76.侯爵令嬢は魔法学院の制服を魔改造する
第三部の始まりです。
毎週金曜日7時に更新します。
先ほどからレオンの視線が痛い。
「ここの『防御付与』の刺繍を強化しましょう。あ! ここはちょっと『身体強化』の刺繍と似ているから刺しを変えましょうか」
「そうですわね。刺繍の刺しは私にお任せくださいね、お嬢様」
「もちろんよ。刺繍の腕はマリーのほうが上だもの」
昨日、魔法学院の制服が届いたので、マリーと相談をしながら改造をしている。
十三歳になった私は魔法学院へ入学するために王都のタウンハウスに引っ越しをしてきた。三ヶ月前のことだ。
タウンハウスに来る際、領主館からは専属侍女のマリーしか連れてこなかった。
クリスはというと、王都までは同行してきたのだが、すぐに王宮から迎えが来て渋々帰っていった。
尤も頻繁に会って遊んだり、検閲されないシーリングスタンプを使って手紙のやり取りをしているが。
そして、もちろんレオンも一緒だ。
「おまえたち、制服の改造はその辺にしておけ」
マリーとはしゃぎながら制服をいじっていると、ついに耐えかねたようにレオンが口をはさむ。
「いいじゃない。ある程度の制服改造は認められているわ。貴族令嬢なら皆やっていることよ」
「だからといって、おまえの制服は改造しすぎだ。一国の兵力並みに改造してどうする。そういうのは魔改造というのだ!」
小さな獣姿のレオンが二足歩行で仁王立ちをしている。器用にも前足は両方とも腰に当てられていた。
「もうレオンは口うるさいわよね。頑固おじいちゃんみたい」
「何!? 我をおじいちゃん扱いするのか! 確かにリオよりは少しばかり長生きだが」
いやいや。少しばかりじゃないわよね? かなりだと思うけれど?
「レオン様は少年姿にも青年姿にもなれますものね。年齢は感じさせませんわ」
「ナイスフォローね、マリー。そういえばレオンのおじいちゃん姿なんて見たことないわよね」
おじいちゃん姿のレオンを想像してみる。人間姿は美形だから……。
「きゃー! イケオジ!」
「何を想像しておる? イケオジとは何だ?」
しかめっ面のレオンがさらにまろ眉を顰める。
「フレア様に借りた本に書いてあったの。イケているおじさんの略なんですって」
「また、あやつのろくでもない本を借りたのか」
思い切りため息を吐くレオンから、刺繍を施してくれているマリーの手元へ視線を移す。
魔法学院の制服は濃紺色だ。男子生徒はジャケットとズボンのセットでシャツは自由。女子生徒はロングワンピースと決まっている。
襟元にリボンがついているのだが、学年ごとに色が違う。ちなみに今年の新入生は赤色だ。
制服の縁取りには優美な唐草模様が金糸で刺繍されているのだが、実は刺繍糸に魔法付与がされている。
魔法付与と言っても、一般的な『防御』だ。私は少してごころを加えたかったので、刺繍糸に自分で魔法を付与した。刺繍はマリーが施してくれるのだが……。
可愛い制服だが、貴族令嬢はレースをつけたり、刺繍を華やかにしていたりするのだ。
私も年頃の貴族令嬢なので、もちろん可愛く制服を改造している。
「その鎧のような制服のどこが可愛いのだ?」
「あら? 言葉に出てた? 可愛いじゃない。『サンドリヨン』のレースを使っているのよ」
ほらと裾にふんだんに着けたレースをレオンに向けて指差す。
「我にはS級クラスの冒険者が着けているような鎧にしか見えぬがな」
ふふんと口の端を釣り上げて笑うレオンだ。
「レオンは本当にいけずよね」
「リオは生意気になってきおった。幼いころは『レオン大好き』とか言って可愛かったのにな。ん? そうやって頬をふくらますところは子供の頃と変わらぬか」
いつの間にか私の頬はふくらんでいたようだ。これはレオンのせいね。少し意地悪をしてやろう。
レオンに近づき、もふもふした顔を両手で包み込んで強引に視線を合わせる。
「レ・オ・ン。愛しているわ」
なるべく妖艶に微笑んで見せる。
瞬間、レオンは一リルド(一メートル)ほど飛び退く。
「な! ななな……」
ふふふ。意地悪成功! でも仕掛けた私の顔も熱くなっている。愛を囁くのって恥ずかしいものなのね。
「まだ早い! と何度言ったら分かるのだ!」
手足をじたばたさせながら、レオンが怒っている。もふもふだから顔が赤くなっているかは分からないわね。
「こらっ! 聞いておるのか、リオ!」
「聞いてます。ところでレオンは魔法学院へ通わないの? 王太子殿下から誘いを受けていたでしょう?」
お兄様が魔法学院へ入学する前、レオンは王太子殿下から「魔法学院へ通わないか?」という便りをもらったのだ。レオン本人と家族は「なぜ?」という疑問符を頭に浮かべていた。
結果、「友人が一人でも多くほしいから?」とか「レオンを気に入ったから?」とか。結論は出なかった。
クリスに至っては――。
「ほら! お兄様ってば、あの性格だから真の友人がいないのよね。だから親友を作ろうとしてるんじゃない」とけらけら笑っていた。ひどい言われようだ。実の妹なのに……。
「話を逸らしおって。魔法学院へは生徒として通うつもりはない。聖獣としてリオと一緒に通う」
レオンは飛び退いた場所から動かないまま、座っている。
魔法学院は聖獣を随行することを許可している。レオンは神様なので随行しているのは私の方ということになるが……。
意外と自由な校風だと思うだろうが、主に貴族の自慢用なのだ。
「まあ、猫型だし問題はないと思うけれど」
大きな聖獣ほど立派だと言われている。レオンはオッドアイが珍しいくらいで小さな猫だから、それほど注目はされないと思うけれど。
「問題はあるかもしれませんよ。レオン様はもふもふで可愛いですから、女子生徒を虜にしてしまうかもしれません」
それまで黙って制服に針を刺していたマリーがふふと意味深に微笑む。
「それは問題だわ。レオン、メガネをかけない? 色がとびきり濃いやつ」
「獣姿でもメガネをかけろと申すか」
親しい友人以外にはあまりレオンを触れさせたくないというのが本音だ。
「メガネをかけても猫姿のレオン様だと可愛いだけですよ」
「うっ! 確かに猫姿だとレオンは何を着けても可愛いだけだものね」
うん! 決めた! なるべく令嬢方にはレオンをもふらせないようにしよう。
「お嬢様。制服に『浄化』を付与しても構いませんか?」
「ええ。制服を洗濯するのは大変ですものね。大丈夫! 『神聖魔法』のスキルで隠蔽するから」
再びレオンの鋭い視線が刺さる。
「リオ! いい加減にせぬか!」
「はいはい。これで終わりにするから」
ひらひらとレオンに手を振る。
「返事は一度でよい!」
これで大方の準備は終わった。
一週間後に魔法学院へお兄様と一緒に通うことになる。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)




