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犯人

「『物語を書き換える』? 『ルイス・キャロルの原稿』? 『紙片』?」


僕は電話口で言われた言葉を消化するべく復唱していた。あまりにも非現実的な内容で、何度咀嚼しても飲み込めない。


ここはゲームやライトノベルの世界じゃない。現実世界だ。なのに、こんな訳の分からない事を真面目な口調で説明されて戸惑わない人が居るだろうか? いや、居ないはずだ。


僕の状況を察したのか、万丈さんはまたもや大きなため息をつきつつ話し始めた。


「いや、まぁ、そんな反応になるわな……。だが、これが事実である以上、俺はこんな説明しか出来ないんだよな」


事実? こんなファンタジーな、夢物語みたいな話しを本気で信じろとこの人は言うのだろうか。とてもじゃないが僕はそこまで頭がおめでたくはない。


だが、話しを聞くだけ聞いたのだ。とりあえずは質問をこれでもかと投げ掛けて反応を見る他ない。


質問する内容が内容なだけに僕は公園の隅に歩きながら、疑問に感じる事を聞き始めた。こんなやり取りをよそ様に聞かれたら中二病と思われかねない……。


「とりあえず、約束通り話しを聞くだけ聞いたのでコチラの質問タイムで良いですかね?」


「あぁ、……精々お手柔らかに頼む」


万丈さんは明らかに面倒そうなテンションに成りつつ言った。では、お手柔らかに出来るか分からないけど質問をさせてもらおう。


「まず一つ。仮に『紙片』という物が実在したとして、ソレを僕に証明する事は出来るんですか?」


「あぁ、そこは直接会ってからになるが問題はない。……信じる他無いだろうさ」


予想外にも、僕に信じさせる根拠はあるらしい。だが、まだ誘拐目的の可能性は否定出来ない。誘拐が目的なら誘い出す為にどんな嘘でも付くだろう。


「……分かりました。とりあえず、この話しの間はその『紙片』という物が有ることを前提に質問します。では、二つ目です。なんで貴方は『物語が書き換えられた』事を認識してるんですか?」


「ほー、ソコを聞くか。やっぱり疑り深いねぇ。良いぞ、嬉しくなる」


何を嬉しく思ったのかは不明だが、電話口から聞こえる声に喜びが混じった。


「まぁ、これについては会った時に証明するのは無理なんだがな。証明しようとするなら俺達の本拠地までご足労願わないといけなくなる。なにより、ソレは俺が望まないから口頭での説明だけになる。そこは勘弁な」


僕は「分かりました」とだけ答えて説明を待った。


「俺達の本拠地にはこれまで発行された全ての本が保管されているんだ。そして、俺達の本拠地だけは『紙片』による改変能力から免れる事が出来る。だから世間の本と本拠地の本を見比べれば改変されたか否かは判断できるって寸法だ。あと、もう一つ方法が有るんだが。これは会った時に見せるから割愛させて貰う。他に質問あるか?」


本拠地の場所や具体的な内容についても聞きたい所だけど、ソコは本当に会う時に追及すれば良い。まずは自分が本当に気になる事から質問をぶつけよう。


「では、僕が一番聞きたい質問です。この質問の返答次第では万丈さんと直接お会いしてお話ししたいと思っています。……僕の父さんの小説を盗んだヤツは誰か知ってますか? 知ってるなら答えて下さい」


もし、『あの人』の名前が出たならこの人の言う事を信じよう。そう思いつつ僕は万丈さんに質問した。


「……。本当は言いたくないが、それが条件になるなら言う他ないか。絶対ではないが、俺達の中ではほぼ犯人は確定している」


僕は息を飲んで万丈さんの答えを待った。ほんの数秒だっただろうが僕にはとても長く感じる沈黙が流れ、万丈さんの一言がその沈黙を破った。


「犯人は『加藤作蔵』。キミのお父さんの友人だった男だ」

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