82.侯爵令嬢は小太刀を改造してしてもらうよう鍛冶師に依頼する
もふ神様三巻が冬頃刊行予定です。
アヤノさんが営んでいる隣にソータローの鍛冶屋がある。
カフェと鍛冶屋が並んでいるのは珍しい。だが、佇まいがヒノシマ国風なので、違和感があまりない。
鍛冶屋を覗くと、ソータローさんが顔を緩ませてレオンをもふっている。
「もふもふだなあ。もふもふいいなあ。癒される」
「うむ。もう少し毛並を整えるようにもふるのだ」
レオンとソータローさんがしゃべっている!?
「レオン……」
入り口で私が立っているのをみとめたソータローさんがにっこりと微笑む。
「ユリエだったかな? 入ってくるといい」
ソータローさんが招いてくれるので、誘われるままに中に入る。
中は嗅いだことがないつんとする匂いがした。
「鋳物の匂いだ。お嬢様にはきついかな?」
「ええと……少し……」
いいえ。かなりだけれど……。
レオンは平気そうだ。あ! 結界を張っているんだ。ずるい!
「無理しなくてもいい。一応、ご近所様に迷惑をかけないように外には漏れださないようにしているんだけどな。中はどうにもならない。『浄化』のスキル持ちなら良かったんだがな」
「私の侍女が『浄化』のスキルを持っています。よろしければ、こちらに訪問させますが?」
ソータローさんは一瞬だけきょとんとした表情をする。
「ありがたい話だが……」
「あの! 頼み事があるのです。もちろん代金はお支払いします」
空間から小太刀を取り出す。
レオンがソータローさんに話しかけていたということは信用しているということだ。
本当の能力を見せても大丈夫だろうと判断した。
「へえ。『収納』のスキル持ちか。便利だな。ん? その小太刀は俺が打ったものだな。もしかして彦獅朗の弟子ってユリエか?」
何となく想像はしていたが、やはりこの小太刀を打ったのはソータローさんだった。
「そうです。友達もトージューローさんの弟子で同じ小太刀を持っています」
ソータローさんは私が持っている小太刀をしげしげと眺める。
「それで頼み事というのは何だ?」
「この小太刀ですが、普段持ち歩けるものに加工はできますか?」
「仕込み刀か。貴族のお嬢様が持っているものというと日傘とかかな。だが、ユリエは『収納』のスキル持ちだ。わざわざ仕込み刀にする必要がないんじゃないか?」
フィンダリア王国以外の国では『収納』というスキル持ちが存在するのだろうか? でも、この国では『空間魔法』は極めて特殊だ。
時の神リュウは自分の魔法をマリオンさんと私以外に授けたことがないと言っていた。
この能力は隠しておいた方がいいと自分の勘が告げている。
「訳があって、この能力は見せられないのです」
「じゃあ、帯剣するのはどうだ? この国には女性の騎士がいるんだろう?」
フィンダリア王国は女性騎士がいる。騎士を目指す女性も。
「それも訳ありで剣術を修めているのを悟られたくないのです」
「複雑だな」
アンジェの家のように武門の家系ならばよかった。しかし、我が家は商業や農業で栄えている。
「いいぞ。その依頼受けてやる」
「え?」
「俺は鍛冶の神の加護持ちなんだ。武器を魔道具に変えることも可能だ」
トージューローさんがそんなことを言っていた。ソータローさんは鍛冶の神の加護を持っていると……。
「ありがとうございます! 代金は言い値でお支払いします。あとここに『浄化』の付与も」
「もう一ついいか?」
ソータローさんが人差し指を立てる。
「何でしょうか?」
「時々、もふもふさせてくれ」
ソータローさんの視線の先にはレオンがいた。レオンは尻尾をゆらゆらと揺らしている。
「もちろんです」
もふもふは正義だ。
トリアとアンジェとはお店の前で別れて、クリスとともに鍛冶屋へ向かう。
小太刀を持ち歩くことはクリスも考えていたらしい。
私がアヤノさんのお店に一旦戻っても、レオンはソータローさんのところに留まったままだった。ソータローさんが気に入ったのかしら?
