83.侯爵令嬢はオリエンテーションのために学院の寮へ入寮する
長らく更新を止めてしまい誠に申し訳ございません。
引っ越しなどいろいろ重なり、なかなか執筆ができずにおりました。
今日から更新再開いたします。
毎週金曜日7時に更新予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。
季節は初夏。日差しは強いが、風が心地よい時期だ。
ついにオリエンテーションが行われる日がやってきた。
学院内の寮に一週間泊まり、魔法模擬訓練を行うのだ。
学院内の裏側にある寮は男子寮と女子寮が分かれており、オリエンテーションなどの合宿に使われる。
寮は基本個室だ。生徒は侍女またはメイドを伴ってもいいことになっている。
特に貴族の子女は自身で着替えや髪の手入れをしたりしないからだ。
私は自分でだいたいのことはできるが、マリーを伴ってきた。
最終日の打ち上げパーティーがあるからだ。パーティーでは当然ドレスを着ないといけないが、一人では支度に手間がかかる。それに、マリーがいると心強いし、頼りになる。
私はマリーと割り当てられた部屋に入る。最上階の日当たりが良い部屋だ。
最上階は四室しかないので、他の部屋の入室者はたぶんあの三人だろう。
「広いですが、殺風景なお部屋ですね」
「そうね。温室で花でも摘んでこようかしら?」
幼い頃に交わしたクリスとの約束どおり「植物研究会」を立ち上げたのだ。部員はクリスと私だけだが、楽しく活動をしている。
温室を借りて、薬草などの研究をしているのだが、それだけだと少し怪しいので、カモフラージュ用に花も育てている。
「その必要はございません」
マリーは自らの影の中から、大きな荷物をいくつか引っ張りあげた。
「マリー、それは『影渡り』の応用かしら? どうなっているの?」
「私の影の中にロープで括り付けた荷物をこのトランクに結びつけておいたのです」
私の着替えが入ったトランクを指し示す。
「それなら私の『空間』に収納すればよかったのに」
「お嬢様のお手を煩わせるなど、とんでもございません!」
マリーの気質は職務に忠実な執事長譲りだ。
「リオの『空間魔法』を模したものか? 相変わらず応用が上手いな」
今まで聖獣のふりをして黙っていたレオンが口を開く。
「お嬢様のように容量はないのですが、こういった移動の時は便利ですね」
マリーは取り出した荷物をテキパキと部屋に配置していく。
私のお気に入りのクッションやベッドカバーにカーテン、ティーセットまで。
「十分に容量があると思うわよ。すごいわ、マリー」
「ありがとうございます。ふふふ。お嬢様に褒められるのが一番嬉しいですわ」
私の専属侍女は本当に有能だ。
扉がノックされる音がする。
「どうぞ。入っていらして」
入室許可をすると、トリアがひょっこりと顔を出す。
「ごきげんよう。やはり、この部屋に入室したのはリオだったのね」
「トリア、ごきげんよう」
トリアがこの部屋の主を確認しに来たということは、あと二室はクリスとアンジェだろう。
家格の序列からたぶんそうだろうと思ったのだ。
同じフロアにある部屋の住人が仲良し同士でよかった。
「可愛いインテリアね。その柄はもしかして『サンドリヨン』のものかしら?」
「ええ。『サンドリヨン』がインテリア部門に進出する際、いただいた物なの。我が家は一応出資者だから」
「出資者になると、モニターとしていろいろ試供品がいただけるのよね。わたくしもお父様にお願いしてみようかしら?」
可愛い物が大好きなトリアは真剣に考え込む。
再び、扉がノックされると今度はクリスとアンジェが顔を出す。
「リオ、ごきげんよう。わあ! 可愛い」
言うが早いか、クリスはベッドに駆け寄る。
「ごきげんよう。クリス。アンジェ」
「ごきげんよう、リオ。素敵な部屋だわ。私もお気に入りの甲冑を持ち込もうかしら?」
さすがは武門の名門の令嬢。アンジェの素敵の基準は武器や防具なのだ。
ウォークインクローゼットから出てきたマリーは三人の姿をみとめると、一礼する。
「いらっしゃいませ、皆様。ご挨拶が遅れまして、誠に申し訳ございません。ただいまお茶をご用意いたします」
ティーセットをトレーに乗せると、マリーは一旦部屋から退室する。フロア内にある給湯室へ行くのだろう。
いつもどおり部屋でお茶の準備をしてもいいのに、律儀だ。
「いつも思うのだけれど、洗練された所作の侍女ね。貴族令嬢と遜色がないほど優雅だわ」
マリーの所作は完璧だ。トリアとアンジェは会う度にマリーのことを褒めてくれる。
「ふふ。ありがとう。マリーを褒められると私も嬉しいわ」
しばらくすると、お茶の用意が整ったのかマリーがティーセットを乗せたワゴンとともに入室してくる。
「貴女、マリーでしたかしら? 姓があれば聞かせていただけない?」
トリアから質問するなんて珍しい。彼女は堂々としていれば公爵令嬢らしいのに、いつももじもじとしている。
「まだ名乗っておりませんでしたか? 失礼いたしました。マリー・フォレースターと申します」
マリーが優雅にカーテシーをしながら、名乗りをあげる。
「フォレースター? フォレースター伯爵家の方かしら?」
フォレースターの名に反応したのは、アンジェだ。フォレースター伯爵家も武門だものね。
「現フォレースター伯爵家の当主は私の叔父ですが、姓を名乗る許可をいただいているだけです。私の身分は平民です」
マリーの叔父であるフォレースター伯爵は、兄から突然家督を譲られた。フォレースター伯爵の兄は執事長なのだが、妻が平民であったため、あっさりと爵位を捨てて平民となったのだ。
その後、行方不明だった兄の居場所を突き止めたフォレースター伯爵は自分に姪がいることを知った。姪のためにも家に戻るよう、兄を説得したのだが、頑として首を縦に振らなかった。
仕方なく、フォレースターの姓だけは名乗ってくれるように説得したところ、執事長は渋々頷いたそうだ。
お父様に聞いたのだが、フォレースター伯爵オーギュスト様は時々兄とマリーの様子をこっそり見に来ているそうだ。
マリーの誕生日には、毎年謎の支援者から花と贈り物が届くのだが、オーギュスト様の仕業だろう。
執事長も分かっているのか、マリーに贈り物を受け取らせ、お礼の手紙を書かせている。
姪からの手紙と返礼品をオーギュスト様は大切にしているそうだ。とはダーク様の情報だったりする。
「どうりで洗練された所作だと思ったわ。もしかして武術の心得もあったりする?」
「多少ですが。お嬢様をお守りするために必要でしたので」
多少ではない。かなりの腕前だ。暗器を使う腕だけで言えば、キクノ様に匹敵するのではないだろうか?
アンジェの大きな瞳がきらきらしている。
「そのうち手合わせをお願いできるかしら?」
「手加減はできませんが、よろしいでしょうか?」
「望むところよ。手加減なんかしたら許さないわ」
アンジェとマリー。両者の間で火花が散る。互いにライバル認定をしたらしい。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)




