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65.侯爵令嬢はあらたな称号を授かる

 姿が見えなくなるまで手を振って見送った後、ふと疑問に思ってレオンに尋ねる。


「ねえ、レオン。逆鱗は貴重なのよね。生え変わる度に抜いていたら、シルフィ様の負担にならないかしら?」


「竜神王の一族の力の源はあの卵型なのだ。竜神族の魔力は膨大だ。しかし、滅多に人前に出てこない竜神族は魔力を使う機会がない。ゆえに定期的に魔力を放出させなければならぬ。逆鱗は魔力の放出場なのだそうだ。昨夜そのように竜神の姫は語っておった」


「逆鱗が魔力の捨て場なのか? それはゴ……ぶっ!」


 キクノ様がトージューローさんの口におにぎりを突っ込む。


「それ以上は神に対して不敬ですよ、彦獅朗」


 トージューローさんが口にしようとしたことは何となく察した。だが、口に出すのはキクノ様の言うとおり不敬だ。


「この鱗って小さく加工しても大丈夫かしら?」


 シルフィ様からいただいた鱗を見つめる。


「無論だ」


 鱗はアクセサリーに加工することに決めた。


「ところでレオン。私たち『ドラゴン殺し(スレイヤー)』という称号がついてしまったようなの」


 倒したドラゴンをフレア様のブレスレットで鑑定しようとした時に、たまたまそばにいたトージューローさんの鑑定結果も出てきたのだ。


 鑑定結果は「魔法属性:風、結界魔法? スキル:『食通』 肩書き:風の神の眷属 称号:ドラゴン殺し(スレイヤー)」だった。


 クリスとお兄様も鑑定してみると、やはり『ドラゴン殺し(スレイヤー)』という称号があらたに追加されていた。自分では鑑定できないが、私もたぶんそうだろう。


「良いではないか。『ドラゴン殺し(スレイヤー)』というのは、ドラゴンを倒した者にのみ付く称号でなかなかいないのだぞ」


「それはいないでしょうね」


 不可抗力とはいえ、ドラゴンには気の毒なことをした。


 シルフィ様に連行されたとしても気の毒なことになっていたかもしれないが……。


「襲ってきたのはドラゴンよ。こちらは正当防衛しただけだわ。気にすることはないわよ」


「そうだぞ。それにドラゴンはいい素材になるからな。狙っているやつも結構多いんだぞ」


 クリスとトージューローさんはさらりとドラゴン殺しを正当化している。


「とにかく! それは終わったことだし、割り切るしかないけれど、問題があるわ!」


「どのような問題だ?」


 口回りに米粒をつけたレオンの口元をぬぐってやる。


「魔法学院に入学する際、もう一度魔法属性判定があるのよ。こんな称号もらってどうしたらいいのよ」


「あ、そういえばそうだわね。こんな称号を見られたら、バカ兄に目をつけられるわ」


 クリスと二人でう~んと頭を抱えた。魔法学院入学前のお兄様も考え込んでいる。


「何、心配はいらぬのじゃ! 称号の部分だけ隠しておけばよいのじゃ」


「そんなことができるのですか?」


 私ははっとする。思い当たることがあったからだ。


 先日教えてもらった「韜晦とうかい」だ。韜晦とうかいとは自分のスキルなどを隠すことができる『神聖魔法』のスキルだ。


 クリスにそのことを教えると驚いた表情になる。


「『神聖魔法』ってそんなこともできるの? すごいわね!」


「リオに称号を隠してもらえば、問題はないのじゃ」


「では、とりあえず問題は解決ね」


 お兄様もほっと胸を撫でおろしたようだ。穏やかな顔に戻っている。


「そういえば、あのドラゴンの弔いをしてあげた方がいいのかしら?」


 私が提案すると、トージューローさんが「何?」という顔をする。


「弔い? せっかくドラゴンを仕留めたんだ。買い取りしてもらおうぜ」


「それがよかろう。ドラゴンをあのままにしておくとアンデッドになってしまい厄介だ。時の神に頼んで運んでもらうとしよう」


 時の神様を呼ぼうとするレオンを止める。


「ちょっと待って! しっかり火葬をすれば大丈夫でしょう?」


「世の中は弱肉強食だ。これは自然の摂理なのだ、リオ」


 ぽふとレオンに肩を叩かれる。肉球の感触が心地いい。


「……お任せします」


 自然の摂理とはそういうものなのか。レオンの言葉に妙に納得してしまった。


 仕方がない。ドラゴンさん、輪廻の帯に乗って、今度は人間に狩られないような竜種に生まれ変わってねとお祈りをした。

◇◇◇


 ドラゴンを倒した翌日、修行の後、クリスとレオンと三人で『サンドリヨン』に行くために出かけることになった。シルフィ様にいただいた鱗をアクセサリーに加工してもらう相談をローラとするためだ。


