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冤罪で処刑された侯爵令嬢は今世ではもふ神様と穏やかに過ごしたい【WEB版】  作者: 雪野みゆ
第三部 魔法学院編

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84.侯爵令嬢はオリエンテーション初日を迎える

 その後はマリーが淹れてくれたお茶を飲みながら、明日からのオリエンテーションの話をする。今日のお茶はアールグレイだ。柑橘系の良い香りがする。そして、お茶請けはマカロンだった。


 マリーは扉の横の椅子に掛けて、レオンの毛並を整えている。もふもふの手触りが堪らないのだろう。顔が緩んでいた。


「明日Sクラスは『風の剣聖』様の講義なのよ。だから手合わせをお願いするつもりなの。腕がなるわ」


 アンジェがお茶を一口飲んでから、話題を切り出す。


「トージューローは容赦がないわよ。覚悟しておきなさい」


「望むところよ」


 クリスとアンジェが剣術の話で盛り上がり始めてしまったので、私はトリアに話題を振る。私まで剣術の話をし始めたら、トリアがついていけないからだ。


「Aクラスは特別講師が来るらしいわ」


「まあ、どなたでしょう?」


「それが、当日までのお楽しみらしいわ」


「お楽しみといいますか……ある意味怖いですわね」


「とんでもなく個性的な先生だったらどうしよう?」


 魔法学院の教師陣は皆少し変わっている。良く言えば個性的だ。


 教師陣は魔法院所属のため、ローブをまとっている。ローブの裏面に個性的な刺繍を施していたり、私のように魔改造しているのは当たり前だ。


 学院内に研究室を与えられている教師は、授業以外の時間はそこに引きこもっている。寝泊まりしていて一週間に一度家に帰る教師、定住している教師と様々だ。


 トージューローさんも研究室があるが、ヒノシマ国の大使館に部屋を借りているので、授業が終わると大使館に帰っている。


 たまにタウンハウスを訪ねてきては、お兄様と手合わせをして食事をして帰っていく。絶対にご飯が目的だ。


 トージューローさんも個性的ではあるが、まだ健全な方だ。


 ある生徒は質問をしに教師の研究室を訪ねたところ、中から奇声がしたので怖くて逃げ帰ったという。


 また別の生徒は研究室に謎の物体があるのを見てしまった。好奇心に駆られ、恐る恐る近づくと、ぼさぼさの髪をした女性が「み~た~な~」と後ろから出てきたとか。


 とにかくろくな噂を聞かないので、生徒たちは教師の研究室には近づかない。


 そうと知っていて、研究室に行く強者な生徒もいる。


 生徒会長のマルグリット様や王太子殿下。それに私のお兄様だ。


 前世では私も教師の研究室に行ったことはない。どんな感じなのか興味はある。


 お兄様にそれとなく聞いてみたところ――。


「面白いものがいっぱいあったよ。リオも一度行ってみるといい」


 それは楽しそうだった。


「最終日はクラス対抗の魔法戦だそうですわね。リオと当たっても手加減はしませんよ」


「トリアやアンジェ相手に手加減したら痛い思いをしそうだから、しないわ」


 場合によっては手加減するかも? ごめんね。トリア、アンジェ。



 翌日、男子寮と女子寮を挟んだところにある集中魔法訓練所に向かう。指定された教室がそこにあるからだ。


 クリスと私はいつもどおり後ろの席に着く。レオンは私の肩に貼り付いている。最早、定位置だ。


 クラスメイトたちは示し合わせたように、いつもクリスと私が座る後方の窓際席を空けておいてくれる。気を遣わなくてもいいのだが……。


「特別講師と言っていたけれど、どんな先生かしら?」


「さあ? ぶっ飛んだ人でなければいいわね」


 もう少しオブラートに包めばいいのに、クリスは直撃だ。学生のうちはまだ許される。


 だが、社交界にデビューしたら、オブラートに包んだややこしい会話をしなければいけない。


 クリスのことだから、それは上手く相手を丸め込むとは思う。


 特に嫌味に関しては容赦がない。やんわりじりじりと相手を追い込むのだ。


 王太子殿下は「あれはネコ科の猛獣だ」とクリスを例えていた。


 始業の鐘とともに扉が開く。


 教室へ入ってきたのは意外な人物だった。キクノ様だ。


 正面の魔法ボードに自分の名前を書く。フィンダリア語とヒノシマ国の言葉の両方だ。


 ちなみに魔法ボードとはボード専用のペンを使って授業内容を書くものだ。


 生徒の中には、魔法を使ってボードの内容をそのままノートに写す者がいる。



 魔法学院は自分の手でノートをとることを推奨すいしょうしているのだ。


 そのために魔法ボードの文字は魔法で写し取ることができない魔法がかけられている。


九条霞菊乃くじょうがすみきくのと申します」



 キクノ様はきれいにお辞儀をする。


 生徒の一人が挙手をしたので、キクノ様がどうぞと発言を促す。


「クジョー……ガス、ミ先生は……」


 がちがちに噛んでいる。発音しにくいものね。


「ヒノシマ国の姓は発音しにくいと思いますので、キクノで結構です」


「ではキクノ先生はトージューロー先生と知り合いですか?」


「そうです」


「恋人ですか?」


「違います」


 あっさりと否定した。


 それにしても皆同じことを思うんだな。クリスと私も初めてキクノ様にお会いした時にトージューローさんの婚約者だと思っていた。


「それでは、皆さんに自己紹介をしてもらいましょう。その前にあたくしから自己紹介をいたします。名前は先ほど名乗ったとおりです。ヒノシマ国の大使館で大使を務めております。今回は学院側から特別講師として招かれました。魔法属性は『土魔法』です。一週間よろしくお願いしますね」


「大使ですか? キクノ先生はヒノシマ国の偉い人なのですか?」


「あたくしの生家はこの国で言うところの宰相を務める家柄で、現在の宰相は父です。あたくし自身は外交官です。代々、国主である桐十院家を補佐しております」


 教室中がざわつく。


「トージューロー先生の姓がそんな感じだったよな」


「じゃあ、トージューロー先生は王族ということ?」


「うそ! 見えない!」


 どこかで見たやり取りだ。


「はい! 皆さん、お静かに!」


 キクノ様がパンと手を叩くと、教室は静まり返る。


桐十院先生・・・・・は確かに国主のご子息ではありますが、継承権は放棄しておりますので、ただの風来坊です。あ、今は魔法学院の教師ですね」


 相変わらずキクノ様はトージューローさんに厳しい。


 隣の教室から「ヘークショイッ!」という盛大なくしゃみが聞こえる。トージューローさんだ。誰かが自分の噂をしているとくしゃみが出るというが、案外本当なのかもしれない。


「それでは、前から順番に自己紹介をお願いします」


 おしゃべりはここまでというようにキクノ様が左端の前の席に座った生徒に顔を向ける。


 クラスメイトたちは順番に自己紹介を始める。内容は主に名前と魔法属性だ。


 全員が自己紹介を終えると、キクノ様の講義が始まる。


「この時間は魔法の発動の講義をします。休憩の後、全員中庭の訓練所に集まってください。次の時間はそれぞれ皆さんの力量を披露していただきます」

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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