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66.侯爵令嬢は『光魔法』の持ち主に会いに行く

少し長めです。

 私は今、小さな獣姿のレオンと一緒に金色の鳥の背に乗り、空を飛行中だ。金色の鳥はフレア様が変化した姿で、大きさはレオンの獅子姿と同じくらいと思われる。


 向かう場所はグランドール侯爵領とは反対側にあたる、王都から南部に位置するライオネス公爵領だ。前世でクリスが賜る予定だった公爵位なので、現在は王家直轄領ということになる。


 二百年前にフレア様が『光魔法』を与えた人間がいるという場所だ。


 出かけるにあたり、レオンに乗っていくというフレア様の意見は却下された。


「お前のうっかりのせいなのだから、責任をとれ」というレオンにフレア様が折れたのだ。


 空に幻獣や聖獣が飛行しているのは、この国では当たり前のことだ。

聖獣を保護している貴族やテイマーの職業を持っている人は、幻獣に乗って出かけることもあるので、珍しいことではない。


「リオは軽いから良いが、レオンが重いのじゃ!」


「神に質量は関係ない。だが、少々負荷がかかるようにしてはある」


「レオンはいけずなのじゃ!」


 神様には質量がないということね。小さな獣姿のレオンはかなり軽いと思ってはいたけれど、私に負荷をかけないためだったのだ。もしかして、獅子姿のレオンでも持ち上げられるのだろうか? いや、やはり無理だ。獅子姿のレオンは質量云々ではなく、私より大きい。抱えることができないだろう。


「まもなく春とはいえ、上空は冷える。リオ、寒くはないか?」


「防寒着を着てきたから寒くないわ」


「寒くなったら、レオンを首に巻くと良いのじゃ!」


 なるほど。レオンの毛並は暖かそうだ。もふもふだから、きっと首回りが暖かくなるだろう。じっとレオンを見つめるとびくりと体が跳ねる。


「フレア! 余計なことを言うではない」


「ふん!」


 レオンのいけずに対する仕返しだろう。でも、もふもふのマフラーいいなあ。

◇◇◇


 ライオネス公爵領は年中温暖で過ごしやすい。ただ温暖な地域なのだが、なぜか作物が育たない。現在は王家直轄領なのだが、ほとんど収入がないと聞いたことがある。


 目立たない山の頂に降り立った私たちは、地道に山道を歩いている。この辺りの山の中腹に『光魔法』の持ち主が住んでいるとのことだ。


 木がほとんどないので、山肌が露出している。おかげで修道院がしっかり見えるので、迷いようがない。


「この領は作物が育たないので、食物はほとんど他領から買っているのよね」


「それは昔、この地を治めていた阿呆な領主がキクノを怒らせたからであろうな」


 あの温和なキクノ様を怒らせた? なんて怖いもの知らずな領主なのだろう。


「土の神の加護を失えば、土地が痩せるのじゃ。作物が育たないのはそのせいなのじゃ」


「いずれクリスがこの地を治める可能性があるのですけれど、どうなるのですか?」


 もしも無事だったのならば、前世のクリスはどうやってこの領を治めたのかしら?


「クリスは『土魔法』の魔法属性を持っている。あの王女であれば再び我が加護を与える。キクノも異存はあるまい」


 そういえば、『風魔法』の魔法属性が強いので忘れていたけれど、クリスは『土魔法』の属性も持っていた。


「それならば安心ね」


 レオンが加護を与えてくれるのであれば、この領は発展するわ。良かったわね、クリス。まだ治めると決まったわけではないけれど。


 目指す建物が見えてきた。荒れた土地の中で一際目を引く。廃れてはいるが修道院の形を保っている。


「うむ。ここなのじゃ! 彼女の魔力が満ちておる」


 修道院の扉をノックする。しばらくすると、白い修道服に身を包んだ修道女が出てきた。フレア様の姿を見ると、大きく目を見開く。


「おお! 貴女様は光の女神様。またお会いすることができるとは思いませんでした」


「うむ。息災で何よりなのじゃ! しかし百年以上経っておるのに元気そうなのじゃ」


 修道女はフレア様の前に跪くと、手を組み合わせる。神様に対する礼だろう。


「私の先祖がエルフと結婚したのです。稀に私のように長命な者が生まれるそうなのです」


 やはり長命の種族エルフの血が混じっていたのだ。目の前の修道女は百歳を過ぎたとは思えないほど若々しく見える。


「そうなのじゃ? エルフの血を受けているとは驚きなのじゃ!」


 知っているのに、すっとぼけるフレア様だ。


「こんなところで神様に立ち話をさせるわけにはまいりません。どうぞ中にお入りくださいませ」


 扉を全開にして、私たちを招き入れてくれた。


 修道院の中に入ると、簡素な椅子が並べられた礼拝堂のような佇まいの部屋がある。


 さらに奥にある部屋に通されると、ソファに座るように促される。


 一旦、退室した修道女はお茶が入ったポットとカップを持ってくると、私たちの前にカップを置く。カップには何か丸い塊が入っており、ポットからカップにお湯を注ぐと塊はふわりと広がり、花となった。


「わあ! きれい。なんというお茶なのですか?」


「花咲茶というのです。この領で唯一栽培できる花を使って作ってみたのです」


 茶葉を糸で束ねて花を包んで作ってみたところ、花が咲くような様が楽しめるところから「花咲茶」と名付けたそうだ。これをバラでできないだろうか? 屋敷に帰ったら、早速実験してみよう。


