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87.侯爵令嬢はオリエンテーション最終日を迎えて想定外の出来事に遭遇する

 一日目、二日目はカリキュラムをこなすのに一生懸命であっという間に日が経った。


 そして、オリエンテーション三日目。


 最終日の魔法戦での概要とチームメンバーが明らかになる。


 魔法戦が行われる会場は魔法院所有の森だ。王都近くに存在する。


 概要だが、SクラスとAクラスそれぞれ東西に分かれて砦を築く。チームごとに分かれて行動するのだが、先に砦を落とした方が勝ちだ。


 Sクラス六人のチームに対して、Aクラスは四人と上級生二人だ。それぞれに担当教師が引率としてつく。


 私のチームは男子二人に女子二人だ。クリスとはチームが分かれてしまった。


 そして上級生だが、マルグリット様と王太子殿下が助勢にきてくれた。


 クリスのチームにはお兄様がいる。どうせならお兄様と一緒がよかった。


 唯一の救いは、トージューローさんが担当教師なことだ。


 それと聖獣も連れていっていいということなので、レオンが一緒だ。


「カトリオナ嬢、よろしく頼む」


「こちらこそよろしくお願いいたします。リチャード様、マルグリット様」


「妹がいつもお世話になっております。よろしくお願いいたしますね」


 黄金色の髪に緑の瞳。アンジェとよく似た面差しのマルグリット様は少し親近感を覚える。


「お世話になっているのは私の方ですわ。マルグリット様」


 今年五年生のマルグリット様は学院一の才媛だ。『風魔法』と『水魔法』の二属性持ちで、武術にも長けている。なぜか同性に人気があり「お姉様」と呼ばれているとかなんとか。


「これからも妹と仲良くしてくださいね」


「もちろんです」


 マルグリット様と私は仲良くしているのだが、聖獣同士はそうではない。


 ホークはひたすらレオンを威嚇しているが、レオンは相手をすることもなく、欠伸をしている。


「オリエンテーション生活は楽しく過ごしているのかな?」


マルグリット様との会話に割り込んでくる王太子殿下に目を向ける。


 強力な『火魔法』の使い手の王太子殿下。


 なるほどバランスをとるというのはそういうことか。


 私は『植物魔法』といえども土属性。しかもイレギュラーだ。


「同級生との共同生活はなかなか経験できませんので、新鮮ですわ」


 マルグリット様は他のクラスメイトに挨拶をしている。あこがれの生徒会長が目の前にいるせいか、皆顔が赤い。


「今年のオリエンテーションは面白いことをするのだな。私の時は魔法の座学と模擬戦くらいだったよ」


 前から気になっていたが、王太子殿下が自分のことを話す時、僕から私に変わっている。


 社交界デビュー前にあらためることにしたのかな?


