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追跡

加藤作蔵。 まさか、本当にこの名前が出るとは思わなかった。


でも、名前が出るとしたらこの人だろうという考えが僕には有った。


ここ数日の妙な違和感。昨日のニュースを見たときの僕や父さんの不審な苛立ち。あれは何だったのかは分からない。


分からないけど、この人に会えばそれが分かるかもしれない。


「……。最後にもう一つ質問です。『紙片』とかいう物の能力は『物語を書き換える』だけでしょ? どうやって父さんの小説を他人が盗めるんですか?」


「簡単だ。まず、『紙片』を使って盗みたい物語を全く別の物語に書き換える。その後に、書き換える前の物語を我が物顔で出版する。それだけだ」


 確かに簡単ではある。だけど、それだけじゃ駄目なはずだ。


「でも、それだけじゃ元々の作者に訴えられるでしょ。本を買った人だって『盗作だ!』って騒ぎ立てるはずです」


「それは会ってから話す、悪いがソコから先は俺も話す相手を選ばせてもらう」


 少し食い気味に話を遮られてしまった。これ以上は電話で話しても意味が無いかもしれない。


「……、分かりました。今から会えますか?」


「大丈夫だ。……ただし、これからの移動は極力人混みに紛れて移動しろ。コッチも急いでキミに合流する。悪いが場所はコチラで指定させて貰う」


 本当は僕から場所の指定をしたいけど、そうもいかないようだ。


「場所は西部公園の立ち入り禁止区域前で落ち合わせとしよう。キミが今居る場所からそう遠くはないだろ?」


「そうですね。ココからなら十分くらい、……なんで僕の居場所を知ってるんですか……?」


 近くからコチラの様子を眺めてるに違いない。僕は慌てて周りを見渡すけど、それらしい人影は無い。公園で遊ぶ子ども達と遠巻きからそれを見守る母親くらいで、目に見える範囲で他に人は居ない。


とはいえ、僕が見つけられるような場所から眺めているはずもないだろうが。


「別にキミを近くで見張ってるわけじゃない。まぁ、それも合わせて説明するからとりあえずは集合場所に来てくれ。……くれぐれも人気の無い場所は通るなよ?」


「えらく気にしてくれますね。何かあるんですか?」


「いや、無い事は無いが。可能性の問題だ。とりあえず指示に従ってくれ。キミの性格を考慮して極力は誠実に対応しているつもりだ」


 確かに。初めて会った時はやたらと軽い印象ではあったけど、あれからは基本的に真面目な態度で接してくれている。


それだけで信用するつもりもないが、元より会うつもりでこうしているのだから結果は変わらない。


「分かりました。今から直ぐに向かいます」


「了解した。コッチも出来るだけ急ぎで向かう。それじゃ、気をつけてな」


 そう言うと万丈さんは電話を切ってしまった。現在時刻は午後五時過ぎ。あまり時間は掛けられない。


 僕はスマホをポケットに仕舞おうとして、ふと思い出した。綴さんに連絡しておかないと。


スマホのメールアプリを開き、綴さん宛に設定してこれからの事を入力する。


『電話で話したけど、直接会って話しをしたいと思います。場所は西部公園の立ち入り禁止区域前で落ち合う予定です。何か有ったら追って報告します』


送信。……よし、これで良い。


 スマホを改めてポケットに仕舞い、僕は目的地に向かって小走りで向かい始めた。


太陽の赤色が色濃くなり始める中、犬の遠吠えが彼方から微かに響く。


 僕はそんな事は気にも留めなかった。だけど、この時僕は既に狙われていたのだ。


獲物を求めて疾走する黒い陰に。

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