「もふもふ君は女性にしか懐かないのだと思っていたわ」
「我をそこらの媚びを売る猫と同じにするでない」
レオンが心外だと言わんばかりにまろ眉を顰めている。
「でも、レオンはソータローさんに懐いているわよね?」
「こやつの手のひらは心地よいのだ」
鍛冶師の手のひらは温かいのだろうか?
「あら? では私の手は心地よくないのかしら?」
レオンの頭をぐりぐりと撫でる。ちょっと面白くない。
「そういう意味ではない! もう少し優しく撫でるのだ。リオの手のひらとは別の意味で心地よいということだ」
それは私の手のひらも心地よいということでいいのかしら?
「やきもちかしら? リオ」
クリスがにやにやしながら、私の顔を覗きこんでくる。
「違うわよ」
図星だ。いたたまれなくなった私はぷいとそっぽを向く。
「俺ともふ神様は同性だ。安心していいぞ、ユリエ。俺には妻がいるしな」
ん? もふ神様?
「ソータローさん! レオンが神様だと分かるのですか?」
「ああ。神気がもふ神様から漂っているから、聞いてみたんだ」
トージューローさんも初めてレオンに会った時に同じことを言っていた。
「ヒノシマ国の人は不思議ね。神の気とはどんな感じなの?」
クリスが首をこてりと傾げている。
「う~ん。何かこう、澄んだ空気が漂っている感じかな」
ヒノシマ国では魔力を持っている人が少ないのだと聞いた。
トージューローさんやソータローさんのように、神の加護を受けている人の方が稀なのだそうだ。元神であるキクノ様はもちろん例外。
魔力がない代わりに感覚が鋭く、自然に住む神の息吹を感じることができる。
聞いているだけだと神秘的な国のように感じる。
「宗太郎よ。我はもふ神様ではなくレオンだ。レオンと呼ぶことを許してやろう」
「もふ神様の方がしっくりくるんだが……」
すごくよく分かる! もふもふした神様だからもふ神様でいいのにね。
私がレオンの名をつける時に、もふ神様と言ったら却下された。
「それより、お姫様は小太刀を持っているのか?」
どうやら、ソータローさんはクリスを王女だと知っているようだ。情報源はアヤノさんだろう。
「クリスでいいわ。小太刀はリオの空間にあるわよ」
王太子殿下に見せたくないというクリスのために、彼女の小太刀は私の空間で預かっているのだ。
私は空間からクリスの小太刀を取り出す。
クリスと私の小太刀は一見すると同じ形で見分けがつかないので、柄に色違いのタッセルをつけている。クリスは自分の色をイメージした金色のタッセル、私は銀色のタッセルだ。
「それでクリスとユリエは小太刀をどんな形にしたいんだ?」
「わたくしは小型のナイフがいいわ。ガーターベルトに仕込めるような」
まるでマリーのようだ。マリーは暗器を侍女服という戦闘服に仕込んでいる。もちろんガーターベルトにも仕込んであるのを私は見た。
「私は……かんざしがいいです」
キクノ様の著作『ヒノクニ忍法録』の登場人物に小姫というかんざしを武器にしているくノ一がいるのだ。
なんとなく小姫のかんざしが頭に浮かんだので、口にしてみた。
「リオ。それって小姫みたい」
「クリスこそマリーみたい」
『ヒノクニ忍法録』のファンであるクリスには分かったようだ。
「誰だ? 小姫とマリーっていうのは?」
「どちらも暗器使いだ」
ソータローさんの疑問にレオンがそう答えていた。
私は「くだらない」と言いつつ、レオンがこっそり『ヒノクニ忍法録』を読んでいるのを知っている。
だからこそ、マリーはともかく小姫が暗器使いなのだと断言できたのだ。
私たちの要望どおり小太刀を魔道具に変えてくれるようだ。
ソータローさんに小太刀を託すと私たちは帰路に着いた。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)
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