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62.侯爵令嬢は魂の記憶に悩む

 暗い。どこまでも続く暗闇。出口はどこ?


 私は死んだのだろうか?


 また、彼を置いていってしまったのだろうか? 彼とは誰?


 ふと一筋の光が目に入る。手を伸ばすと光の奔流に巻き込まれた。


 そして――。


 唐突に理解した。これは魂の記憶だ。


 私の前世は……。いや、前々世というべきか。


 そうだったのか。それで彼は……。


「……ォ! リオ! 目を開けてくれ!」


 重いまぶたを開くとレオンの姿が目に入ってきた。小さな獣姿のレオンが必死に私の名を呼んでいる。


「レ……オン」


「リオ! 良かった。目を覚ましたのだな」


 心配そうにレオンが私の顔を覗きこんでくる。オッドアイの瞳が濡れているように見えるのは気のせいだろうか?


 私はドラゴンブレスの衝撃で意識を手放した。その後はどうなったのだろう?


「レオン、ここはどこ? あの後どうなったの?」


「お前の部屋だ。ドラゴンブレスで飛ばされ氷壁に叩きつけられたお前は瀕死の状態だった」


 レオンがドラゴンの注意をひきつけ、その隙に時の神様の『空間魔法』で私を部屋まで運んだそうだ。瀕死の私をフレア様が『蘇生魔法』と『治癒魔法』を駆使して助けてくれた。


「クリスたちは?」


「無事だ。すぐに撤退させたからな」


 クリスたちが無事なことに安心する。私が鱗を見つけたせいでドラゴンを起こすはめになってしまったのだ。巻き添えになっていなくて本当に良かった。


「フレアが蘇生させたにもかかわらす、三日も眠り続けておったからな。心配したぞ」


「そんなに眠っていたの。そのわりには体が痛くないわ」


 上質なベッドでもずっと眠った状態だと体が痛くなるはずなのだが、そんなことはない。


「マリーがずっとお前の看病をしていたのだ。いつ起きても筋力が低下しないようにと世話をしていた」


「そうなの。マリーにお礼を言わないとね。マリーは?」


「二晩徹夜で看病しておったからな。今は休ませておる」


 私が目を覚ますまでそばにいると言ってきかないマリーを、ダーク様が眠らせたそうだ。


 懸命な判断だ。不眠不休でいたら、マリーが倒れてしまう。


 目覚める前に見た魂の記憶をふと思い出す。


「レオン……私の前世、ううん、前々世はマリオンさんだったのね」


 オッドアイの瞳が驚愕で見開かれる。


「……なぜ……それ……を……」


 途切れ途切れに紡がれるレオンの言葉。


「魂の記憶を見たわ。マリオンさんであった頃の記憶はないけれど、自分がマリオンさんだったということを悟ったの」


「……そうか」


「レオンは私がマリオンさんの生まれ変わりだと知っていたのね」


「知っていた」


 やはり知っていたのね。だからレオンは私に優しいのだ。


「他の神様たちも知っているのね」


 レオンは何も言わないが、それが答えだ。他の神様たちも私がマリオンさんの生まれ変わりだと知っていた。


 抑えていたものが堰を切った。身を起こすとレオンに向き合う。


「レオンも他の神様たちも私に優しい! それは私がマリオンさんの生まれ変わりだから!」


「それは違う!」


 レオンはぽんと青年姿に変わると、私を抱きしめる。


「何が違うの! 神様は魂で人間を判別することができるのでしょう? 私がマリオンさんの魂を持っていたから、だから優しくしてくれただけ!」


 レオンから逃れようと、体を捩じりもがく。


「聞け! 聞くのだ、リオ!」


 私の両肩を大きな手で掴む。力は決して強くなく、優しい。そして温かい。


 だが、私は耳を手で覆い首を振る。


「いや! 聞きたくない! レオンは私とマリオンさんとどちらが必要なの!?」


「そのようなことは問うまでもない! マリオンはすでに失われた存在だ。今、この時を生きておるのはリオなのだ。リオが必要だ! 大切に決まっておる!」


 そして再びレオンは私を抱きしめる。


「本当に?」


「本当だ。だから、そのような哀しいことを言わないでくれ」


 頬に熱いものが流れる。それは嬉しさから生まれたものだ。


 レオンはマリオンさんではなく、私を必要だと言ってくれた。大切だと言ってくれた。


 堪らず、レオンの背に手を回し、抱き着く。


 しばらくそうしていた。レオンの腕の中で気が済むまで泣いた。


 レオンは優しく私を抱きしめ、泣き止むまで背を撫でてくれた。

 

 私が泣き止んだ頃、コホンと可愛らしい咳払いが聞こえる。


「取り込み中悪いが、わたくしもリオに言いたいことがあるのじゃ」


 咳払いの主はフレア様だった。


「わたくしは最初、マリオンの魂を持つリオに惹かれ魔法を授けた。しかし、レオンの言うようにマリオンはすでに失われた存在なのじゃ。今を生きているリオ自身がわたくしは好きなのじゃ! ダークも他の神たちも同様だと思うのじゃ」


「フレア様……私もフレア様が大好きです」


 ん? レオンの言うとおり? その辺りからフレア様も近くにいたのだろうか? 途端に顔が熱くなる。


「え、えと……まだ疲れているので寝ます!」


「リオ?」


 レオンの腕から抜け出し、布団に潜る。恥ずかしい!


 恥ずかしさと同時に葛藤していたのがアホらしくなってきた。レオンも他の神様たちも私自身を見てくれていたというのに……。

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ仕方無い勘違いだよねー。
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