70.侯爵令嬢は時の神様から魔法を授かる
午後からマリーは自分の仕事があるので、レオンと二人で花咲茶作りの研究をしていた。単純に茶葉の中に花を包むだけと思っていたのだが、なかなか上手くいかない。
テレーズさんから花咲茶のレシピももらってきたのだが、私より器用なマリーですら、悪戦苦闘していた。これを作り出したテレーズさんはすごい。
ああでもないこうでもないと試行錯誤していると、空間から時の神様がひょっこりと顔を出した。
「届け物だぞ。ピンポロリン」
次から次へときれいにラッピングされた荷物が空間から出てくる。
「時の神様。これは誰からの届け物なの?」
「クリスやキクノからだ。ピンポロリン」
包みを一つ開けてみると、王都の有名なスイーツ専門店のお菓子が出てくる。察するにこれらの荷物は食べ物ばかりだ。クリスとキクノ様からのお土産だと思う。
「菓子は鮮度が大切だからと俺を運送便代わりに使いやがったんだ。ピンポロリン」
「時の神の『空間魔法』は便利だからな」
『空間魔法』に収納したものは劣化することがないので、確かに便利だ。お弁当を運んでもらうのにも時の神様を運送便代わりに使っていた。申し訳ないと思いながら……。
「そうだ! リオに『空間魔法』を授けてやろうか? ピンポロリン」
時の神様がとんでもない申し出をしてくる。
「でも、時の神様の魔法は魔力量が人並みはずれていないと無理ではないの?」
「今のリオの魔力量ならば問題はあるまい」
器用に茶葉をくるくる巻きながら、レオンが頷いている。
「私の魔力量ってそんなに多くなったの? 自分では分からないわ」
「こういう比べ方はしたくはないが、もう少し成長すればマリオンと匹敵するほどになるだろう」
マリオンさんと匹敵する!? それは全属性の魔法を持てる魔力量になれるということだ。
「時の神様の負担を減らしてあげたいけれど、魔法属性を増やすのはどうかと思うのよ」
「問題はあるまい。ロスト・マジックは人間の鑑定眼では見ることができぬのだ。時の神の魔法はサード・マナにしておけばよかろう」
『空間魔法』もロスト・マジックだとレオンは言う。そういえば使っている人を見たことがない。手紙や荷物は普通に馬車を使って届けられる。ちなみに急ぎの荷物は空を飛ぶ幻獣を使うテイマーに頼むのだ。
「それなら時の神様に魔法を授けていただこうかしら?」
クリスたちが帰ってきたら、鮮度の高いお菓子を出すことができる。
「そうしてくれるとありがたいぜ。シルフィーネ様にも助言されていたしな。ピンポロリン」
「シルフィ様が? それならば尚更授けていただかないといけないわね」
ドラゴンとはいえ、シルフィ様は竜神族の姫、つまり神様だ。何か意味があって時の神様に助言したのだろう。
この場で授けてくれるとのことなので、手を組み跪く。時の神様が私の元にパタパタと飛んでくると、小さな手を私の頭にかざす。
私の頭上がぽうと淡く光った後、魔力が流れ込んでくるのが分かる。だからといって、苦痛ではない。
「終わったぞ。俺にも名前をつけろ。ピンポロリン」
「参考までに聞きますけれど、マリオンさんは時の神様をなんとお呼びしていたのですか?」
全属性の魔法を持っていたマリオンさんは全ての神様から魔法を授かったはずだ。当然、神様たちに名前を付けていたと思われる。そういえば、レオンはなんて呼ばれていたのかしら?
「マリオンはマリオン。リオはリオだ。お前の好きな名前でいいぞ。ピンポロリン」
時の神様はドラゴンの姿だから……。あ! そうだ。ヒノシマ国の言葉でドラゴンのことはこういうのだった。
「リュウ様でいかがでしょうか? ヒノシマ国ではドラゴンのことをリュウというそうです」
「呼びやすいし、いいと思うぜ。ピンポロリン」
ドラゴン特有のシャープな目が優しく細められる。時の神様は今小さなドラゴン姿だけれど、元はかなり大きなドラゴンなのだ。
「魔法を授けてくださってありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします。リュウ様」
「おう! じゃあな。ピンポロリン」
空間に消えていくリュウ様の尾が横に揺れている。
「あやつは余程嬉しいのだろうな」
「え? どうして?」
「尾が揺れていただろう? あやつが嬉しい時に出るくせだ」
それをいうのならば、獣姿のレオンもそうなのだけれど、黙っておこう。
『空間魔法』を使えるようになったので、お土産のお菓子はクリスたちが帰ってくるまで、空間の中に収納しておくことにした。
これから氷の魔石がいらなくなるから助かる。
リュウ様が届けてくれた荷物の中には、キクノ様の新刊『ヒノクニ忍法録四の巻・妖艶なるナメクジ使い』もあった。
自室に戻ったら、読むことにしよう。楽しみだ。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)