三巻発売記念番外編:レオンのにゃふんな日常
本日三巻が発売されます。
三巻発売記念として番外編を書きました。
いつもはリオの一人称ですが、今回は三人称で書いてみました。
お楽しみいただけますと幸いです。
=マリーとレオン=
これはリオがレオンと出会った頃の話である。
「それではレオン、先生がいらっしゃったようだから行ってくるわ。お留守番をお願いね」
ソファに寝そべっているレオンに手を振ると、リオは自室の扉を閉めた。
貴族令嬢、しかも高位の侯爵家令嬢であるリオは日々淑女としての教育を受けている。
今日も淑女としての教育を受けるために別室で勉強をする予定なのだ。
「リオはまだ七歳だろう。まだ遊びたい盛りなのではないのか?」
取り残されたレオンはブツブツとひとりごちている。
「そもそも我を置いていくなどけしからん!」
そちらが本音のようである。
「お嬢様は優秀ですから、すぐに帰っていらっしゃいますよ」
「にゃふん!」
後ろから声がしたので、驚いたレオンはソファからベッドの天蓋まで飛び移る。
天井に頭をぶつけそうな高さだが、器用に身を翻して天蓋に乗った。
さすがはにゃんこ。身体能力が高い。いや。レオンは神だが……。
レオンに返事をするかのように声をかけたのは、リオの専属侍女であるマリーだ。
こっそりとレオンは天蓋からマリーを眺める。
彼女は何事もなかったように部屋の掃除を始めていた。
(この侍女、マリーと言ったか? 部屋に入る気配がしなかった。ただ者ではない)
レオンが人間の言葉を話すことを知っているのは、今のところリオしかいない。
(まずいな)
「そういえば……」
器用に『風魔法』を使い掃除をしていたマリーは手を止めると、天蓋にいるレオンに目を向けにっこりと微笑む。
まるで花が綻ぶような可憐な笑顔だ。
「挨拶をしておりませんでした。あらためまして、おはようございます、レオン様」
優雅にカーテシーをするマリーにレオンは戸惑う。
「う、うむ。おはよう」
そう答えるのがやっとだった。
「今日は良い天気ですよ。出窓で日向ぼっこなどいかがですか?」
しばらくマリーを見つめた後、レオンは天蓋から飛び降りる。そして、こう返答した。
「そうするとしよう」
マリーがきれいに掃除をしてくれた出窓へと移動をするレオンだった。
こうしてレオンが人間の言葉を話すことを知る者が増えた。
=メアリーアンとレオン=
メアリーアンがすうすうと寝息をたてている。
先ほどまでレオンの毛並みをもふもふしていたメアリーアンは、遊び疲れてレオンの腹を枕にして眠ってしまったのだ。
メアリーアンのあどけない寝顔をレオンは横目でちらりと見やり、ふうとため息を吐いた。
「こうしておると三歳の幼子なのだが……」
見た目は三歳の幼子であるメアリーアンだが、彼女は創世の神の生まれ変わりなのだ。
幾度となく人間に転生している創世の神と出会ってきたレオンは複雑な思いに駆られる。
何度も人間に生まれ変わっている彼女の人生は、決して幸せなものばかりではなかったからだ。
創世の神は人間に転生することを決めて、輪廻の帯に乗っている。
だが、神といえども万能なわけではない。
人間は生を終えると魂となり、輪廻の帯に乗って次の人生に辿り着く。
生まれ変わる先はランダムだ。決して選ぶことはできない。
それは創世の神が定めた理だ。
定めた神自身といえども例外はない。
人間の輪廻の帯に乗ったからには、理を曲げることはできないのだ。
レオンはあらためてメアリーアンの寝顔をじっと眺める。
淡い金色の髪。閉じた瞼の下にはリオと同じ青灰色の瞳がある。
「面立ちはリオとそっくりだな」
ふっと微笑む。
この幼子の面立ちはレオンの愛する女性によく似ている。
「もふもふはおねーしゃまが好きなの?」
「にゃふん!」
今まで眠っていたメアリーアンがぱっちりと大きな目を開けて、レオンをじっと見つめていた。
どうやらレオンが思考の海に漂っている間に目を覚ましたらしい。
メアリーアンはゆっくり起き上がると、レオンの耳をくいくいともふる。
「こたえりゅの! もふもふ」
レオンは冷や汗が出る思いだった。正確には肉球が汗をかくだろうか?
にゃんこの汗腺は肉球と鼻にあるのだ。いや。レオンは神だが……。
(三歳児相手になんと答えたものかな?)
レオンが困っていると助けが入った。
「メイ、レオン、おやつの時間よ」
リオがお菓子を焼いたようだ。甘い匂いがリオからする。
「どうしたの? レオン」
メアリーアンと同じ澄んだ青灰色の瞳がレオンの顔を覗きこんできた。
「……何でもない」
レオンはリオの肩に飛び乗る。
「もふもふがごまかした! ずりゅいの!」
メアリーアンが頬を膨らましているが、レオンは知らんぷりを決め込んだ。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)