閑話・ある少女二人の思惑2
本日もふ神様の第二巻が発売されます。
詳しくは活動報告にて。
Part.1
おかしい。こんなはずではなかった。
待ち焦がれていた魔法属性判定で私は『無属性』と判定されてしまった。なぜなの? 私は光か闇属性で王太子殿下の妃候補となるはずだったのに。何がいけなかったのかしら?
お母様の言うとおり淑女教育を頑張った。魔法に関する本もたくさん読んだ。お父様にお願いして魔法の勉強を教えてくれる教師もつけてもらった。人一倍努力したのに、どうしてなの?
「気を落とすことはないよ。魔法学院に入学してから魔法属性が現れることもあるんだ」
「そうね。ここ三年は真面目に勉強に取り組んでいたし、神様はきっと見ていてくださっているわ」
王宮に登城する馬車の中で両親が慰めてくれるが、耳に入ってこない。
王女殿下主催のお茶会では私は末席だった。家格の違わない男爵家の令嬢三人と同じテーブル席だ。もしかすると、王女殿下と同じテーブル席につけるかもしれなかったのに。光か闇属性と判定されれば、私は王太子殿下の妃候補として、男爵家から公爵家へ養子入りできたはずなのだ。
魔法属性判定玉が壊れていたとしか思えない。そんなことを考えていたら、同じテーブル席の令嬢たちの会話に入っていけなくなった。
王女殿下が座っているテーブル席を見ると、公爵家の令嬢一人と侯爵家の令嬢二人が王女殿下と談笑していた。白銀の髪をした美しい侯爵令嬢は魔法属性判定玉が一際大きく輝き、土属性か闇属性か論議されたらしい。先を越されたと冷や冷やしたけれど、結果は土属性の『植物魔法』だったみたい。ほっとした。『植物魔法』なんて庭師みたい。侯爵家の令嬢なのに将来は庭師かしら? お気の毒。
ご令嬢方がざわめいたので、見ると王太子殿下がこちらへ歩いてくるのが見えた。三年前にお会いした時より背が伸びて、顔も相変わらず綺麗で素敵だ。やはり結婚するのならば、この方がいい。何とかして光か闇属性の魔法を手に入れる方法はないかしら?
王立図書館に行って調べたら何か分かるかしら? いろいろと模索していると王太子殿下が私たちのテーブル席に挨拶にやってきた。ご挨拶をしなければ!
考え事をしていて立つのが遅れてしまった。気が急いたせいで手元のティーカップをうっかり倒してしまった。
「あ。申し訳ございません」
慌ててカーテシーをしながら謝罪をする。周りのご令嬢方からくすくす笑う声が聞こえた。
「まあ! なんと無作法な」
「あの成り上がりの男爵家のご令嬢ですわ」
顔が熱くなるのが分かる。一瞬だけ私を侮蔑した令嬢たちを睨む。
「大丈夫? 火傷はしていない?」
王太子殿下だけが私に優しく声を掛けてくれる。ぽろりと頬に涙が伝う。
「落ち着いて! とりあえず控室に行こう」
王太子殿下と殿下のお友達に付き添われて控室に入る。
「大丈夫かな?」
優しく気遣ってくれる王太子殿下にわっと泣きつく。『無属性』だったことの悔しさと、お茶会で侮蔑された恥ずかしさが一気に涙となって込み上げてきたのだ。
殿下のお友達が軽く諫めているようだが、私はこの温かさに浸っていたい。邪魔しないで!
「落ち着くまで泣くといいよ」
ほら! 王太子殿下もこう仰ってくれているわ。
王都にある屋敷に帰ってから、しばらく王太子殿下の温かさに浸っていた。やはり光か闇属性の魔法を手に入れて王太子殿下の妃になりたい!
屋敷の皆が寝静まった頃、お父様に入ってはいけないと言われた地下の書斎にこっそりと忍び入る。ここになら何か手掛かりがあるかもしれないと考えたのだ。
地下の書斎には鍵がかかっているのだが、こっそり執事から鍵を借りておいた。この屋敷の男性使用人は私の言いなりだ。
書斎に入るとかびやほこりの匂いが充満する。長い間、入ることがなかったのだろう。ランタンを手に奥に進む。
奥の書棚を見ると、一冊だけ輝いている本がある。その本に惹かれて手に取りタイトルを見ると『キャンベル男爵家の軌跡』と記されていた。ページをめくる。
『私の子孫にこの本を贈る。但し、無属性の者のみこの本を理解することができる』
どういうこと? さらにページをめくると魔法陣が描かれていた。魔法陣に手を触れると輝きだし、私の頭の中に先祖の記憶が刻まれる。本の内容全てを理解することができた。
「そう。そういうことだったのね。これで私は王太子妃になれるわ!」
◇◇◇
Part.2
再び彼女に会うことができた。こんなに嬉しいことはない。今度こそは彼女を守る!
彼女は子供の頃から優しい。家族も優しく温かい。
思えば、生まれ変わる前は家が貧しくて売られたり、ひどい虐待を受けたりしたこともあった。できることなら、今回で生まれ変わり続けることをやめたいものだ。
ところで目が開いた頃から面白いものを見ることができた。彼女のそばにおどけた表情の白い獣がいる。もふもふな白い毛に覆われたその姿はともかく、オッドアイの瞳は見覚えがあった。
面白さとともに怒りも覚えた。貴方は前の時間軸で何をしていたの? どうして彼女のそばにいなかったの? そう責めるような眼差しを向けると耳と尻尾が項垂れた。
おそらく、前の時間軸では正しい運命が作用しなかったのだろう。記憶を取り戻せなかった私にも非がある。白い獣の頭をぽふぽふしてやった。おお! 意外と触り心地が良い。彼女に大切にされているのね。
彼女の魔法属性判定の時がやってきた。前の時間軸と魔法属性が違っている? いや。白い獣が授けた魔法のみしか鑑定できないようになっているだけだ。私は置いていかれそうになったので、必死に彼女にしがみついて着いていく意思表示をした。
魔法属性判定では前の時間軸で彼女を陥れた女を見た。なんと悍ましい。あれは今の時間軸でも、また覚醒してしまうかもしれない。危険だ。
だが、魔法属性判定の翌日の会話でしっかり対策されていることが分かった。彼女に前の時間軸の記憶を持たせ、やり直しの機会を与えたのは正解だったようだ。残酷なことだとは理解しつつ、申し訳ないことをしたとも思った。
彼女は驚いたことに、私の使命を今世で断ち切ると決意したのだ。つらい記憶も共有できるからとも言ってくれた。
やはり彼女は優しい人。魂の輝きは変わらず美しい。今度こそ失敗はしないと約束しよう。必ず守ってみせる。
私の大切なお姉様。
第二部はこれで終わりです。
第三部開始はまだ未定ですが、時々番外編を更新していこうかと考えおります。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)