「ところで、光の女神様。そちらのお嬢さんはどなたでしょうか?」


 自己紹介を忘れていた。慌てて挨拶をしようと立ち上がりかけたところで、フレア様に手で制される。


「わたくしの友達とそのお供のもふもふなのじゃ!」


「まあ、神様のお友達ですか? 可愛らしいお嬢さんともふもふさんですね。私はテレーズと申します。庶民の出ですので家名はございません」


 テレーズさんは微笑ましく私とレオンを見つめて、挨拶してくれる。


「初めまして。私はリオと申します。こちらのもふもふはレオンと申します」


「リオさんはもしかして、貴族のご令嬢ではないでしょうか?」


「……没落しましたので、家名はありません」


 嘘は言っていない。前世では……だけれど……。今はできるだけ身元は明かさない方がいいと思ったのだ。


「身のこなし方や話し方に品がありますので、もしやと思いましたが……何と申しますか……お気の毒です」


 テレーズさんが申し訳ないという風に顔を伏せるので、いえいえと手を振る。


「いえ。光の女神様にお友達と言われて光栄ですし、もふもふ人生を謳歌していますので幸せです」


 私たちがテレーズさんの元に訪れたのは、ある危険性に気づいたからだ。


 シャルロッテの『略奪魔法』が発動した場合、狙われるのは光か闇属性の魔法を持っている人間だ。もちろん複数の魔法属性持ちという可能性もある。


 彼女が前世で『光魔法』を発動したのは十五歳の時だった。おそらく何かしらの方法で自分の一族に伝わる『禁断魔法』のことを知ったシャルロッテは私以外の誰かから『光魔法』を奪ったのだ。


 なぜ私から魔法を奪わなかったのか? 


 奪えなかったのだ。


 シャルロッテが前世どおりの性格ならば、おそらくテレーズさんから『光魔法』を奪うと思われる。可能性はすべて阻止しておかなければならない。


 昨夜、フレア様とレオンと三人で話し合って、テレーズさんを守ろうと決めたのだ。


「光の女神様と再び会えましたことを嬉しく思いますが、私に何か御用があったのでしょうか?」


「うむ。久しぶりにわたくしが魔法を授けた其方が息災か気になったのじゃ。それとこれを渡しに来たのじゃ」


 フレア様は白く輝く飾りのついたペンダントをテレーズさんに渡す。白い飾りはシルフィ様の鱗を加工して作ってもらったものだ。ローラは約束どおり一週間で仕上げて届けてくれた。


『略奪魔法』を跳ね除けるために鱗をテレーズさんに渡すのが今日の目的なのだ。何より同じ『光魔法』を持っている人に会ってみたかった。


「美しいペンダントですね。お守りでしょうか?」


「そのようなものなのじゃ。肌身離さずつけておくのじゃ。特に亜麻色の髪と茶色の瞳の少女には注意するのじゃ!」


 シャルロッテの容姿の特徴まで事細かに話すフレア様だ。亜麻色の髪と茶色の瞳の女性はわりと多いのだけれど、用心にこしたことはない。


「随分、具体的ですね。光の女神様には私の未来まで見えるのでしょうか?」


「そうじゃ! これでも光を司る女神なのじゃ。それとわたくしたちが訪ねてきたことは誰にも言うでないのじゃ!」


 テレーズさんは修道女だ。人の悩み事や懺悔を聞く仕事もしている。それにフレア様に『光魔法』を授けられるほどの人物だ。おそらく口は堅いだろう。


「もちろんです。神のお姿を見たと言っても、なかなか信じてもらえるものではありません」


 少女の頃、フレア様から『光魔法』を授けてもらったテレーズさんは、光の女神様から魔法を授かったと当時はあった神殿の祭司様や両親に話した。しかし、信じてもらえなかったそうだ。


 テレーズさんが子供の頃は魔法属性判定の儀式はなかったそうだ。


 光または闇属性を持つ女性は身分に関係なく、王家に迎えるという風習がこの国にはある。にもかかわらす、神殿の祭司も両親も彼女の言葉を信じていなかったので、王家に連絡がされなかったと考えるのが妥当だろう。


『光魔法』を授かったテレーズさんは魔法の鍛練のため、ここよりずっと奥の山に入り、長い間、そこで修行をしていた。そのおかげで王族はテレーズさんの存在を知らなかったのだ。


 秘境のような山奥での生活は気ままで気がつけば、百年が経過していたという。エルフの血のおかげで長寿ではあるが、晩年は人々の役に立ちたいと山奥から、故郷に帰ったのだ。


 だが、故郷に帰った彼女が目にしたのは、記憶にある光景とは違い、随分と様変わりしていた。


 枯れた土地は農作物が育たず、唯一、茉莉花の栽培だけが盛んで決して裕福とは言えない土地だった。


 テレーズさんはフレア様と出会った修道院を修復するとそこに居を構えた。怪我人や病人に『光魔法』の回復を使って治療をし始めたのだ。


『光魔法』の持ち主であることは領民には告げていないそうだ。


「素敵な贈り物をありがとうございました」


 帰る間際、扉の前で深々と腰を折り、テレーズさんは涙ぐみながら、フレア様にお礼を言っていた。


「また顔を出すゆえ、元気に過ごすのじゃ!」


 フレア様も涙ぐみながら、姿が見えなくなるまで手を振っていた。我が国の守護神様たちは本当に涙もろい。

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 書籍の一巻読みました。 本を読んで謎だった部分も少し解けました。 [一言] 毎日更新楽しみにしてますが、2巻の方も出たら購入します。 早くレオンと幸せになるのを楽しみにしてます。
[一言] このまま無事にシャルロット対策になればいいんですけどね… 物語的には一波乱かな?(笑)
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