「そうですね。すごく緊張します」


『会話が弾まぬな。リオの返答が素っ気ないからか?』


『失礼ね。一生懸命に会話をしているでしょう』


 レオンの念話が頭の中に響く。


『レオンはホークと仲良くしなさいね』


『知らん! あやつはマルグリットに近づくなと威嚇しかせぬからな』


 私にはピィーという猛禽類特有の甲高い鳴き声にしか聞こえないが、ホークはそんなことを言っていたのか。


「今日からは午前は魔法の講義、午後からはチームごとで行動してもらう。魔法戦の作戦を相談するのもよし。魔法の練習をするもよしだ」


 トージューローさんのよく通る声が響く。


 チームごとに行動か。気が重い。



 私たちの対戦相手はキクノ様率いるSクラスの六人チームだ。その中にはアンジェとアデリーヌ様がいる。


「いいか! おまえら絶対に勝つぞ!」


 おかげでトージューローさんが張り切っている。


「菊乃のことだから、姑息な手段を用意しているに違いない」


 姑息な手段というか、頭脳戦ではキクノ様には敵わないかもしれない。


 何せここ三日の魔法訓練所での講義は「敵の十手先を読むのです」と教えられたからだ。


 チェスではあるまいし、そんな先は読めませんと誰かが口答えをすれば、いい笑顔で「死にますよ」と一言。


 しかし、手強いのはキクノ様だけではない。


 アンジェの『霧魔法』と特殊スキルも侮れないし、アデリーヌ様はトレヴァーズ侯爵家のお家芸『魔法阻害』のスキル持ちなのだ。


「トージューロー先生の作戦はどういったものでしょうか?」


 マルグリット様が挙手をして、トージューローさんに問いかける。


『彦獅朗のことだ。正面突破してキクノ以外の相手を戦闘不能にして、全員でキクノを攻撃するとかではないのか?』


 レオンが何か失礼なことを言っている。


「正面突破をして、俺がキクノを引きつける。おまえらは相手をどうにかして倒せ」


 ああ。うん。レオンの言うことがだいたい合っている。


 チーム全員が沈黙したのは言うまでもない。



 迎えたオリエンテーション最終日。魔法戦当日がやってきた。


 正直、トージューローさんはあてにできないので、作戦はマルグリット様が立てた。


 砦攻めはトージューローさんとなぜか私。これではどちらが引率か分からない。


 こちらの砦を守るのはマルグリット様だ。それと、もう一人同じチームの女子がマルグリット様とともに砦を守る。


 攻撃、防御は王太子殿下を筆頭に男子二人の担当だ。


 ファンファーレが四方から響く。


 森に響くファンファーレが開始の合図だ。


「行くぞ! ユリエ!」


「はい。トージューロー先生」


 森の中を駆け出したトージューローさんの後に続く。


 ピィーという鳴き声がするので、見上げるとホークが頭上を飛んでいた。砦までの道案内をしてくれるのだ。


「マルグリットという生徒会長は鷹使いか?」


「鷹というかグリフォンです」


「猛禽類の視力は優れているからな。あちらの砦もすぐ見つかるだろう」


 鷹使いか。かっこいいな。私は猫使いになろうかな?


「よし! 行けレオン!」


「どこに行くのだ?」


 今はトージューローさんと私しかいないので、レオンは普通に話す。


「ホークみたいに相手チームの位置を探すのよ。猫はハンターなのでしょう?」


「我は猫ではない。だが、相手チームの位置くらいは探れる」


 私の肩から木に飛び移ると、木の上を駆けていく。


「さすがにゃんこだな。身軽だ」


『リオ、来るぞ。上だ!』


 早速、相手を見つけたようだ。レオンから念話が届く。


「トージューロー先生。上です」


 トージューローさんと私は一旦足を止め、上を見る。


 一人の男子生徒が『風の刃』を放ってきた。


「『風魔法』で俺に対抗する気か? 甘い! 『風魔法』らん!」


 名のとおり嵐のような風が『風の刃』を巻き込み、ついでに生徒を上空に吹きあげる。


「うわあぁぁぁぁ……」という悲鳴とともに男子生徒は彼方に消えていった。


「トージューロー先生。やりすぎでは?」


「飛ばされた先で風が受けとめるように調整してある。怪我ひとつないと思うぞ」


 教師をやっているだけあって、一応生徒の安全は考えてあるらしい。


「刀を使わなくても普通に魔法を使えるのですね」


「これでも一応風の神の眷属だからな」


『リオ! 右だ!』


 右から『石の弾丸』がいくつか飛んでくる。私は地面に手を突き、魔力をこめる。


「『植物結界魔法』木陣壁!」


 トージューローさんと私の周りに一瞬で木の壁が立ちふさがる。


『石の弾丸』を放った女子生徒は「そんな魔法ありなの!?」と叫び、今度は『火魔法』で木の壁を焼こうとする。『土魔法』と『火魔法』の二属性持ちのようだ。


『火魔法』を放たれる前に木の壁を解く。放たれた瞬間、トージューローさんが抜刀をする。


「そんな!? 火を斬るなんて」


 女子生徒が放った火を刀で斬ったのだ。


『風の剣聖』には朝飯前の技だ。私もできるけれど、小太刀がない。


「降参しますか?」


 この魔法戦には、生徒の安全を考えて降参という制度が設けられている。降参した生徒は白旗をあげて、相手側の捕虜となるのだ。ただ、相手側が勝利した際、マイナス点になるところが痛い。ちなみに先ほどトージューローさんに飛ばされた生徒もマイナス点だ。


「うっ! 降参します」


 女子生徒は潔く、白旗をあげた。


「これでキクノと生徒四人だな」


「うち何人かは別ルートでこちらの砦攻めをしていると思いますよ」


「……そうだな」


 全員が私たちみたいに正面突破してくると思ったのだろうか?


 戦略に関してはキクノ様の方が上だな。


 トージューローさんと私が砦前に辿り着いた時に緊急事態が起こった。


 教師陣が持つ連絡手段の水晶が光り、この森を管轄する魔法院から通信が入ったのだ。


「緊急事態! 森にダンジョン出現! 魔法戦は中止されたし!」


 森にダンジョンが出現したという緊急事態に、生徒たちは引率している教師の誘導ですぐに森を脱出した。しかし、ダンジョンが出現した辺りで生徒が数名消息を絶ったという。その生徒たちというのが、クリスたちのチームだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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