6.侯爵令嬢はもふ神様を愛でる会を作る
少し更新時間が遅れました。
案の定、晩餐は美味しく食事を味わうことができなかった。今日は王族が訪問したということで、豪華なメニューだったのに……。
王太子殿下は私の家族たちと談笑をしながら、晩餐を楽しんでいた。私はというと、話掛けられれば「はい」「そうですね」と適当に相槌をうつだけだった。
いつもは家族と談笑しながら、楽しく食事をするのだが、今日は楽しめなかった。
晩餐の後はサロンでお茶会をすることになったのだが、私はまだ幼いので自室に帰ってもいいと言われた。王太子殿下は残念そうだったが、私は早くくつろぎたかったので、挨拶すると早々に部屋へ帰った。
「あー! 疲れた」
自室に戻るとソファにぽふっと座り込む。マリーがハーブティーを用意してくれたので、一口飲む。このにおいはカモミールだ。カモミールは心身をリラックスさせる効能がある。最近は花だけではなく、ハーブの名前もかなり覚えたのだ。
「お疲れ様でした。カトリオナお嬢様。ただいま湯浴みの準備をいたしますので、しばらくおくつろぎください。レオン様も一緒に湯浴みなさいますか?」
「うむ。もちろんだ」
マリーは湯浴みの準備をするために、部屋に隣接している浴室へ入っていった。
部屋に戻ってから、レオンは小さな獣の姿で現れた。ずっと姿を消していたのでレオンのもふもふが恋しくなる。レオンを抱き上げて、もふもふを堪能だ!
「あ~癒される」
レオンのもふもふの毛に頬ずりをする。温かくてふわふわして心地いい。姿を消してそばにいてくれたが、やはり姿が見える方がほっとする。もふもふするともっとほっとする。
「今日は頑張ったな。リオ。つらかったであろう?」
「少し……。でもレオンがそばにいてくれたので心強かったです」
「そうか」
目を細めるレオン。微笑んでいるのかな?
「お嬢様。レオン様。湯浴みの支度ができました」
湯浴みの準備ができたのだろう。マリーが浴室から戻ってきた。なんか手がわきわきしている。あ。レオンを洗うのが楽しみなんだな。
* * * * *
翌日、朝食の後、王太子殿下が出立するというので、家族総出でお見送りした。馬車に乗る前に殿下が挨拶をする。
「グランドール侯爵。侯爵夫人。急に訪問して申し訳ありませんでした。楽しい時間を過ごさせていただきました。感謝します」
殿下は軽く一礼する。お父様は慌てて紳士の礼をとる。お母様も並んでカーテシーをした。
「とんでもございません。リチャード王太子殿下。もったいないお言葉です。我が領にご訪問いただき光栄でした」
頷くと殿下はお兄様に顔を向ける。
「ジークフリート。半年後の魔法属性判定の儀式で会おう」
お兄様は紳士の礼をしながら「はい」と答える。殿下は微笑むと私に顔を向ける。カーテシーをしながら、なるべく殿下に目を向けないようにする。目の毒なのよ。天使の微笑みが!
「カトリオナ。ジークフリートの魔法属性判定の儀式の時は君も王都にくるのだろう? その時にまた3人で遊ぼう」
「はい」
曖昧に返事をしておく。貴方とは二度と会いたくありません。お兄様には悪いけど、王都に行く気はない。
* * * * *
午後からは昨日造った噴水の周りにレンガの道を敷くために、散歩と称して森に来ていた。もちろん、レオンとマリー、私の3人でだ。
レンガを魔法で創造するためには作り方と材質を知る必要があった。昨日の噴水を創造した後に思ったことだが、現存する物を創造する時は、実物の材質や性質を知っておいた方が造りやすいのではと考えたのだ。
王太子殿下を見送った後、屋敷内にある図書室に行って『レンガの作り方』というタイトルの本を見つけたのだ。こんなマニアックな本がよくあったなと思う。誰の趣味か気になる。
「え~と。レンガは、粘土や頁岩、泥を型に入れ、窯で焼き固めたものである。粘土と泥は分かるけど、頁岩って何だろう?」
「簡単に言うと泥の岩のことだが、ガーデンの道を造るのであれば、日干レンガでよかろう」
レオンが助言してくれたので、日干レンガの作り方が載っているページをめくる。日干レンガは粘土を固めた後に天日乾燥させて作ると書いてあった。こっちのほうが造るには簡単そう。
噴水の周りにレンガの道を思い浮かべて、大地に魔力を送る。地鳴りがすると噴水の周りにレンガの道が現れる。レンガをじっと見ていたレオンが半眼になる。あれ? なんか失敗した?
