい、まるで空中で足をジタバタとさせているかのようだ。地面を蹴っている手応えを感じない。


頭の中は真っ白で、ただ走るだけの人形にでもなってしまったかのように僕は死に物狂いで走り続ける。


僕は全力疾走を保ったまま上半身を捻って後ろの様子を伺った。


直ぐソコに死が迫っていた。


もはや、姿がハッキリと見て取れる位置まで狼は迫っていた。


犬は家畜化した狼の姿という話をふと思いだした。あぁ、そりゃそうだ。こんな化け物みたいな生き物。犬と比べられるハズがない。


体長は僕の体と同じくらいだろうか。大型犬より更に一回り大きいくらいだと思うが、まるでライオンに追われているような威圧感を感じる。


目は血走り、あまりにも鋭い眼光は同じ生き物とは思えなかった。


そんな事を考えつつ、後ろを向いて走っていれば足が絡むのは必然だった。僕は全力疾走している最中に盛大にコケてしまった。


だが、痛みなど感じる事も無ければ暇もない。

僕は今まで生きてきた中で恐らく一番早く首を動かして迫り来る『死』を見やる。


その時にはもう遅かった。


振り向いた時には狼の顎は僕の左肩に迫っており、極限まで濃縮された時の中で。僕は自分の肩に鋭い牙が食い込むのを見守る事しか出来なかった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