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67.侯爵令嬢はもふ弁の構想を練る

 来た時と同じように、神殿近くの山の頂に登った私たちは、持参してきたお弁当を食べることにした。


 今日のお弁当は春らしく、花の形をしたおにぎりとおかずにもいろいろと工夫をしてみた。人参を花の形に切り、青物野菜を葉に見たて、花畑のようなイメージでお弁当箱に並べてみたのだ。

「ふおお! デコ弁なのじゃ!」


「デコ弁とは何なのだ?」


 ふふんと意地悪くフレア様が笑う。


「レオンはデコ弁を知らぬのじゃ?」


「デコ弁はデコレーションしたお弁当の略語よ」


 フレア様に借りた本の中に、物語の主人公である女の子が、好きな男の子にデコ弁を作って渡すというシーンがあったのだ。


 お菓子ではなく、お弁当をデコレーションするという発想が面白かったので、作ってみた。我ながら力作だと思う。


「どうせフレアが持っているくだらぬ本の影響だろうが、彩が良く目を楽しませる弁当だな」


 少年姿に変化したレオンは、おにぎりを手に取ると一口かじる。家族に神様であることを告げてから、レオンは時折食事の際に少年姿で食べるようになった。人間姿だと手が使えるという理由でだ。


「美味い! リオが作る料理はどれも絶品だな」


 レオンに褒められると嬉しい。物語の主人公が好きな男の子にお弁当を渡したい気持ちが何となく分かった気がした。


「デコ弁は手間がかかるのじゃ。よく味わうとよいのじゃ!」


「お前が作ったものではないであろう。なぜ上から目線なのだ」


 フレア様も美味しいと言いながら、お弁当を味わってくれている。


 今度はレオンをモチーフにしたデコ弁を作ってみようかな? 名付けて「もふ弁」だ! まずは白いコメでレオンの顔を模って、肉球は当然つけないとね。でも、オッドアイの瞳の食材が思いつかない。


「……オ。リオ!」


 名前を呼ばれてはっと我にかえる。何か話しかけられていたようなのだが、気付かなかった。つい「もふ弁」の構想に熱が入りすぎて、周りの音が消えていたのだ。


「何を考えておったのだ?」


「次に作るもふ……じゃなかったデコ弁の構想を練っていたの」


 うっかり「もふ弁」と言うところだった。レオンに胡乱な目で見られる。


「もふ? デコ弁? まあ、よい」


「話を聞いていなくてごめんなさい。何のお話かしら?」

「始めから聞いていなかったのだな。今しがた会ってきたテレーズという修道女の話だ」


 デコ弁からテレーズさんの話題になっていたらしい。「もふ弁」のデコレーションの構想に夢中でレオンとフレア様の話題に耳を傾けていなかったことを申し訳なく思う。


「テレーズさんはやはりエルフの血を継いでいたのね」


 話の流れが分からないので、テレーズさんがエルフの血を継いでいるという話題を振ってみる。


「エルフの血を継ぐ者がまだいたのには驚きだ」


「そんなに珍しいの?」


 エルフは高潔な一族なので、エルフの里から出てくることはない。種族の歴史としては竜神王の一族と同じくらいらしい。


「純血のエルフは竜神王の一族同様、里からは出てこないのじゃ!」


「ハイエルフの王族は特にだな」


 エルフは実際に見たことはないけれど、ハイエルフもいるとのことだ。エルフよりもさらに長命らしい。


 ふと好奇心に駆られてレオンに疑問を投げかけてみる。


「本で読んだエルフは美形だと書いてあったけれど、本当なの?」


「エルフに会ったのは何百年も前だが、容姿は整っていたと思うぞ」


 神様は容姿で人間を判断しないと言っていた。きっとエルフも魂で判断しているだろうから、レオンの


「容姿が整っていた」はあまりあてにはできない。


 なかなか会うことがないと言われている竜神王の姫シルフィ様とは偶然会うことができた。いつか偶然エルフに会うことができるといいなと思う。その偶然の確率はゼロに等しいだろうけれど……。

◇◇◇ 


 帰りはレオンの背に乗せてもらった。


「その姿で飛ぶと目立たない?」


「日が落ちてきたから大丈夫だろう。それに幻獣や聖獣が飛ぶよりさらに高いところを飛んでいるからな」


「前に長時間の飛行は難しいって言っていたわよね?」


「あの時は久しぶりだったからな。我も自らに試練を課しておる。今は一日飛んでも苦ではない」


 そういえば、ドラゴンより飛行速度が速かった。七歳の時、背に乗せてもらった時より速いのではないかと思ったのだ。


 上空は空気が薄い上に寒いはずだが、息は苦しくないし、寒くもない。きっとレオンが周りに結界を張ってくれているのだろう。それにレオンの背はもふもふで暖かくて座り心地がいい。


「なぜわたくしも一緒に乗せてくれぬのじゃ!」


 レオンと並走するフレア様は金色の鳥姿でくちばしをくわっと開く。


「お前は自分で飛べるであろう」


「行きはわたくしに乗っていたのにずるいのじゃ!」


「でも、金色のフレア様と白銀のレオンが並走する姿はきれいです」


 シャーっとレオンを威嚇していたフレア様が笑顔に変わる。


「リオに褒められたのじゃ!」


「単純なやつめ」


 ふふんと鼻で笑うレオンだ。


「レオン! 競争なのじゃ!」


 飛行速度を急にあげるフレア様にレオンもピッタリとついていく。


「ふん! フレアに負けるわけにはいかぬ。リオ、しっかり掴まっておれ!」


 フレア様に負けまいと飛行速度を上げるレオンの首をしっかりと掴む。窒息しない程度にだ。もふもふに埋もれて幸せだ! ああ、癒される。

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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[一言] もふもふにまたがって空中散歩?実にうらやまけしからん(笑)
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