「結構、雪が深いわね。どうやって街まで行くの?」


 冬でなければ街まで歩いていけるのだが、雪上を歩くのに慣れていないクリスがいる。


「前に見せたトナカイがひくそりに乗って行くのよ」


 エントランスで待っているとしばらくしてから、そりがやってくる。


「わあ、トナカイだわ。しゃんしゃん鳴っているのは何?」


「鈴よ。冬の天候は変わりやすいの。視界を遮られるような吹雪に見舞われることもたまにあるの。鈴はそりが走っていることを知らせるためにつけられているの」


 尤も吹雪に遭遇した場合、その場に停車してやり過ごすというルールが我が領にはある。だが、やむを得ずどうしても走行しなければいけない時は鈴を終始鳴らし続けるのだ。例えば急病人が出て医者の元に連れて行く時など。


 クリスは物珍しそうにトナカイを見ている。うちのトナカイは人懐こい。なぜなら、私がたまに厩舎を訪れてトナカイや馬を愛でているからだ。


「殿下、お嬢様、レオン様、どうぞお乗りください」


 執事長がそりの扉を開けてくれる。


「ありがとう、執事長。行ってくるわね」


「お気をつけて行っていらっしゃいませ」


 進行方向にクリスと並んで座り、レオンは対面に座る。


「馬車のように乗り心地は良くないけれど、我慢してね」


「わたくしはそりに乗るのは初めてだから、面白そうだわ」


 扉が閉められると、緩やかにそりは走り出す。雪上を走るので、馬車の揺れとはまた違う。


 今日のレオンは少年姿だ。対面に座ったレオンをクリスはじっと見つめる。


「あらためて見ると、もふもふ君の人間姿は美形よね。特にオッドアイは目立つのではないの?」


「リオやマリーと同じことを言うな。我には人間の美醜は分からぬが、人前に出る時は色付きのメガネをかけておる」


 ポケットから色付きメガネを取り出してかける。


「それなら目立たないわね。でも人間の美醜が分からないのは問題ね」


「どこが問題だ。魂の美しい人間は姿も美しいはずだ」


 クリスはびしっと人差し指をレオンに突きつける。


「リオが成長して着飾ったらきっと美しいわよ。どうやって褒める気なの?」


 私を褒めてくれるクリスはというと、彼女こそ今も美少女だが、成長するとさらに美しくなるのだ。


「リオは何を着ても可愛い」


 レオンはさりげなく言ったのだろうが、前々世に愛した神様に可愛いと褒められると照れる。


「もういいわ」


 クリスはひらひらと手を振る。どうやらレオンに人間の美醜を説くのは諦めたようだ。それに人間の美しさは姿形だけではない。



『サンドリヨン』に到着すると店の前でローラが出迎えてくれた。あらかじめ今日アポイントをとっておいたのだ。


「リオ、王女殿下、レオン、ようこそ。お久しぶりですね」


 久しぶりに会うローラは相変わらず妖艶な美しさだ。


「わたくしのことも呼び捨てで構わないわ。貴女は火の女神様なのでしょう?」


「では、クリスと呼ばせていただきますわ。それと、今は『サンドリヨン』の店主ですので、私のことはローラとお呼びください」


 了解の意を示すようにクリスは頷く。


「外は寒いですわ。どうぞ中にお入りくださいませ」


 ローラの執務室兼応接間に通される。


「手紙で問い合わせのありましたアクセサリーのことですが、加工は可能です」


 早速、本題に入るローラだ。


「ありがとうございます。これが加工をお願いしたい鱗です」


 シルフィ様にいただいた鱗をテーブルの上に置く。


「これはドラゴンの鱗ですか? ただのドラゴンではありませんね」


「竜神王の姫の逆鱗だ」


 ローラの疑問にはレオンが代わりに答えてくれた。鱗を手に入れた経緯も話してくれる。


「それは貴重な体験だったわね。竜神王の一族に会える機会なんて千年に一度あるかないかの確率よ」


 千年に一度あるかないかの確率に出会えた私たちは、ものすごく幸運だ。


「この鱗をアクセサリーに加工してほしいのです。形はシンプルなもので構いません」


「確かに身に着けるには大きすぎますものね。ですが、この大きさでは加工すると二人分しか作ることができません」


「それで構わない。緊急で身に着けさせたい者は二人だからな」


 ローラは快諾してくれた。一週間後には完成するので、届けに来てくれるそうだ。

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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― 新着の感想 ―
[一言] リオとクリスはドラゴンのアクセサリー装備か… もう無敵だな(笑) しかし…クリスはもうすっかり家族だねww
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