「レンガはよくできているが、ところどころに尖った場所があって不格好だ」
「ええっ!? やり直ししないと……」
マリーもレンガを見ていたが、何か思いついたのかポンと手を叩く。
「レンガの形を整えるのは私にお任せいただけますか?」
「何か考えがあるの? いいわ。マリーに任せる」
マリーは手に魔力を溜めるとレンガに向けて水魔法をかけた。尖った部分に細い水の筋が走る。すると尖った部分がなくなりレンガの形が整う。
「すごいわ。マリー! 水魔法にそんな使い方があるなんて」
「ウォーターカッターの応用だな。水の勢いと水量を調整してレンガを削ったのか。大したものだ」
感心した私とレオンは賛辞を送る。マリーは照れくさそうに微笑む。
「お褒めにあずかり光栄です。では残りのレンガの形も整えてまいりますね」
淡々と手早くレンガの形をマリーが整えていく。
「次はいよいよバラを植える段階ね。苗木を創造します」
「花まで咲かせないのか?」
首を傾げるレオン。獅子の姿でも可愛い。猫系の獣ってどんな仕草も可愛く見えるのよね。
「まもなくバラの季節なのです。せっかくなので花が咲くまでの段階を見てみたいのです」
「お嬢様。参考までにお聞きしますが、苗木は色を決めることもできるのですか?」
レンガを整え終えたマリーが質問してきた。レンガの道を見ると綺麗になっている。さすがだ。
「色や種類も自由に創造できるわ。バラの図鑑も持ってきたのよ」
ほらっとバラの図鑑をマリーに手渡す。
お父様に植物図鑑をおねだりした時に、他にも花関係の本を何冊か買ってくれたのだが、その中にバラの図鑑があったのだ。
「それでしたら、色の配置にお気をつけください」
「そうなの? 好きなバラの苗木から植えていこうと思ったのだけど」
きらっとマリーの緑の瞳が光る。バラの図鑑をパラパラとめくると、ローズガーデンのページを私に見せる。
「まずはこのガーデンをお手本にバラを植えてくださいませ。できれば種類も同じもので。色はこのように赤、ピンク、白といったように濃い色から順に並べると見る者の目を楽しませることができるのです」
バラの図鑑を手に切々と語るマリー。色の配置にこだわりがあるのか? 詳しく教えてくれる。
「分かったわ。まずはここの区間に花を咲かせた状態で配置してみるから、色の配置が悪かったら言ってね」
大地に手をかざし、マリーの言ったとおり同じ種類のバラを赤、ピンク、白の順に咲かせていく。我ながらいい出来だと思うのだけど。ちらっとマリーを見る。
「素晴らしいですわ。お嬢様! そうですわ! 帰りましたら、リボンで色の配置を勉強しましょうか? 徹底的にお教えいたします」
異論は認めないという笑みだ。私はこくこくと頷く。ぜひ教えてください! マリー先生。
「それがよいだろうな。リオに任せたら、色の配色が滅茶苦茶なローズガーデンになりそうだからな」
そのとおりになりそうだから、反論できない。
「では、休憩いたしましょう。今日は冷たいハーブティーとスコーンを持ってまいりました」
いつもの笑顔に戻ったマリーは、できあがったレンガの道に敷物を広げ、バスケットからスコーンとハーブティーを取り出し、セッテングしてくれた。
「ハーブティーはエルダーフラワーを使ってるのね。いい香りだわ」
「そのとおりです。ハーブの種類にもかなり詳しくなられたようですね。お嬢様」
エルダーフラワーはマスカットのような甘い香りがするのだ。気持ちを和らげる効能がある。
「このクロテッドクリームも美味しいわ。スコーンに苺のジャムと一緒につけて食べると美味しさ倍増なのよね」
「ふふ。お嬢様は苺が大好きですものね」
「そんなに美味いのか? 我にも両方つけたスコーンを食べさせるのだ」
「すごく美味しいのよ。ぜひ食べてみて」
スコーンにたっぷりとクロテッドクリームと苺のジャムを塗り、レオンに口を開けてもらう。牙はするどいけど、あ~んしたレオンの仕草が可愛くて、私とマリーは顔を見合わせる。
もふもふしたくなるわよねと目で会話をする。
スコーンを食べたレオンは目を見開く。
「うむ。これは美味い! もう一つもらえるだろうか?」
今度はマリーがレオンの口にスコーンを入れる。あの可愛い「あ~ん」は共有しないとね。すっかりもふもふしたい仲間になったマリーと私だった。
そうだ! 「もふ神様を愛でる会」を作ろう。会員はマリーと私の2人だけど……。
バラの配置の仕方は勝手に私が考えたものです。好きな花は好きなように育てるのが一番だと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)